第十四話・大百足
お嬢らが武器を構えると大百足が先手を打とうと突進してきた。皆は散り散りになってそれを避けた。
「あっぶねー、あんなんまともに喰らっち堪んないぜ」
メタボは冷や汗を流し大百足が突進した跡を見る。地面はえぐれ大きな穴となっていた。
「あんなもん、ヤマタノオロチに比べればなんてことないわ」
お嬢はそう吐き捨てるが、内心不安に思っていた。ヤマタノオロチの時は忍者の絶対的な火力のおかげで終止符を討つことが出来たものの、今回は忍者がいない。
「メタボ! 持国天倒したんやろ! 何とかしろや!」
「そうしたいけど無理っぽい!」
安定した高い攻撃力が期待出来ない以上、メタボの爆発力を期待するしかないが、不安定すぎてあまりにも頼りなかった。
「ち、これじゃ足手纏いが二人や」
お嬢が悪態を吐くとメタボが彼女の肩に手をおいた。
「大丈夫、俺らでもやりようがある。ヤッシー!」
「なんだ!」
ヤッシーが大百足の突進を避けてメタボの方へ駆け寄った。するとメタボは有無を言わせぬ早業でヤッシーを投げ飛ばした。大百足は目標を宙を舞うヤッシーに絞り突進する。
「今のうちだ! 切り刻め!」
「「おう!」」
お嬢と若頭は大百足の腹部に当たると思われる部分を切り刻んだ。その衝撃で大百足の上部で巻きつかれていたヤッシーが解放され地に落ちた。
「あれ、なんで上から降ってくんの?」
「お前が投げたからだろうがっ!」
ヤッシーは尻を擦りながら急いで大百足から離れる。
「しぶとい虫やな、けどダメージはあるやろ」
お嬢の言う通り、ヤッシーを解放してからずっとのたうち回っている。しかしヤマタノオロチに引けを取らない巨体がのたうち回るのだから危なくて近づくことができない。
「だが治まるのを見計らって同じことを繰り返せば確実にダメージはたまってくぜ」
笑顔で親指を立てるメタボの腕をヤッシーは下ろさした。
「俺の身がもたんわ!」
そうツッコむヤッシーの肩の上にお嬢は手を乗せた。
「大丈夫、盗賊やったお前ならきっと逃げ切ることができる」
本気で言ってんのかこの人、ヤッシーは怪訝そうな顔でお嬢を見るがどうも純粋無垢な目をしている。
「信じてるで」
こんな目を向けられて、断れるわけがあるだろうか。少なくともヤッシーは断る術を持ち合わせていなかった。
大百足は痛みが引いてきたのか徐々に大人しくなり体勢を整えていく。ヤッシーに期待の目が集まる。メタボの手がヤッシーに乗る。
「行こうか、ヤッシー」
「…ああ」
うなずくしかなかった。哀れヤッシー、またもや宙を舞っていった。
「よしお嬢、若頭! 今のうち!」
大百足がヤッシーに気を取られているうちにお嬢と若頭は先程と同じ場所を切り刻んだ。そしてついに大百足の胴体を切断することに成功した。
「よっしゃ、一旦退くで!」
落ちてきたヤッシーを若頭がかかえ、安全な位置まで離脱した。
「けどこういうのって、だいたい二つとも動き出して襲ってくるんだよな」
そんなヤッシーの言葉に呼応するように、切断されてから沈黙を保っていた二つ大百足の身体は動き出した。
「ヤッシーのアホ!」
「俺のせいですか!?」
若頭は素早く反応し、ヤッシーとお嬢を抱えて飛び退いた。
「すまん」
「ありがとう」
「謝罪も礼も不要だ」
ちなみにメタボはというと、下の部分に襲われたのだが、金棒で返り討ちにしていた。
「お前そんな芸当できるなら早くやれよ!」
「いや、自分でもできると思わなくって。どうもエンジンかかるのに時間かかるみたいだ。それより第二派が来るぜ」
それを聞き皆が身構える。どうやら二つ一辺に襲ってくるようだ。
「俺とヤッシーで下半身を狙う。お嬢と若頭は上半身を狙ってくれ」
