カガクは救いか、それとも呪いか?
「究極のゲームが完成した時、それは もう一つの宇宙となる。」
by アンスガー・カーシェル
どれ程の時が経ったのだろう…
体感では139億年くらい経ったような気がする…
「ほらっ!起きなさい!!」
姉さんに、泥の塊をぶつけられた
乾いていた泥は石とそう大差はないように思う。
「いてて…」
放牧していた牛豚を見守るだけの仕事に飽きて、昼寝をしていた寝込みを襲われたのだ
この退屈さと、時の流れの遅さは尋常ではない。
「ほら、早く 家畜小屋に入れて、もうすぐ夕飯 日が暮れるわ」
「うしぶたハウスと呼んでよ、そっちのが可愛いでしょ?」
「家畜は、家畜よ」
姉さんはキッパリと、言い放った
最近、家畜と呼ぶと命を下に見ていると 怒ってくる連中が街の上流階級にはいるらしい
金持ち達は、食糧確保の時間が浮くから 暇な事を考えるんだろうか?
「バスターがやってくれるよ、ボクより早くて確実だ」
「それは、間違いなくそうね」
姉は、フフンと笑った。
祖母、父と母、年の離れた姉と、歳の離れた妹、そしてバスター
6人と1匹で一家団欒 食事を摂る
祖母の口から、米がこぼれている それを母が拭い スプーンを口に運ぶ
妹の口からも、米がこぼれる それを姉が拭い スプーンで口に運ぶ
ボクは父にブドウ酒をつぐ
「お前も飲むか?」と父は言う
まだだめよ、と母が言う
「もう、彼も立派な大人だ!」と、既に顔が真っ赤になっている父が言う
何度繰り返したかわからない、やり取りだ
実に退屈だが、楽しい時間でもある。
ゴホッ!ゲホホ!!!!!
これさえ無ければ…
「カミラ、水と薬を」
姉に介抱して貰う
ボクは、田舎農民の貴重な若い男手だが
身体が弱かった
力仕事なら姉の方が頼りになった。
まだ、父も母も元気だから良いが
この先どうなるのか…
はぁ、先の見えない不安が一日に何度も襲ってくる
浜辺の波のように…
‥‥‥‥‥?
ボクは海を見た事があっただろうか?
~ 夜 ~
夜、夜だ
夜は落ち着く
闇は全てを優しく覆い隠してくれる。
ボクの罪も、ボクという存在も
悩みにも、世界に蓋をしてくれてるようだ…
バタン!!!!!!!! ガンッ!!!!!ドタドタドタドタ!!!!!!
何の音だろう? 納屋の方が騒がしい…
また、野犬でも入り込んだか?
ボクはまだ それほど深い眠りには落ちていなかったので確認に向かう事にした
家族は誰も起きていない
なんて不用心なんだ。
あの音で起きないなら、優秀な泥棒なら寝込みに盗みたい放題だな
ボクはそう思いながら、軋む廊下を歩いた
納屋に入る
外は少し寒い
血だ…
おびただしい量の血痕
この前、野良猫が喧嘩していた後にも少し血痕があったが
あの比ではなかった
やばい…手負いの獣は、なんであれ危険だ。
ここで、父でも起こしに戻るのが正解だろうが
危機感よりも、好奇心が勝ってしまうお年頃のボクはそのまま納屋を覗いた
血塗れの騎士がそこにいた_。