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彼の世  作者: ハスキー
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第十九話・エレン

 増長天、エレンにとって一度不覚をとった相手である。そのことを知るのは彼女を救出したサレナとラダマンテュスと自分自身だけである。士気に関わるからとエレンが口止めしているのだ。

「四天王って強いんでしょ? それをたった四人で討ちにいくなんて…」

 太一には四天王という単語は聞き慣れないが強いということだけは分かる。もしその四天王が今回の天国侵攻の指揮を執っていたとしたらかなりの手練れであることは確かだ。

「大丈夫だって。太一には私が…、ソルジャーソングがあるんだし」

「簡単に言うなよ! 三下の鬼でもギリギリだったんだぞ!」

 太一にはチャムの軽い言い方に苛立ちを覚えた。無論チャムはあまり戦意を削がないよう気をつけて言っただけで軽い気持ちなんてない。だが太一にそこに気付く余裕はなかった。

「まあ、自信無いなら私が稽古つけてあげるからそうカッカしないの」

 そう言ってエレンは太一に抱きついて頭を撫でた。

「!?」

 太一は気恥ずかしさでパニックになった。

「ち、ちょっと離れて下さい!」

 一瞬このままでいいと思った考えを振り払い太一はエレンを押しのけた。

「あらら、機嫌直ると思ったのに。けど、ちょっとは落ち着いた?」

「…ええまあ」

 太一は大人しく頷いた。確かに冷静になるとさっきの自分はらしくなかった。

「すまない、チャム」

「いいよ。私も軽薄過ぎたし」

 チャムは太一の頭の上に乗って微笑んだ。太一は悪くない気がした。

「私も事を急ぎ過ぎたようだ。すまないな、太一君」

 ラダマンテュスも頭を下げて謝罪した。

「だが時間がないのも確かなのだ。こうしている間にも天国は着々と地獄に占領されている」

「けど、今のヴァルキリー隊の戦力じゃ地獄の軍勢には勝てない…」

 サレナが痛切な表情で言葉を放った。彼女だけでなく先の天国での戦いに参加した者全てが分かりきったことであった。

「ああ、だから皆にも己を高めていってほしい。エンマの目的は分からんがあまり時間がないことには変わりないだろうが…」

「大丈夫です! 古今東西悪が栄えた日はありませんから」

 エレンがラダマンテュスの懸念を払拭するように言った。それに根拠なんてものはないが力強さはあり皆を勇気つけた。太一はだからエレンは隊長なんだと思った。

「エレンくんの言う通りだな。太一君、色々と疲れただろう。部屋を用意させた

のでそこで休むといい」

「はい、ありがとうございます」

「エレンくん、サレナくん、頼めるか?」

「はい」

「お任せあれ。太一君、ついてらっしゃいな」

 エレンは太一を手招きした。太一はラダマンテュスに一礼しそれに応じ宮殿を後にした。



 エレンに案内されたのは宿舎の離れだった。エリュシオンは元々多くの人間が来る場所ではない。ゆえに休息できるような家屋が現状では十分になかった。

「ごめんなさいねぇ。これでも無理してつくった場所なんだけど…」

「はあ…、まあ贅沢はいいませんよ」

 太一はとりあえず腰を下ろした。エレンとサレナも座り込む。

「そんじゃ、立て続けで悪いんだけど戦うって言ったんだから知ってもらうわよ」

太一はごくりと生唾を飲み込んだ。登場から一貫して妙に高いテンションだったエレンがトーンを落とした。きっと何かあると太一は思った。

「まずどこと戦争してるか分かるかしら?」

「地獄…でしょ?」

 太一は初めての戦闘を思い出した。好戦的で戦闘天使ヴァルキリーよりも強い印を受けた。

「そう。何故だか知らないけどエンマ様直々に天国に攻めてきてね。私たちが駆けつけた頃には天国宮殿に鬼の大部隊が展開されていたわ」

「どうして大部隊になる前に食い止められなかったんですか?」

 天国と地獄がそう簡単に行き来できるものでないくらい太一は簡単に予想できた。なのでヴァルキリー隊がホームグラウンドであるのに大部隊を展開されるのは想像できなかった。

「それは、敵に四霊を召喚できるやつがいたからよ」

「四霊?」

「鳳凰、麒麟、霊亀、応龍のことよ」

「鳳凰と麒麟くらいしか聞いたことないな…」

 それに知っていると言っても名前だけで四霊と呼ばれることはもちろん、どういった存在なのか全く知らなかった。

「四霊はね、世界の狭間を守るものなの。彼らを手懐けることが出来れば自由に天国と地獄を行き来することができるわ」

「じゃあエンマは鳳凰だか麒麟だかを?」

「手にしたってことになるわね、悔しいけど…」

 エレンの表情が曇る。太一はそれだけで今天国が大変なことになっているか想像できた。

「それじゃ続きを、私たちの不甲斐なさを話すみたいだけど…」

 太一は黙って聞き続けた。エレンも構わず話を続ける。その後のヴァルキリー隊と鬼の軍勢との戦いをエレンは増長天と戦い敗れたことは伏せて話した。太一の士気に関わると思ったからである。

「まあこうして大敗しちゃったわけ。こっちは全軍撤退しちゃったから天国全域占領も時間の問題ね…」

 エレンが自嘲的に話を終わらせた。誰だって自分の恥を話すのは辛い。

「でも、広い天国を占領ってことは敵の戦力も分散されますよね?」

「まあ、地獄の管理だってしなきゃなんないからこれ以上増えるってことは考えにくいしねぇ」

 太一はサレナの方を見る。

「サレナさん、天国とエリュシオンなら自由にワープできるんですか?」

「まあ、ラダマンテュス様の許可があればだけど」

 急に饒舌になった太一に皆は戸惑った。

「太一、急にどうしたの?」

「いや、話を聞く限りじゃ数で負けたっぽいし戦力が分散されてるなら奇襲すれば要所を取り返すことくらいはできるんじゃないかなって」

 太一は控えめに言ったが瞳は輝いていた。それを見るとエレンは増長天のことを話した方が良かったかと少し後悔した。

「…ラダマンテュス様もそう考えてるわ。肉を切らせて骨を断つってやつ?」

 太一は微妙に違う気がしたが頷いた。

「そうか、時間がないと言いつつ稽古の時間をくれたのは占領仕切って鬼が気を緩むのを待っていたのか」

「まあね。言われる前に気付くなんてたっちゃんやるぅ~」

「たっちゃんは止めて下さい…」

 エレンは笑っているが太一は本気で嫌がっているようだった。

「でも奇襲をかけるにしても相手は大物よ」

「四天王ですね…」

「そう、偵察出してるから鬼の動きだけは随時分かるようになってるから、相手

を間違えることはないわ」

 太一は一瞬苦い顔をしたがそれでも決意は固かった。

「それじゃ、稽古はビシバシいくわよ!」

「はい!」

 皆は立ち上がり表に出た。果たして短い時間の中で太一はどれだけ強くなることができるのであろうか…。



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