皆が分かったと頷く。
「よし、行くぞ」
メタボの合図で皆が動き出す。お嬢と若頭飛び上がりは大百足の頭部の顎に斬りかかった。だがお嬢は力不足で押し返されてしまった。
「きゃあっ!」
「お嬢っ!」
若頭は片方の顎を斬り落とすことに成功したが、お嬢救出には間に合わない。お嬢はそのまま地面に叩きつけられてしまった。大百足は片方の顎を無くした衝撃でお嬢らと反対側に倒れた。その隙を見て一旦若頭はお嬢を抱えて退いた。
ヤッシーはドスを投げて下半身の大百足を牽制し、出来た隙を突いてメタボは金棒でぶん殴りぶっ飛ばした。そして若頭に抱えられているお嬢を見ると二人はすぐ駆け寄った。
「お嬢!」
「平気や。なんせもう死んでるんやからな」
平気という言葉通りお嬢の身体には傷一つなかった。しかし刀は酷い刃零れを起こしていた。
「なんて硬い顎なんだ…。これじゃ俺のドスなんかじゃ太刀打ちできない」
ヤッシーは自分の武器を見つめ無力さを痛感する。
「でも飛び抜けて硬いのは顎だけだろ。じゃあそれ以外を狙えばいい」
「それに私の剣は顎を斬った。対抗手段が無いわけではない」
大百足の上部は片方の顎を失った衝撃にまだ苦しんでいる。しかし下部は体勢を立て直しメタボらに襲いかかろうとしていた。
「こいつを殴り殺すにゃ無理がある。俺が隙を作るからたたっ斬れ!」
「承知!」
メタボが走り出し、若頭が少し遅れて駆け出す。大百足はメタボに狙い剥き出しになった身体の内部にも構わず、その身を打ち付けようとしてくる。メタボはそのグロテスクさに気分を害しながらも、気合いで金棒を上へ吹き飛ばすように攻撃を当てた。大百足の下部は綺麗な直線のように垂直に上へ飛ぶ。
「うおおおおおっ!!」
叫びながら若頭は飛び上がり、大百足と同じ高さのところで大太刀を縦に振り下ろした。
「一刀両断っ!!!」
その言葉通りに若頭はそのまま大百足を縦に真っ二つに斬り裂いた。若頭の着地と同時に大百足も地に着いた。そして大百足の下部は動き出すことはなかった。
「まずは半分」
若頭とメタボはハイタッチを交わした。お嬢とヤッシーは呆気に取られて二人を見ていた。
「おい二人共! 片割れが動き出したぞ!」
ヤッシーの叫びに応じメタボと若頭は大百足を見る。片方の顎を失った部分から体液を流しながら二人に牙をむく大百足の姿があった。
「メタボ、片方とはいえあの顎がある以上さっきの手は使えんぞ」
「分かってる。なにかいい手は…」
メタボは何かを見つけた。知らぬ間に口元が緩んだのを自覚できた。
「ヤッシーにお嬢、時間稼ぎをしてくれ。若頭は俺が合図したらたたっ斬ってくれ」
「ってどうする気だよ」
「いいから頼んだ」
そう言うとメタボはすっとんきょうな方向へ走り出した。
「おい! 仕方ない、お嬢やりますぜ!」
「ヤッシーと組むのはアレやけど、しゃあなしや!」
二人は二手に分かれ大百足を翻弄し始めた。お嬢は超人染みたスピードを有し、ヤッシーも盗人稼業からかそこそこのスピードを持っていた。
メタボは目的の物にたどり着きそれを抱えるとジャイアントスイングの要領で回し始めた。
「ヤッシー、お嬢もういい! 退け!」
二人はメタボの指示通り大百足から離れた。
「行けえええっ!!!」
メタボはそれを投げ飛ばし、見事命中し突き刺さった。投げ飛ばした物は若頭が斬り落とした大百足の顎だった。大百足は壁に張り付けられた状態となり身動きが取れなくなった。
「今だ若頭っ!!!」
「合点承知っ!」
若頭は駆け出し飛び上がった。そしてさっきと同じように真っ二つに斬り裂いた。下部と同じく斬り裂かれた大百足は動き出すことはなかった。
「勝った…」
若頭が示す通り地獄組の大勝利となった。