第十一話・仲間入り
地獄などあの世の住人は殺されなければ死ぬことはない。殺されたあの世の住人の魂は何処にいくかというと、地獄より深い位置にあるタルタロスという場所にいく。そこの統治者ハデスによって審判を受けるのだ。
メタボに倒された持国天やその配下の鬼達、若頭に倒された鍾馗やお嬢と忍者に倒されたヤマタノオロチなどがハデスの審判を受けていた。
「死者の反乱で死んだとなれば普通エリュシオンに送るんだが、今回は事情が違
うようだな?」
ハデスは持国天に分かりきった質問をした。タルタロスの統治者たる者、どうしてここに来たのか、その経緯などすぐに分かるものなのだ。
「貴方の前で嘘を申せるはずがございません。私はエンマ様に忠義を尽くしたま
でです」
「そういうと聞こえがいいがな。お前はその忠義とやらの向かう先を間違えた。エンマもつくづく下らぬことを考えたものだ」
持国天はエンマをバカにされて苛立つがハデスとは絶対的に力の差がある。そこで腰低くハデスに聞いた。
「お言葉ですが、貴方もエンマ様のお考え分かるのでは?」
ハデスは嘲笑した。その矛先は持国天には分からなかった。分かりきった愚問をする自分なのか、エンマなのか、人間なのか。
「私はエンマほど絶望していない。貴様らは暗く何もない牢屋で輪廻転生を待つがいい」
持国天やその配下の鬼達はハデスの部下、一つ目の巨人サイクロプスによって連行されていった。
ハデスはエンマの蛮行を知っている。持国天の他に、天国の戦闘で死んだヴァルキリー隊兵士などもタルタロスに来ているからだ。どんどん死者が来ている以上その審判のため、自らエンマを止めに行くわけにはいかないが、その代わり根回しはしようと考えた。地獄には四天王を倒す豪傑がいるので天へ。
「ヤッシー!」
「う…」
ヤッシーはまだ息があった。他を調べたが皆手遅れだったようでお嬢は泣いて喜んだ。
「派手にやられたもんだよ…」
お嬢ら三人は立ち上がった亜依奈を見た。面識が無いため鬼がまだ残っているという認識である。
「運の悪い奴やな…」
お嬢は刀を構えた。微かに蘇った意識でヤッシーがかすれた声で何か伝えようとしているが、お嬢には届かない。
「うちは今虫の居どころが悪いんよ」
「どうやら話を聞いてもらえる様子じゃなさそうだね」
亜依奈が肩をすくめ金棒を構える。
ヤッシーが必死に話かけているのに忍者が気付いた。ヤッシーに耳を貸し、伝えようとしていることの内容を聞いた。
「てりゃあっ!」
「困った嬢ちゃんだよ」
お嬢の刀と亜依奈の金棒が交わった。
忍者はヤッシーを若頭に託すと、お嬢が二打目を打ち込もうとする前に止めた。
「何しよんじゃ、放せ!」「こいつは仲間だ。そうヤッシーが言った」
お嬢は忍者の手を振り払おうとする力を緩めた。しかしどうにも疑わしい。能面に鬼の角、幾度か見かけた女の鬼、夜叉ではないか。
「でも!」
喚くお嬢を無視して亜依奈はヤッシーに近付いた。
「何する気や!」
「こいつを治療する。魂を消されたわけじゃないなら大丈夫だよ」
若頭はヤッシーを寝かせ亜依奈に託した。亜依奈は何やら呪文を唱えるとヤッシーの傷は癒えていった。
「すげえ…」
「これはどういう理屈や?」
「嬢ちゃんの嫌いな地獄の役人だからさ。亜依奈ってんだ。覚えといておくれよ」
亜依奈曰く獄卒鬼他地獄の役人たちは死者を癒す能力を持っている。地獄の罰で
身体を切り刻まれようが、すぐに癒し苦しみを味わらせるためだ。
「ヤッシー、大丈夫か?」
「ああ…、嘘みたいにピンピンしてるぜ。ありがとう、亜依奈さん」
こうして元気になったヤッシーを見てしまってはお嬢は亜依奈を仲間と認めるしかなかった。
「今回は地獄の悪趣味が役立ったようやな。けど礼は言っとく。うちは月臣沙羅。覚えといてや」
お嬢は地獄組の代表として亜依奈に敬意を払った。亜依奈は能面の下で周囲には分からなかったが微笑んで応えた。
