第三十九話・四霊VS四霊
若頭が天国宮殿に入った時には、お嬢達の戦闘は終わっていた。お互いに体力の消耗が激しいが、死人なので何とかなる。しかしエレンとサレナはそうはいかない。普段ならチャムに歌ってもらうところだが、エレンは気合いで笑顔を作った。
「あら、骸骨退治は終わったみたいね」
若頭はエレンの空元気をすぐ察した。本当は休憩を提案するべきだろうが、若頭はエレンの意志を尊重したかった。
「…メタボに無理をさせるわけにはいかん。先を急ぐぞ」
「分かっとる」
座り込んでいたお嬢は立ち上がり、階段を上がっていく。エレンとサレナはその後に続いた。
先を急かした若頭は、やはり二人のヴァルキリーが心配で、つい野暮なことを聞いてしまう。
「大丈夫か?」
「大丈夫よ。ヴァルキリー隊の隊長だしね」
エレンはやはり無理やり作った笑顔で答え、サレナもコクりと頷く。二人共戦意だけは十分だった。
「そうか」
若頭はこれ以上聞くことはなかった。
四人は大きな扉を開け、メタボと多聞天が戦っていた廊下へ入る。戦いは既に終わっており、メタボは金棒を杖代わりにして休んでいた。
「四天王ゆうても、応龍には勝たれへんかったようやな」
「何言ってんだ? 俺の実力だよ」
事実は応龍に力を解放してもらっているので嘘である。しかし虚勢を張りたがるのが、メタボの悪い癖だ。
「行こうぜ、エンマをぶっ倒しによ…」
「ああ…」
お嬢が頷くと、皆も同様に頷いた。
長い戦いも、エンマを倒すことで終わる。
エレンとサレナは、天国のため。お嬢と若頭は仲間の仇と正しい地獄のため、最後の決戦に臨む。
ヴァルキリー隊隊長という肩書きから、よく天国宮殿を行き来していたエレンが先導する。
そして、獣の雄叫びが聞こえた。鳳凰と麒麟である。その後に爆発音がし、瓦礫が築かれる音が響く。
「もう、戦闘が始まってる?」
「ちくしょう、先走りやがって!」
皆は急いで駆ける。戦いが長引いてしまったという後悔が胸を絞める。
そしてメタボ達が戦場へ駆けつけた頃、倒れた太一を発見した。
「兄貴っ!」
真っ先にメタボが太一の側による。
お嬢達は『謁見の間』で繰り広げられる戦闘を見て、唖然とした。
燃え盛る羽根が舞い、麒麟が闊歩している。そして火柱の囲いの中に、ヤミと亜依奈、チャムが囚われているのが見えた。さらにヤマとエンマが激しく衝突している。
「ヤマ様が戦っていらっしゃる…。加勢しなくちゃ!」
エレンが翼を広げ、飛び立とうと羽ばたく。サレナも続こうとしたが、エレンはそれを止めた。
「あなたは太一君と、ヤッシーについてあげて。麒麟から守ってあげなきゃ」
「…はい。でしたらこれを」
サレナはエレンにジャベリンを二本差し出した。エレンの武器であるランスは増長天に破壊されている。丸腰よりマシだろうと思い、彼女はエレンにジャベリンを託したのだ。
「ありがとう、後ろの守りは任せたわ」
「はい」
サレナはホルダーに入ったジャベリンを握り、太一を見る。彼は今、弟に抱えられていた。
「雅人…。情けないな、兄貴だっていうのに…」
「ったく、喧嘩は俺に任せときゃいいのによ…」
メタボはそう呟き、太一をサレナに預けた。
「本当は戦ったり出来るようなやつじゃねえんだ。守ってやってくれ」
「ええ…。それが私たちの役割ですから」
メタボは微笑むと、戦場に飛び出した。エレン、お嬢、若頭も後に続く。
「残りも来たみたいだね。ま、鳳凰と麒麟をどうにかできると思えないけど」
「無駄口を叩く暇があると思うなっ!」
ヤマの炎の拳がエンマを狙う。しかし一向に当たらない。お互いの攻撃が全く当たらない状況が続いていた。
お嬢はエンマとヤマが戦っている隙に、鳳凰と麒麟を封じようと考えた。
「メタボの応龍とうちの霊亀で鳳凰と麒麟を何とかする。二人はうちらの邪魔されんよう、囮になってくれ」
若頭とエレンは鳳凰と麒麟の前に出た。二体の四霊がまんまと食いつく。
「出でよ、応龍!」
「出でよ、霊亀!」
メタボとお嬢の呼び掛けに応え、応龍と霊亀が姿を現した。ここに、全ての四霊が一堂に会した。
