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彼の世  作者: ハスキー
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第十六話・忍者

 百々目鬼の敗北を知った広目天は亜依奈の元へ向かった。大百足を倒したメタボたちには鬼を仕掛けさせた。これで邪魔をされず亜依奈と戦える。広目天は幻術で消していた扉を現せて亜依奈がいる部屋に入った。

「流石は亜依奈ですね。年月があっても、あの頃から差が埋まらなかったということですか」

 亜依奈は広目天の言葉が勘にさわった。

「あの子は一生懸命に戦った。上司のあんたが悪く言うんじゃないよ!」

 広目天は亜依奈の激昂を上回る剣幕で亜依奈を見る。

「分かっていますよ。何分こういう性分でしてね。口が悪いのです。ですが、態度で示せば彼女も分かってくれるでしょう」 

「あんた…」

 亜依奈はなまじ百々目鬼の妖気から二人の関係を見てしまっているので、広目天の剣幕に萎縮した。

「百々目鬼がずいぶん貴女の体力を削ってくれましたからね…。倒すことは造作もないでしょう」

 広目天は(げき)と呼ばれる先が十字になっている槍を構えた。

「ち…」

 亜依奈はふらつきながら金棒を構える。

「はぁっ!」

 広目天は一気に間合いを詰め一撃を加えようとする。が、間一髪避け金棒を振り回す。

「そういえば、仮面を外した貴女を見るのは初めてですね」

「それが何だってんだい!」

「その美しい容姿を変えぬよう、一撃で仕留めて差し上げますよ」

 広目天は戟を構えて突撃する。また避けるも、退く間もなく追撃があるため避け続けなくてはならない。普通の槍より十字の横の部分があるだけ、ダメージを受ける範囲が広い。縦を食らわなければ致命傷にならないが、横部分の刀身で切り傷が徐々に増えていく。

「ちょこまかと小賢しいですね。ですがいつまでもそうしていられないでしょう!」

 広目天は亜依奈を蹴り飛ばした。亜依奈はすぐ立ち上がるものの金棒を杖代わりにし、衰弱していた。

「これで終わりですね。せめて一突きで殺して差し上げますよ」

 ゆっくり近づき広目天は戟を構える。力を入れ、亜依奈を突こうした刹那、誰かが割って入ってきた。

「お前は…」

 亜依奈は自分の代わりに刺さっている者の姿を見た。

「無事か…?」

 ぶっきらぼうに安否を聞いたのは忍者である。

「死人なら大丈夫と思って割って入ったのでしょうが…、残念でしたね。これは死人の魂を突き刺すことが可能です」

「承知の上だ…」

 忍者は自力で戟を抜き取り突っ返した。

「無事で良かった…」

 忍者は倒れた。そして跡形もなく消えてしまった。魂が失われたのである。

「炎虫から逃げおおせたことは賞賛しますが、馬鹿な真似をしたものです」

「広目天…!」

 亜依奈は歯をくいしばり広目天を睨み付けることしかできなかった。



「さて、忍者を助けに行こう!」

「おう!」

 皆は意気揚々と扉に向かう。しかしタイミングを見計らったように上から鬼が降ってきた。

「ち、足止めか?」

「つかこの建物の構造どうなってんだろ」

 メタボとヤッシーは武器を構えた。

「待て! こいつらの始末は私とヤシマドルに任せてもらおう」

「え? なんで俺をお誘い?」

 ヤッシーは不思議そうに首を傾げたが、皆はその気である。

「私たちで先陣を切る。その隙に!」

「分かった!」

 事態をようやく飲み込んだヤッシーは若頭と共に鬼に斬りかかった。

「てりゃあ!」

 若頭の大太刀が鬼を薙ぎ倒していく。ヤッシーのドスも地味に鬼の屍を積み重ねていく。

「今のうちや!」

「ああ!」

 若頭とヤッシーが作ってくれた道を突き進んだ。

「お嬢、必ず忍者を…」

「分かってる。任せとき」

 メタボは思い切り扉を開き、炎虫の部屋へ入った。しかしそこは閑散としており、忍者はいなかった。扉はこれ以上逃がすまいと鬼が閉めたようだ。

「ち、どういうことだよ…」

 焦げた跡や虫の死骸があるだけで忍者の姿は見当たらない。

「メタボ、この穴!」

 お嬢が指差したのは最初に大百足が亜依奈を連れ去る時にできた穴だ。

「なるほど、一人になった亜依奈さんを助けに行ったわけか」

 メタボが穴を覗き込むと亜依奈が広目天に戟を突きつけられている場面だった。仮面は着けていなかったがすぐに分かった。それを理解した瞬間、メタボは穴に飛び込み、広目天を金棒でぶん殴った。

「がはっ!」

 広目天は横にぶっ飛び地面を擦っていった。

「亜依奈さん!」

「ありがとう、けど忍者が…」

 遅れて穴に飛び込んだお嬢が合流した。

「忍者がどうしたんや!?」

 見渡しても見当たらない忍者に悪い予感がお嬢の脳裏に過る。

「あいつにやられた…、私を庇って…」

「な…!?」

 二人は絶句した。あんなに強い忍者がやられるなんて、何かの間違いだと思いたかった。だが亜依奈の表情がそれを間違いだと言わせてくれなかった。

 お嬢は刀を抜き鞘を投げ捨てる。

「絶対許さへん…!」

 広目天は起き上がり戟を構えながらゆっくり近づいてくる。

「あなた方は後回しです。亜依奈を殺さないとこちらの気が済まないんですよ」

 広目天は亜依奈を睨み付ける。お嬢は刀を広目天に向けて叫んだ。

「そんなん知るか! うちはあんたをぶった斬りたいんや!」

 広目天はお嬢に視線と戟の矛先を向けた。

「では、邪魔者を倒して亜依奈の命をもらうことにしましょうか」

「メタボ、亜依奈さん頼むわ」

「ああ、って刃こぼれしてんじゃなかった!?」

 お嬢は駆け出し広目天に斬りかかる。だが戟で弾かれてしまった。千里眼で見抜かれてしまっているのだ。

「大したスピードですが、この千里眼の前では無力です。というかそんな刃こぼれした刀で挑むとは、舐められたものですね。」

 お嬢は間髪入れずに二撃、三撃と加えようとするが全て弾かれてしまう。広目天は防ぎながら饒舌に解説をする。

「それに戟は普通の槍と違ってこのように刀を防げます。無論リーチはこちらが上です。あなたの攻撃が届くことはないんですよ」

満足そうに解説を言いお嬢を蹴り飛ばした。お嬢はすぐに立ち上がり刀を構える。

「じゃあまず、刀なんとかしよか」

 お嬢が目を閉じ神経を研ぎ澄ますと、刀が光だし刃こぼれが直っていった。

「ほう…」

 広目天は興味深そうに様子を眺めた。

「なるほど、烈獄丸はあなたが盗んだんですね」

 お嬢はニタっと笑った。



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