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彼の世  作者: ハスキー
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第十八話・エリュシオン

 メタボの兄、早川太一は天国で鬼と天使の戦争に巻き込まれ、紆余曲折あってフェアリー族と呼ばれる天使のチャム・ピープルと行動を共にしていた。鬼との戦闘に勝った二人はヴァルキリー隊副隊長シャロンの指示に従って逃げていた。

「逃げろって言われても、当てがあるのか?」

「もちろん。天国には中央都以外に東西南北に四つの都市があるの」

「そこだって狙われてるかもしれないじゃないか」

「いくらなんでも五つの都市同時攻略なんて無理。エンマ様でもね」

 急ぐよ、そう言ってチャムは前を向き羽根を忙しなく動かし先を急いだ。太一も遅れないようについていく。

「けどまた戦う場合だってあるんだろうな…」

「そうね…」

 二人の声が沈む。辛くも勝つことが出来たとはいえ、こちらにはもう武器はない。チャムのソルジャーソングで能力を底上げしてもらったとしても襲われて勝てるかどうか分からない。

「とにかく見つからないように気をつけよう」

「うん」

 二人は歩みを進めた。もう戦闘は終わったのか不気味なほど静かである。もういくら進んだのか分からない。死者でなかったらとっくに体力の限界が来ているだろう。輪廻転生を待つため時間の感覚が麻痺しているのが救いだと太一は思った。

「人影一つないな。本当にこっちであってるのか?」

「あってるはず…、なんだけど…」

 チャムの歯切れが悪い。太一の不安を掻き立てるには十分だった。

「おいおいしっかりしてくれよ」

「分かってるよ! でもしょうがないじゃん」

 二人が口論していると一人のヴァルキリーが降り立った。

「良かった。まだ生存者がいたのね」

 そのヴァルキリーは安堵し優しい笑顔をしてくれた。その笑顔に二人もまた安堵した。

「私はヴァルキリー隊のサレナ・ダーミッシュ。あなた方をエリュシオンへ案内するわ」

「エリュシオン!?」

 チャムは心底驚いた。太一は何のことだか分からない顔をしている。彼女が驚くのも無理はない。エリュシオンは生前多大な功績を残した魂、または天国、地獄で責務を全うした魂しか行くことを許されない極楽の地とされていたからだ。

