婚約破棄された公爵令嬢の逆襲。わたくし、やられたままでは終わりませんわ。
シェリーヌ・レストリッチ公爵令嬢はそれはもう、高貴な令嬢だった。
レストリッチ公爵家といえば、国で一番力のある公爵家である。
幼い頃からリューク皇太子の婚約者に決められて、それはもう、妃教育を小さい頃から詰め込まれて大変だったが文句ひとつ言わなかった。
リューク皇太子と結婚し、行く行くはこの帝国の皇妃になる為に、毎日、プライドを持って、
生活していたからだ。
それを…卒業パーティで、リューク皇太子が宣言した。
「私、リューク皇太子は、シェリーヌ・レストリッチ公爵令嬢と婚約破棄をし、
メリーナ・アレクトス男爵令嬢と婚約を改めて結ぶこととする。」
あまりのショックにシェリーヌは愕然とする。
どうして?どうしてわたくしとの婚約を破棄なさったの…?
わたくしは誇りを持って、毎日を生きて来たわ。
リューク皇太子殿下にふさわしい女性になる為に。
唖然としている様子の男爵令嬢メリーナを睨みつける。
あのメリーナとかいう男爵令嬢。
そもそも、男爵家の令嬢がこの誇り高き王立学園に入学してくること自体、
間違っているとシェリーヌは思っていた。
それは他の高位の公爵令嬢達も同じ意見で。
「勉学も出来ない。マナーもなっていない。あんな男爵令嬢達がこの学園の生徒だなんて、許せませんわ。」
「まったく。わたくしも同じ意見ですわ。何であんな男爵令嬢達が。」
だから、シェリーヌは、男爵令嬢達を見かけるたびに、せせら笑い、それはもう冷たく接してきたのである。
それを…リューク皇太子殿下は、自分を婚約破棄をしてきたのだ。
怒りに頭が真っ白になる。
許せない。許せませんわ。
公爵家の力を舐めたらどうなるか、リューク皇太子に思い知らせて差し上げますわ。
シェリーヌは、リューク皇太子の弟、レオン第二皇子に近づいた。
彼は野心溢れる男で、リューク皇太子は側室の息子なのであるが、レオン第二皇子は正妃の息子である。
彼は、常々不満を抱えていた。
歳が一つ下だからと、皇帝になれないのはおかしい。
自分は誇り高き正妃の子である。
だから、側室なんぞの息子に負けるはずがない。
事実、レオン第二皇子はまだ、学園に在学していたが、来年卒業である。
剣の腕も、勉学も飛びぬけて優秀であった。
暇さえあれば、政治学の本を読み、身体を鍛えて、高位貴族達と交流して、人脈を広げていたのだ。
それに比べて、リューク皇太子は常に街に出かけて、庶民とふれあい、
困ったことがないか、人々の声に耳を傾けて、優しい皇太子と人気だった。
剣の腕も、勉学もそれなりに出来たが、レオン第二皇子と比べるとどうしても劣ってしまう。
「わたくしが貴方の味方になって差し上げます。わたくしと婚約して下さいませ。
そうしましたら、貴方を皇帝にして差し上げますわ。」
「ふふん。私を皇帝にか。悪くないな。それならば、お前を私の婚約者にしてやろう。今まで結婚なんてするつもりは無かったが…皇帝になるのなら別だ。」
「あら…そういえば、貴方、婚約者もいなかったわね。」
「妻の機嫌を取るなんて、面倒だろう?」
「そうね。それならわたくしと貴方は同志。それで如何かしら。」
「機嫌を取らなくてもいいと言う事か。」
「お望みならば、白い結婚でもよくてよ。わたくしは皇妃になれればいいの。
勿論、子は産みたいけれども、貴方が望まないのなら、いいわ。わたくし達は同志なのだから。」
レオン第二皇子はシェリーヌの身体を引き寄せて。
「こんな美しい令嬢を白い結婚なんてもったいない。お前の価値を示せ。私が皇帝になったら、私の価値を示そう。」
シェリーヌは思った。
愛なんていらない。わたくしはわたくしの誇りを持って、この男を利用し、
この国の頂点に上り詰めて見せると。
だから…愛なんて。
グっと顔を寄せて、燃えるような瞳でこちらを見て来るレオン第二皇子。
胸を射抜かれるようで、初めて感じる感情にシェリーヌの胸は熱くなった。
何かしら…何でこんなに…わたくしともあろう者が…
レオン第二皇子は耳元で囁く。
「さぁ。共に始めよう。この国の皇帝と皇妃になる為にな。」
