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彼の世  作者: ハスキー
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第二十三話・太一VS増長天

 太一は少し立ち眩らんだ。その様子を見てサレナとチャムは初めて彼を心配した。慌てて側に駆け寄り、サレナは太一を支える。

「大丈夫、太一君?」

「無事なようで何よりです…」

 支えられているというのに他人の心配をする太一を見てサレナは微笑んだ。

「チャムのおかげで私は平気。それより太一は?」

「ちょっと疲れただけですよ。…チャム、疲労回復は頼めるか?」

 チャムはこくんと頷き癒しの詠唱を始めた。

「ありがとう。サレナさんももういいですよ」

「え?、ああ、そうね」

 サレナは太一の肩を支えた手を、少し名残惜しそうに離した。

 ひとまず敵はいなくなり一段落と思った矢先、一筋の大きな光が三人の目に唐突に入った。

「サレナさん、これって!?」

「ええ、エレン隊長のビームね」

「あんなおっきなの当たったら四天王でも倒しちゃうんじゃないの?」

 チャムは嬉しそうに飛び回りながら言った。太一もそれに同意する。

「ともかく行ってみましょう。チャムの言う通り、決着がついてるかもしれません」

「そうね…」

 サレナはなまじ前回の戦いの結果を知っているだけに楽観視できなかった。むしろ最悪の結果さえ想像できる。

「サレナさん…?」

 黙り込んだサレナを太一は不思議に思い彼女の顔をのぞきこむ。少しの間が開いてからサレナが太一の顔が間近にあることを認識する。

「きゃあ!」

 思わずサレナは仰け反った。

「いや、そんなに驚かれても困るんですが…。とにかく行ってみましょうよ?」

 そう言って太一はサレナの手を引こうとする。

「そうね、行ってみないと分からないものね…」

「何か言いましたか?」

「ううん、行ってみましょう」

「はい!」

 サレナは太一の良い返事を聞くと彼を抱えた。当然太一は慌てふためく。

「ってちょっと!?」

「善は急げよ。チャムも私に掴まりなさい」

「分かった!」

 サレナはチャムが自分の肩に掴まったのを確認すると、翼をはためかせ一気に光が発した場所、廃墟と化した劇場まで飛んでいった。

 サレナは太一を降ろし、劇場へと近付く。瓦礫を踏み砕く音がしたと思ったら、直ぐに嫌な鈍い音がした。人が殴られた音だ。サレナの血の気が引いていく。

「行きましょう!」

 太一の言葉にサレナは頷きで答えることしかできなかった。急いで劇場の中に入る。そして皆が目撃したのはエレンが瓦礫に沈んだ瞬間だった。それを認識した太一の叫びが木霊する。チャムは太一の肩に掴まり、サレナはへたり込んでしまった。

「なんだ? 囮の奴らまで来たのか?」

 左手に血を滲ませ、右腕を焦がした増長天が太一たちを睨む。その剣幕に萎縮してしまったサレナはバッと太一の手を掴む。

「逃げましょう!」

「サレナさん!?」

 太一には彼女の訴えが理解できなかった。それにエレンを倒された怒りで太一は満ちていた。

「離して下さい! やられたいんですか!」

「ダメ、無理なの、分かって! 逃げて!」

「サレナさん…?」

 サレナの異常な取り乱れように太一は戸惑った。しかし増長天は歩みを進めてくる。

「言っとくが逃がしゃしねぇぞぉ? 俺の部下片付けてここまで来たんだ、ちったぁ楽しませてもらえんだろ?」

 増長天は薄く不敵な笑みを浮かべてゆっくり近付いてくる。さすがに太一も恐怖を感じたが、逃げるわけにはいかないと判断できるほどには冷静だった。

「サレナさん、戦うんだ。逃げたって無駄だって分かるでしょ?」

太一は優しく宥めるように囁く。だがサレナは無言で首を横に振るだけだ。

「チャム、サレナさんを頼む」

「…分かった」

 チャムが頷くと太一は無理矢理サレナの手を引き離した。

「太一君っ!」

 太一はサレナの言葉を顧みず増長天へと挑んでいく。

「まずてめえからか。いいぜ、かかってきな!」

 増長天の言葉を口火に太一は一気に駆け出しチャクラムで増長天に斬りかかる。拍子抜けするほど簡単にチャクラムが増長天の身体に刺さる。しかし太一も増長天も以後動こうとしない。

「どうしたの太一! 早く離れて!」

 しかしどれだけ斬り抜いて逃げようとしてもチャクラムは増長天の身体から離れそうにない。

「このっ! 取れろ!」

「無駄だぜぇ、そんな武器じゃ俺はびくともしねぇなぁ!」

 増長天は太一の頭をわしづかみぶん投げた。

「太一っ!」

 チャムが悲痛な叫びを上げ、サレナは目を背けた。太一の身体は瓦礫の山に埋まる。だが直ぐに這い出てきた。

「へえ、人間にしちゃ根性あるじゃねぇか」

「僕は死人だ。痛いけど殺られることはない」

 太一は身構える。華奢でその姿が増長天には不恰好に見え、笑い飛ばした。

「けっ、確かに今のてめえはいくらぶっ倒しても立ち上がってきそうだな。だがな…」

 増長天は刺さったチャクラムを抜き捨て、落ちてあった金棒の柄の部分を拾った。その柄の先には鎖がついているが、エレンのビームで溶かされたので途中までしかない。

「こいつは魂を潰すことができる。さっきの奴のせいでなりはこんなだが、てめえを倒すには十分だろ」

「言ったな…」

 丸腰だと思っていたから太一は少し余裕があると考えていた。唐突にそれは崩れさってしまった。しかし太一は逃げ出すわけにはいかない。まず武器を手にしなければ、フェアシュテーエンの能力は発揮されない。

「来ねぇのか? ならこっちから行くぜ!」

 増長天が武器を振るうと鎖が伸びて太一へ迫る。咄嗟に身を屈めてそれを避ける。

「まだまだ行くぜぇ!」

 増長天はまた鎖を伸ばし攻撃を続ける。これを避けながらチャクラムを回収するのは至難だと思った。しかしやらなければ勝機はない。なんとか太一はチャクラムに近付こうとする。

「危ないっ!」

 チャムの声のおかげで眼前に迫る鎖に気付いたが、既に遅かった。太一の腹部に鎖が叩きつけられ、身体は宙を舞った。

「ぐはっ!」

 地面に叩きつけられ吐血する。太一は血を見て魂が削られているような気がした。この攻撃は何回も受けられない。視界を他に向ける。

「ん?」

 太一は見覚えのある武器を手にとった。それを杖代わりに立ち上がる。

「ち、運のいいやつだな。さっきのやつの武器かよ」

 そう、太一が手にしたのはエレンのランスである。これなら増長天にダメージを与えられる。それは彼の焦げた右腕が証明してくれていた。

「勝負はこれからだ…」

「へっ、面白くなってきたじゃねぇか…」

 太一はランスを構え増長天と対峙した。



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