「分かった。これからはエンマをぶっ倒す同志だからね。後はメタボだけかい?」
「何!?」
亜依奈が歩みを進める先には確かにメタボが横たわっていた。亜依奈はヤッシーにしてやったようにメタボの傷を癒した。
「う…、亜依奈さん? 生きてたのか!」
メタボも意識を取り戻した。持国天に全員殺されていたと思っていたので驚いた。この後皆他を探したが見つからなかった。魂を失うとあの世での身体も失うらしい。
「みんなすまん…、組長のうちが不甲斐ないばっかりに…」
みんなは仲間達を悔やんだ。だが悲しみに暮れてばかりではいられなかった。
「みんな、すぐにここを離れるよ。また鬼が来ちゃ厄介だろ?」
「分かった。お嬢大丈夫か?」
「ああ、みんなのためにも泣いてばかりじゃいられんやろ」
そういう目はまだ赤かったが、決意に満ちていた。
「出でよ玄武! 私たちを例の場所へ導きたまえ」
光と共に玄武が現れた。初見のお嬢達はたいそう驚いている。玄武はそんなことお構い無しに皆を乗せて光と共に消えた。そして玄武は皆を洞窟の入り口まで導いた。
「ご苦労だったね、玄武。もういいよ」
亜依奈がそう言うと玄武は消えた。お嬢達はただ驚くばかりである。
「地獄には色んなもんがおるんやな…」
「さあ入んなよ。色々聞きたいこともあるし、話したいこともある」
「それはこちらも同じだ」
亜依奈の先導でお嬢、忍者、若頭、メタボは洞窟の中に入った。ヤッシーは「場違いだな」とぼやき少し遅れてついていった。
洞窟の奥にはいくつかの灯篭が灯しており、寝床があるだけだった。広さはそこそこあり、六人入っても余裕があった。それぞれ床に座り、お嬢が最初に口を開いた。
「まず聞きたいんは、誰が持国天を倒したんや?」
その場にいなかったものは薄々亜依奈が倒したものだと思っていたが、思わぬ相手から答えがかえってきた。
「実は俺なんだよね…」
「え?」
お嬢は唖然とした。まさかメタボが挙手するとは思わなかったのだ。
「本当か?」
若頭が冷静を装いながら聞いた。メタボは頷き持国天との戦いの詳細を語った。自分の得体の知れない力のこと、持国天が言っていたエンマが何かをしようしていること等々…。
「むう…、なるほど。ひょっとするとメタボもうちと同じかもしらへん」
「同じって?」
「鬼退治の血が流れとるんや」
「は?」
メタボは意味が分からなかった。若頭がついで説明してくれた。
「お嬢ははるか昔に鬼を退治した者の子孫だということだ」
ヤッシーも初めて聞いたようで唖然としている。
「じゃあ、勝算ってのはお嬢自身だったってことか?」
「そうや。文句あるか?」
「いや、無いです…」
ヤッシーはなんて自信家なんだと思ったがお嬢相手では引き下がるしかなかった。
「要するに、俺もとんでもねぇ血だか遺伝子だかがあるってこと?」
「そうや。四天王の一人倒したって言うし、間違いないやろ」
お嬢が自信満々に言う。しかし亜依奈の表情は暗い。無論仮面を着けているので彼女以外誰にも分からないが。
「…確かにメタボを始めお嬢や忍者が強いってのは分かったよ。若頭だっけ、その大太刀持ってるってことは鍾馗倒したんだろ?」
若頭は少し寝かしてある大太刀を眺め頷いた。
「けどまだエンマを倒すには心細いよ。もっと強くならないとね」
四天王の一人を倒したとはいえ、地獄組はほとんど壊滅状態にされ残りの四天王を倒すだけでもかなり辛いと思われる。
「勝って兜の緒を締めろってことやろ?」
「それもあるけど、しばらく修行が必要ってことだよ」
「修行? ここでか?」
「ああ」
亜依奈は頷き、真ん中を空けるよう皆に言うと呪文を唱え出した。すると空けた空間に人一人入れる地下への穴が現れた。
「スゲぇ…、あんたに出来ないことなんてないんじゃないか?」
「そうでもないよ。さあついておいで」
亜依奈を先頭に、皆はその穴へ入っていった。