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彼の世  作者: ハスキー
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第三十話・合流

 メタボは信じられない者を見た。それは自分の兄だった。彼は確かに天国に行ったので、ここにいてもおかしくはない。だが、こんな偶然があるものなのだろうか。

「どうしたんや、メタボ?」

「兄貴だ、兄貴がいたんだ!」

 自分の兄が近くにいる。そうはっきり認識すると知らず知らずメタボは兄に向かって走っていた。

「あれは…」

 太一の方もメタボに気がついた。地獄に落ちたはずの弟が自分に向かって駆けてくる。

「雅人! どうしてここに!?」

「霊亀ってバカでけえ亀に乗ってきたんだ。兄貴はこんなとこで何を…」

 メタボは太一の周りにいる人物を見回した。妖精チャムを連れ、ブロンドのお姉さん(エレン)と茶髪のお姉さん(サレナ)に囲まれ両手に花を実現している。

「ハーレム真っ最中!?」

「再会して間もなく言うことがそれか!?」

 太一にしてみれば久々に会った弟の突拍子のない言葉に驚くばかりだが、エレンはケラケラ笑い、サレナは赤面して困惑していた。

「面白い弟さんじゃない?」

「いえ、ただのアホですよ」

「誰がアホだコラ!」

「お前に決まってるだろ!」

 今にも兄弟喧嘩が始まりそうな勢いなので、エレンとサレナが割って入った。

「まあまあ、それより弟くん。あなた霊亀がどうのって面白いこと言ってたわね?」

「そのことについては私から説明させてもらうよ」

 エレンたちが振り向くと、いつの間にか側まで来ていた地獄組がいた。地獄の囚人に夜叉、エレンはただ脱獄した者達ではないことを直ぐに見抜いた。

「なるほど、ワケアリさんってわけね」

「お互いにね。自己紹介がてら、近況話していこうじゃないか」

 皆は各々自己紹介し、近況を話した。地獄で持国天、広目天を撃破したこと、応龍、霊亀に協力を得られたこと。天国側は、エンマに天国を奪われてしまったこと、エリュシオンに避難していること、増長天を倒し別の占領地へ向かっている最中だったことなど。

「それでだ亜依奈さん。やっぱりあのお方について話すことはできないのか?」

 皆の視線が亜依奈に集まる。彼女は観念したのか、視線を皆から外し、重い口を開いた。

「まあ、隠し通すもんでもないしね。…私はヤミ様の側近なんだ」

 ヤミ、このワードに反応したのはエレンとサレナだった。

「ヤミ様って、天国皇女様の…」

 亜依奈は頷いた。

「私はヤミ様の命で地獄にサグリを入れてたってわけさ。まあ、裏目に出てあんたらに迷惑かけたみたいだけどね」

「申し訳ないのはこっちの方よ。天国を守るのがヴァルキリー隊の使命なのにこの様だもの」

 エレンとサレナが深々と頭を下げた。

「責任感じるのもいいけどさ、やらなきゃなんないことあるんじゃないの?」

 謝り合戦になりそうなのでメタボが割って互いの謝罪を終わらせた。双方も納得し頭を切り替える。

「そうだね。天国宮殿にいるエンマを何とかしないと、ここでの謝罪なんざ意味がなくなるしね」

 皆は作戦を立て始めた。

 天国宮殿に乗り込むこと自体はそれほど難しいことではない。応龍と霊亀がいるし、エレンとサレナはワープ(ラダマンテュスの許可がいる上、体力による制限付きだが)できる。

 問題はそのあとだ。エンマ、多聞天の撃破、ヤミ、ヤマの救出が目的である。全員で固まってエンマ、多聞天の撃破に向かうとヤミとヤマを人質に取られ不利になる。

 そこで、多聞天、エンマを撃破する部隊と、ヤミらを救出する部隊とに分けることにした。

「問題はどう分けるかってことですね…」

 サレナが頭を悩ますのも無理はない。多聞天とエンマが強いのは言うまでもなく、彼らの部下も相当強いことが予測される。ヤミ救出にしても当然看守はいるだろう。彼女らほどの重要人物なら看守にどんな強者を配置してもおかしくはない。

「救出班に人数は割けまい」

 若頭の言う通り、出来れば目立たず救出し相手の有利な条件を潰しておく方が望ましい。

「それじゃ私が勝手に決めさせてもらおうかね」

「ああ」

「救出班は私、ヤッシー…」

「え、俺をご指名かい亜依奈さん?」

 ヤッシーは不思議そうな顔をしたが、直ぐに合点がいった。きっと救出する折りに牢屋の鍵を開けさせる気なのだろう。

「ピッキングの腕を期待してるよ」

「ああ、任せてくれ」

「んじゃ、最後に…」

 亜依奈は太一を指差した。太一とチャムは亜依奈の指先を見つめた。

「って僕!?」

 太一は亜依奈に指名された事実に気付き仰天した。

「いや、坊やというより、そっちのフェアリーさね」

「私?」

 チャムは選ばれた理由が分からなかったが、エレンは納得した。

「なるほど。歌の使い方次第じゃ、救出にはもってこいね」

 チャムの歌で看守達を眠らせれば迅速にヤミとヤマを救出することが出来る。

「じゃあ僕はおまけですか…」

「まあ兄貴ヒモみてえだから仕方ねえよ!」

 メタボは大笑いしながら太一の肩をバシバシ叩いた。こんな弟に我慢出来るわけは当然なく、太一はメタボにつかみかかった。

「ちょ、太一くん!」

「メタボも無駄に挑発すんなっての!」

 サレナは太一を、ヤッシーはメタボを取り押さえる。

「くそぉっ! ここぞとばかりに見せつけやがって!」

「落ち着けメタボ! 妬んでるようにしか見えないから!」

 ヤッシーはメタボを太一から引き剥がすことに成功したが、まだ飛びかかりそうなので離さないでいた。

 決戦前とは思えないほど、穏やかな空気が流れていた。この兄弟はこんな血生臭い世界にいるべきではない、そう思わせた。だがそれを口に出すのは憚られた。

 今さらエリュシオンで休めと言っても聞くような者ではない。亜依奈とエレンそれぞれがそう思えた。

「話の腰が折れてもうたけど…、エンマ撃破はうち、メタボ、若頭、エレン、サレナやな」

「エンマを倒す、か…」

 サレナが緊張の面持ちで頬に手を当てた。四天王の一人でしかない増長天に苦戦した自分に何が出来るか想像できないのだ。

「心配すんなって! 俺もお嬢も若頭も強いからよ!」

 メタボはそう言って笑ってみせた。聞いた話でしかないが応龍に認められ、持国天を倒した少年の笑みは心強かった。

「それじゃ、行くとしようかね」

「おう!」

亜依奈は玄武を呼び出し、メタボは応龍を呼び出した。



 四霊はまさに世界を駆ける存在である。天国、地獄間はもちろん、現世にだって行けてしまう。それはタルタロスとて例外ではない。エンマは麒麟の力を使いタルタロスへ進入した。

「酷いところに幽閉されたものだね」

 壁に直接打ち付けられた手枷と足枷に繋がれた持国天がエンマを見る。

「エンマ様…」

 持国天は焦燥しており、声を絞り出すのがやっとだった。

「退屈な時間はお終いだよ」

 エンマは刀で手枷と足枷をたたっ斬った。

「さて、広目天と増長天のところにも行ってやらないとね」

 エンマは酷薄に笑うと次の牢に赴いた。



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