第三十一話・天国宮殿殴りこみ
メタボ達を乗せた応龍は天国宮殿の正門へ彼らを運んだ。巨大な龍の影は宮殿を守る鬼たちを混乱に陥れるには十分だった。
「さて、邪魔な門を取っ払っちゃいましょっか」
「頼むぜエレンさん」
エレンはランスを正門へ構え、矛先に光を集中させる。鬼達は門が開かれてから包囲するつもりなのか出てくる様子はない。
「どっか~ん!」
エレンはランスの光を解き放ちそれは巨大な光の束となり正門を奥に群がる鬼ごと破壊した。
「道は開かれたな」
「さすがは隊長、強引ですね」
「サレナちゃん、それって誉め言葉かしら?」
何はともあれメタボ、若頭、お嬢、エレン、サレナは天国宮殿へと乗り込んだ。しかし直ぐに本館というわけではなく、正門からでは百メートルくらい距離があった。鬼達はエレンの一撃で全滅したのか姿はなかった。あるいは逃げ出したのかもしれない。
だが皆が足を止めてしまうほど、エレンが焦げ跡を付けたこの空間は不穏な空気
を醸し出していた。
「妙やな…。さっきのがいくら強力や言うても、すんなり本館まで通すか?」
「本館に罠を張っている可能性がある」
「ここでごちゃごちゃ言っても始まらねえ。とにかく先に進むぜ」
メタボが一歩進もうとしたとき、突如地震が起こった。地割れが誘発され、その亀裂から巨大な骸骨が現れた。
「がしゃどくろ…。また面倒なのが出てきてくれたわね」
「そうやな」
エレンとお嬢は武器を構える。だが若頭は二人の武器を下げさせて一歩前に出た。
「木偶の坊の相手は慣れている。ここは私に任せて先に行ってくれ」
若頭は背中にある大太刀を外し構えた。
「あらま、決めてくれるじゃない」
「んじゃ、頼んだぜ」
「お願いします」
メタボ、エレン、サレナはがしゃどくろを無視し本館へ向かって走り出す。しかしお嬢は動こうとしない。
「…もう失うんは嫌やからな」
「私はお嬢の道の妨げになる物を切り捨てる。今も昔も、これからもだ」
がしゃどくろの腕がメタボ達へと襲いかかる。すかさず若頭は大太刀を振りかざし腕を食い止めた。
「すまねえ!」
メタボは駆け抜けようとしたが若頭は呼び止めた。
「あの子を頼む」
「…俺には荷が重いね」
メタボはそう言いながらもお嬢が追いつくまでスピードを緩めお嬢を待った。
「すまんメタボ! それから若頭!」
がしゃどくろの腕を押し返す若頭にお嬢は去り際に言いつけた。
「それ切り捨てたら、次の妨げも切り捨ててや」
「…分かった」
メタボとお嬢は一気にスピードを上げエレンとサレナに追いつき、本館へと入っていった。
我ながら、死ぬ直前のようなやり取りだと若頭は笑った。しかし魂を失うことなくお嬢の前に帰らなくてはならない。
若頭は大太刀を握りしめてたった一人、自分の七倍はあろう怪物に挑んでいった。
本館に入るとそこは直ぐホールになっていて、玄関から正面に大きな階段、天井にはシャンデリアなど、パーティーや舞踏会が開かれそうな大きな空間になっていた。しかしメタボ達を迎えたのはその空間に存在するにはあまりに異質過ぎた。初対面なら疑問はここまであっただろう。そう、そこに存在する彼らとメタボ達は認識があった。
「増長天…」
「それに持国天や広目天までいやがる…」
思わずメタボ達は個々の武器を握りしめ戦慄する。倒したはずの彼らが目の前に居ては無理はなかった。
「久しぶりだな、坊主」
「それにお嬢さんも元気そうですね」
「んだよ、ヴァルキリーはいるのにあいつはいねぇのかよ」
倒したはずの四天王達は思い思いのことを口走り武器を構える。
メタボ達にはどうなっているかさっぱり分からない。しかし眼前に武器を構える彼らがいる以上、こちらも対峙する必要があった。それにエレンに取っては好機でもある。
「やっぱり自分の手でケリつけたかったのよね。会いたかったわ、増長天」
「んじゃ、うちは組のもんの仇討ちさせてもらうとするわ」
お嬢は刀の切っ先を持国天に向け睨み付ける。サレナは残った広目天にジャベリンを構える。
「あれ、んじゃ俺は?」
「てめえは多聞天直々にぶっつぶしてもらえよ!」
メタボの疑問は持国天が答え、四天王達は道を作った。一人くらい通しても構わないと思っているのだろうか。
「いいのか? 多聞天倒しちゃうかもしんないぜ」
「いくら貴様が強力でも、多聞天には勝てんさ。信じられんようなら先へ進むといい」
「もちろん」
「メタボ…」
お嬢が不安そうな顔でメタボを見る。彼も大事な地獄組の構成員であり、仲間なのだ。メタボは不安をかき消すような笑顔で金棒を掲げた。
「こいつで多聞天どころかエンマの首も叩き潰してやるよ」
メタボはそれだけ言って四天王達の横を通りすぎ、先にある扉の中へ入っていった。
「アホやな…。格好つけたつもりでも、あんなツラやったらしまらへんな」
お嬢は平生を保つため悪態をつき、敵を見つめた。
「メタボが心配や。早めにカタ付けるで」
「りょーかい」
「ええ」
お嬢、エレン、サレナの三人は自分が定めた相手に武器を構えなおした。持国天たちも武器を構え不敵に笑う。
「ほざけ、四天王三人相手に勝てると思うなよ!」
メタボが入ったのは長い廊下だった。道幅はトラック二台並列走行しても大丈夫そうで、高さもメタボの七倍はあろうかという、廊下にしては異常に大きな空間だった。柱の一つ一つに明かりを灯すための蝋燭、大きなステンドグラス。そこに描かれるのは天使と鬼の戦い。造りはまさしく西洋の宮殿で、奥にはその空間を拒絶するように最強の鬼が佇んでいた。
「…ここに描かれているのは、世界創造の伝説だ。この戦いで負けた鬼たちが暗い地獄を管理させられ始めたそうだ」
メタボはステンドグラスの絵に注目する。確かに天使にやられている鬼が多く描かれていた。
「許せないのだよ。天国でのうのうと暮らす天使が鬼より勝っているなど」
コツ、コツ、と足音を立てて多聞天はメタボにゆっくり近付いていく。
「故に私は証明したいのだ。鬼は天使より勝っていると。その証拠として天国は鬼たちで管理する必要があるのだよ」
御大層に語る多聞天をメタボは鼻で笑った。メタボにとって、そんなことはどうでもいいのだ。
「地獄すらまともに管理出来てねえくせにほざいてんじゃねえよ」
多聞天はメタボの言い分を否定することなく受け止め、武器を構えた。白虎の印が刻まれた刀である。
「そうだな。貴様らを地獄に叩き戻すことで、そのミスは帳消しにさせてもらおう」
「その御大層な言葉使い、うざってえよ。さっさと倒してエンマの首もらうに行くぜ!」
メタボも武器を構えた。そしてどちらからともなく、二人は激突した。