「ラダマンテュス様が緊急事態だからと特別の処置をして下さったの。今は避難場所になってるわ」

「そうだったんですか」

 チャムはラダマンテュスに感謝した。非常時だというのに不謹慎だと思ったが、どうしてもエリュシオンに思いを馳せてしまう。

「さあ掴まって」

「はい!」

 チャムはサレナの肩に止まる。

「僕は?」

「んー、ちょっと手荒で悪いんだけど…」

 サレナはゆっくり太一に近付く。太一は少し恐怖を覚え後ずさる。しかし一瞬でサレナは太一を両腕で太一を抱えた。要はお姫様抱っこである。

「ちちょっと!?」

 もちろんのこと太一は困惑している。だがサレナはそんなこと気にせず翼をはためかし始める。

「何処に鬼がいるか分からないから、飛ばしながらワープするわね」

「はい!」

 チャムはしっかりサレナの肩に掴まる。それを確認するとサレナは思い切りスピードを出して飛んだ。そんな中太一は意見を出せるはずがなかった。

「ワープ!」

 空間がねじれ気がつくと、一見天国と変わらないが、神々しさというか、雰囲気が天国より洗練された気が太一はした。

「ここがエリュシオン…」

 チャムは目を輝かせ辺りを飛び回り始めた。全く知らない太一ですら雰囲気に充てられているのだから、チャムの興奮も無理はない。

「降ろしていい?」

「え、ああどうぞ!」

 ついエリュシオンに浸っていてお姫様抱っこされていたことを太一は失念していた。急に恥ずかしさが込み上げ直ぐに降ろしてもらう。

「それじゃ、ラダマンテュス様のところに案内するわ」

「はい!」

 チャムはサレナの肩に乗る。サレナは微笑み太一を手招きし案内した。

「着いたわ」

「おお…」

 言葉を失うほどの立派な宮殿が太一の眼前にあった。それだけでラダマンテュスという人物の寛大さを物語っているようだった。

「ようこそエリュシオンへ」

 奥から声が聞こえた。チャムはサレナの肩を離れ、サレナは跪いた。太一もそれにならう。しかし目線だけは微かに上を向かせた。そのためラダマンテュスが出てくるのを見ることが出来た。金髪の綺麗な美男であった。貧弱な語彙で語るなら美術の教科書に載るような彫刻と言ったところか。ともかく太一はそんな印象を受けた。

「私がここを管理するラダマンテュスだ。皆顔を上げ楽にするといい」

「はい」

 サレナと太一は立ち上がった。

「君が鬼を倒したという人間か?」

「はい。でもそれはチャムのソルジャーソングのおかげです」

「だろうな。だが人間の中では強い部類だろう」

 太一はラダマンテュスの言葉が引っ掛かった。ソルジャーソングは皆を強くするのではないのか? そんな疑問をぶつける間も無くラダマンテュスは話を続ける。

「そこで相談なんだが、君も天国を取り戻すために戦ってくれないか?」

「え?」

 当然太一は困惑した。ラダマンテュスはそんな太一を見てさらに話を続ける。

「ソルジャーソングによってフェアシュテーエンを発動させたのだろう?」

 さらに太一は分からない顔をする。ラダマンテュスは視線をチャムに向けた。

「フェアシュテーエンの説明はしていないのか?」

「逃げ回るのに必死でしたから…」

 チャムは焦り気味にこう告げた。

「では私の口から説明しよう。ソルジャーソングでパワーアップ以外に特殊能力が付くのは知っているか?」

 確かチャムがそんなことを言っていた気がする。太一はこくりと頷いた。

「その特殊能力は個人によって違い、フェアシュテーエンというのは珍しい能力なのだ。この能力は如何なる武器でも達人級に扱うことが出来るようになる能力で、鬼の雑兵ごとき直ぐ様倒すことが出来る」

 太一は直ぐに思い当たった。シャロンのランスを握った時の感覚である。戸惑い過ぎて直ぐ様倒す、とはいかなかったが。

「つまりこの特殊能力を引き出せる君は、チャムがいれば即戦力になるということだ。しかも心強いな」

 確かに戦闘訓練無しにああまで戦えたのだからそうなのだろう。不安はあるが力があるなら使わないのは卑怯だと太一は思った。それに地獄の連中が攻めてきたというなら、その地獄にいる弟が気にかかった。

「分かりました。戦わせて下さい」

「ありがとう、そう言ってくれて助かる」

 ラダマンテュスは一礼した。太一もとんでもないとばかりに一礼した。

「ではこの武器を授けよう」

 ラダマンテュスが指を鳴らすと天使が風変わりな武器を持ってきた。有り体に言えば輪っかに刃がついている。

「これはチャクラムという、遠近両方で使える武器を目指して開発されたものだ。扱いが難しく使い手のなかった武器だ。だが君なら使いこなせるだろう」

「ありがとうございます」

 太一は天使からチャクラム用のホルダーをもらって付け、そこにチャクラムを入れた。

「では次にチームメイトを紹介しよう。出てきたまえ」

 出てきたヴァルキリーを見てチャムは仰天した。

「エレン隊長!?」

「はぁ~い。ご機嫌いかが?」

 太一はポカンとしていたが、隊長と呼ばれるからにはそうなのだろう。シャロンは副隊長なので上司になる。太一はそこに驚いた。

「なんか失礼なこと考えてないかな?」

「そんなことないですよ。早川太一です。よろしくお願いします」

「よろしくねぇ~」

 二人は握手を交わした。

「さて、エレンを隊長とし太一君、チャム、サレナの四人は四天王の一人…、増長天を討ってもらいたい」

「ええ!?」

 太一は素で驚いてしまったがエレンを始め皆はやる気十分であった。



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