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彼の世  作者: ハスキー
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第十二話・修行

 お嬢たちが穴を抜けると、そこには平野が広がっていた。奥が霞んで見えるほどこの空間は広かった。

「スゲぇ…。どうなってんだこりゃ?」

 キョロキョロ辺りを見渡すと二回ほどお世話になった巨大な亀をヤッシーは発見した。

「亜依奈さんあれって…?」

「ああ、玄武だよ」

「そんなことより、ここどこなん? 地獄とはなんか雰囲気違うみたいやけど…?」

お嬢の疑問は最もで地獄には育たないはずのまともな植物が雑草とはいえ存在したり、お嬢らが知る地獄とは違って見えた。

「ここは玄武の間。玄武の住みかだよ」

 亜依奈が言うには玄武を始めとした四獣は極めてあの世に近いものの別空間に住んでおり、何らかの理由で四獣に認められた者だけが入れる空間らしい。

「ここなら追っ手が来ることもないし、思う存分修行が出来るだろ」

「ありがとう、亜依奈。お言葉に甘えて思いっきし使わせてもらうわ」

 そう言うとお嬢は忍者を連れて走り出し、修行を開始した。

「ではヤシマドル。付き合ってもらう」

「大剣相手はつらいけど、付き合いますよ。じゃあなメタボ」

 若頭とヤッシーはお嬢らとは別方向へ走り出し、修行を開始した。

「さてと、じゃあ私の相手はあんただね」

「あんたはよしてくれよ、俺には早川雅人って名前があるんだから」

 亜依奈小さな声で早川雅人の名を呟いた。聞き覚えでもあったのだろうか。

「メタボでいいだろ? そう呼ばれてんだからさ」

「ちぇ、まあいいけどね」二人は金棒を構えた。もうここで修行を始める気でいるようだ。

「行くぜ亜依奈さん!」

「来い!」

 メタボと亜依奈の金棒が衝突し鈍い金属音が響く。



 四天王の一人広目天が管轄する大叫喚地獄の館。

「広目天様、持国天様を倒した一行の行方が分からなくなりました!」

「分かっています! 私の千里眼でも分からないんですから! 玄武…、厄介ですね」

 広目天の額の眼が妖しく眼光を見せる。これは千里眼といい、広い地獄中を見渡すことが出来る優れ物なのだ。それゆえ広目天は担当する地獄の管轄だけでなく地獄全体の監視も行っているのだ。

「四獣の間では私たちは手も足も出ません。ですが、地獄に反旗を翻すなら真っ先に狙われるならここです。亜依奈がいるなら直接ここに攻めてくることだってできます。各員警戒を怠らないようお願いします」

 鬼達は会釈するとすぐに自分の持ち場に戻っていった。それを見計らったように女の鬼が姿を現た。

「広目天様、もし亜依奈が現れたのなら、是非私に相手をさせて下さい」

「百々目鬼とどめき…、いいでしょう。借りを返したいのなら返しなさい」

「ありがとうございます。では監視に戻ります」

 百々目鬼は身体中の眼を開きそのやる気を示し、持ち場に戻っていった。

「さて、私はヤタガラスの記憶を解析しなければ」

 いくら千里眼で地獄中を見渡せると言えど、見たもの全てを記憶出来るわけではない。無意識でただ見えているだけの部分は多いにある。そのためヤタガラスは地獄中を飛び回り広目天の記憶の補完をしているのだ。



「てりゃ!」

「なんの!」

 ヤッシーは若頭の攻撃を避け続けている。本来ならヤッシーと若頭は比較出来ないほど技量差があるが、若頭は慣れない武器でその差が縮み互角に見えているのだ。

「若頭、そりゃちょっとひどくねぇですかい?」

 ヤッシーが言うように確かに若頭の動きのキレが悪い。

「さすがにこれだけの大太刀、振り回すのが精一杯だ。」

「振り回すってより振り回されるって言った方が正しいような…」

 普段冷静な若頭でもヤッシーのこの言い様には青筋を浮かばせた。

「その言葉、後悔するなよ?」

 ヤッシーはしまったと思ったが時既に遅し。

「ふんっ!」

「おわっ、ちょ、た、タンマ!」

 大太刀の一閃がヤッシーの小刀を真っ二つに斬った。「し、洒落になんねぇよ若頭!」

「む、私としたことが…。得物の数が少ないというのに。ヤシマドルの腕でも斬り落とせばよかったか」

ヤッシーはゾッとした。いくら亜依奈に回復してもらえるといってもあんまりである。

「回復してもらえるって言っても痛いっちゃ痛いんだぞ!」

「それくらいの痛みに耐えなければこれからの戦いやっていけるものか!」

「それとこれとは話が別でしょう!?」

「問答無用!」

 ヤッシーは斬られても直ぐに回復してもらえるよう亜依奈の方に逃げた。


「何やってんやあいつら…」

「………」

 お嬢と忍者は武器を交えながら二人の様子を眺めていた。



 修行を一時中断し、今後の方針を決めることにした。

「他の牢に掛け合い仲間を集めるのはどうだ?」

確かに地獄の鬼たち全て相手にするには絶対的に数が少ない。だがこれをやるには大きな障害がある。

「確かにそれはやるべきだけど、広目天を倒さないと難しいね」

「広目天?」

「地獄の監視官だよ」

 亜依奈は簡単に広目天について説明した。

「じゃあ仲間集めようとしたら直ぐに見つかっちゃうってこと?」

「そうだよ。それに持国天との戦いを見てるだろうから、いざ戦うとなっても厄介だ」

「なに、うちらが持国天の時より強くなればええんや。そのための修行やろ?」

お嬢は自信満々に刀を掲げた。ヤッシーはその自信の出どころが分からなかった。

「まあそういうこと。けど、あんまり時間はかけられないよ。エンマが何か企んでるんだからね」

メタボは持国天の最後の言葉を思い出した。はっきり何をするかは分からないが、絶対に止めなければならない。

「亜依奈さんの言う通りだ、さっさと強くなろうぜ!」

「言われんでもそのつもりや!」

「私はこの大太刀を使いこなせるようにならなければ…」

メタボが持国天を倒したことによりヤッシーは完全に置いてきぼりになっていた。戦いになるなら武器の火事場泥棒くらいしかやることがないと思うが…。

「ちくしょー、俺だって戦ってやる!」

「ほう、なら私の大太刀の修行相手になってくれ」

「そ、それは勘弁してくれ!」

こうして皆気合いを入れて各々の修行を行った。そして広目天攻略の日が近付いてきた。

「亜依奈さん、作戦は?」

「玄武で広目天の館に奇襲をかける。これしかないね」

 普通に乗り込んでも千里眼で簡単にバレてしまうので、直接広目天の目の前に現れ一気に叩こうと言うのだ。

「よし、修行の成果見せてやろうやないか!」

「お嬢やる気満々じゃねぇか。亜依奈さん、玄武呼んでくれよ」

 各々の士気は十分で目の前に広目天がいたら襲いかかりそうな雰囲気である。

「じゃあ行くよ、玄武! 我らを広目天の館へ導きたまえ!」

玄武は皆を乗せると光を纏い消えた。



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