「わ、解りましたわ。」
レストリッチ公爵である父に働きかければ、公爵は他の公爵家も巻き込み、皇帝に謁見を申し込んでくれた。
この国の公爵家は6家。6公爵家は皇帝に迫った。
「リューク皇太子殿下は皇太子にふさわしくありません。」
「レオン第二皇子殿下こそ、皇太子に。」
「我ら公爵家はレオン様を支持致しますぞ。」
「なにとぞ、レオン様を皇太子へ。」
「もし、望みがかなえられないなら、我が公爵家は、皇室その物の支持を考えないとなりませんな。」
「我が公爵家も同感ですぞ。レオン様はリューク様より優秀なお方。ぜひともレオン様を。」
皇帝が困っていると、隣で正妃である皇妃がニヤリを笑って。
「皆の意見ももっともではないか?皇帝陛下。リュークは男爵令嬢と婚約を宣言し、公爵家をないがしろにしたのです。ここはレオンを皇太子にしたらよいのでは。レオンはリュークが婚約破棄したレストリッチ公爵令嬢シェリーヌと婚約したいと申しておりましたのよ。」
「そうか…。それなら、レオンを皇太子にした方が良いかもしれないのう。」
レストリッチ公爵はにこやかに、
「我が娘が皇妃になるとは、さすが皇帝陛下。よい判断ですぞ。私達は先々レオン皇太子殿下の元で、この帝国を支えていきたいと思っております。」
「解った。」
リューク皇太子は、皇太子から外れて、レオン第二皇子が、皇太子になる事になった。
うふふふ。いい気味よ。
泣いて我が公爵家に謝ってくるかしら。
楽しみだわ。リューク様。
しかし、待てども暮らせどもリューク皇子は謝ってくる気配もなく、
夜会では、メリーナ・アレクトス男爵令嬢をエスコートして現れる始末。
シェリーヌはついにブチ切れた。
「貴方は悔しくないの?皇太子の地位を追われて。わたくしを婚約破棄したからそんな目にあったのよ。」
ああ…わたくしは、まだ、リューク皇子に未練があるのだわ。
仕方がない。仲が良いという訳ではなかった相手だけれども、長年婚約者だったのだから。
リューク皇子の後ろに男爵令嬢のメリーナが怖がるように隠れる。
リューク皇子はメリーナを庇うようにしながら、毅然と言い放った。
「シェリーヌとレオンの仕業だろう?私を皇太子から追いやったのは。構わない。
私は私のやり方で国民を幸せにしたい。レオンの方が皇太子にふさわしい。そう思っていたのだ。シェリーヌ。レオンと婚約を結んだそうだな。おめでとう。
だが覚えていて欲しい。下の者を思いやる心を忘れた時、国民の心は皇室から離れてしまうだろう。良き政を…私が願うのはそれだけだ。」
悔しい…悔しい…とても悔しいわ。
でも…
レオン皇太子が肩に手を添えてくれて。
「兄上から、地位を奪い取ったからには、良い皇帝に私はなる。兄上も協力して欲しい。
シェリーヌは妃教育も終えている。皇帝にふさわしい皇妃になるだろう。」
シェリーヌは思った。
そう…悔しいけれども、わたくしは皇妃になるのよ。
キっとリューク皇子とメリーナを睨みつけて、
そして…未練を断ち切るように、レオン皇太子の手を握り締めたわ。
握り返してくれたレオン皇太子の手は温かくて。
シェリーヌは、リューク皇子の事を忘れられる。そう思ったのであった。
レオン皇太子の学園の卒業パーティ。
そこでレオン皇太子は宣言する。
「私、レオン皇太子は、シェリーヌ・レストリッチ公爵令嬢と婚約期間を終え、卒業と同時に結婚をここに宣言する。」
シェリーヌは豪華なドレスを着て、レオン皇太子の横に並ぶ。
一年前は婚約破棄をされたこの会場。
ここで結婚宣言をされた幸せを忘れたくはない。
皆の拍手喝采を受けて、シェリーヌは幸せだった。
後に皇妃になったシェリーヌは美しき気高き皇妃として、有名になった。
レオン皇帝を良く支え、帝国は栄えた。
皇子も3人出来て、レオン皇帝はこの美しきシェリーヌ皇妃をとても愛し、大切にした。
婚約破棄をしてきた元婚約者リュークはどうなったかと言うと、政務官となり、国民の為によく働いた。
その傍には卒業パーティで婚約宣言をしたメリーナが付き添い、この夫婦も仲良き夫婦として子にも恵まれ幸せに暮らしたと言う。