「命を燃やす時が来たのう…、行くぞ!」
「応っ!」
呼び出した途端、応龍と霊亀は鳳凰と麒麟の前に立ち塞がった。
「く、まさか応龍と霊亀が人間に手を貸すなんてね…」
エンマが珍しく苦い顔をした。それを見てヤマは笑みを浮かべた。
「貴様の暴挙を四霊は許しはしないようだな!」
「く…。なら僕のものにすればいい!」
「させんぞ!」
エンマが妖術を唱えようとするのを、ヤマは火球を放ち妨害した。
「私たちもエンマ抑えた方がよさそうね」
「承知っ!」
若頭とエレンがヤマに加勢していく。エレンはジャベリンを投げ、若頭の刃がエンマを捉える。
「邪魔をするなぁっ!」
エンマは炎の壁でジャベリンを灰にし、大太刀を身を翻して避けた。ダメージを与えることは出来ないが、応龍と霊亀を操る妖術を防ぐことは出来る。
「若頭達の頑張りを無駄にすんじゃねえぞ、応龍!」
「分かっておる! 貴様の力、貸してもらうぞ!」
「ああっ!」
応龍は鳳凰に巻き付いた。鳳凰はもがき叫びを上げるが、応龍はきつく締め上げ脱出を許さない。
「ワシも頑張らんとのう!」
霊亀は甲羅に生える木々を急成長させ、それを俊敏な麒麟に絡ませる。四霊の中では小柄な麒麟では逃げ出すことなど不可能である。
天井が破壊され空が露となった空間に、応龍と霊亀は切れ目を作った。それは大きく拡がり、穴となる。
「まさか持国天らにやったことをやるんか!?」
「ああ。このまま連れていく」
抵抗する鳳凰と麒麟を捩じ伏せ、大穴へと引き上げていく。
「バカだね! そんなことしたって、僕の術が解けるわけじゃないんだよ!」
エンマは嘲笑するが、それを打ち消すように霊亀は強かに言う。
「分かっておる。じゃから、ワシ達は地獄を救う勇者に託す。貴様を倒してくれることをの!」
今、エンマ打倒がメタボ達に託された。応龍と霊亀は鳳凰と麒麟を抑えるため、メタボとお嬢に力添えすることは出来ない。
それでも、エンマを倒せると信じて、四霊は穴へと消えていった。
穴は塞がり、四霊が姿を現すことはなかった。
「これで貴様一人だけとなったな、エンマっ!」
ヤマが勝ち誇ったようにエンマを見下す。
鳳凰と麒麟を失い、数の上で絶対的に不利に陥っているのに係わらず、エンマは笑みを浮かべていた。
「僕はエンマなんだ! 地獄と鬼を統べ、炎を司っているんだ! 夜を制するために炎を操る兄さんとは違う!」
エンマ、漢字を当てると『焔摩』となる。この『焔』という字は炎を意味する。エンマは炎の化身でもあるのだ。
ヤマは漢字を当てると『夜摩』となる。意味はエンマが言った通りだ。
炎そのものと、夜を制するために炎を使うもの。
どちらが力を多く持つかは歴然だった。
「教えてあげるよ。地獄を統べるものと、天国を統べるものの違いを!」
エンマの周りに炎が生じ渦を形成した。ヤマ、エレン、若頭は離れざるえない。
そして炎の渦から飛び出したエンマが狙ったのはエレンだった。
「露払いをしよう」
「っ!?」
エレンは身構える。彼女の手に残されたのは、一本のジャベリン。
小回りの良さがウリの小型投げ槍でも、エンマの動きに対応できなかった。
炎の爆発がエレンを吹き飛ばす。
「ごばっ…!!」
エレンは壁に叩きつけられ、気を失った。
「ふん、咄嗟だったから燃えずに爆発しちゃったか。ま、起き上がってこないだろうし、いいか」
「よくもっ!」
若頭、メタボがエンマに飛びかかる。だが彼らの攻撃は当たらない。
エンマは若頭の背後に回っていた。
「っ!?」
気付いた時には、若頭の背中に一筋の痕が出来ていた。それはすぐ火傷となり若頭を苦しめる。
「ぐあっ…」
「邪魔だよ」
エンマは若頭を蹴り飛ばす。壁に背中を打ち付け、若頭は気を失ってしまった。
これで戦えるのはメタボ、お嬢、ヤマだけとなる。
「ふふふ…、応龍と霊亀に選ばれし者達よ。君たちは楽に輪廻の輪から外れられると思わないことだね」
メタボとお嬢は歯噛みする。早く若頭達の仇を取りたいが、圧倒的な力量を見せつけられては、迂濶に攻められない。
だがメタボとお嬢は意を決する。戦いを終わらせるために。