異世界にいると思ったら勘違いでしたがイケメン上司は王子様で間違いありません
フワフワと浮いている感覚がします。
もしかして異世界転移した?
なんて思ったけど違います。
高熱でフラフラしているだけです。
私の足はあっちに行ったりこっちに行ったり、まるで酔っぱらいみたいです。
そんな私に気付いたのは、イケメン上司です。
「おっと、大丈夫?」
イケメン上司は私を支えてくれました。
「あっ、大丈夫です」
「大丈夫じゃないよね? 顔が真っ赤だよ」
顔が赤いのはあなたに話しかけられて恥ずかしいからです。
なんて言える訳もないです。
「体が熱いよ。 熱があるんじゃない?」
「あっ、いえ、大丈夫です」
「あのなぁ、君が大丈夫でも他の誰かに移したら困るだろう?」
「あっ、すみません」
「君も困るだろうし、今日は帰って」
「はい」
私は渋々帰る支度をします。
「今日は電車で来たの?」
イケメン上司は私に言います。
「そうです」
「それなら送るよ」
「えっ、そんな滅相もないです」
「何、その言葉遣い」
そうイケメン上司は言って笑いました。
なんと綺麗な笑い方なんでしょう。
私よりも美しい。
笑顔で何匹かの魔物はあの世へいきそうなくらいすごい威力です。
あっ、また異世界と間違っていたようです。
今は、現実世界です。
私はイケメン上司の車に乗りました。
私の視界はユラユラ揺れています。
何か気分が悪いです。
それに気付いたイケメン上司は車を停めます。
「大丈夫? 気分悪いでしょう?」
「大丈夫……じゃないです」
「ちょっと車を停めるから休みな」
「えっでも、仕事は大丈夫なんですか?」
「部下が苦しそうにしてるのに仕事なんてしてられないだろう?」
「あっ、すみません」
「いいから」
イケメン上司はそう言うと私の上に覆い被さり座席を倒しました。
私の心臓はドキドキです。
しかし、寝られません。
なんせ、イケメン上司が横にいるのに寝れる訳がありません。
「寝られない?」
「あっ、いや、その」
「外でタバコ吸ってるから、何かあったら教えて」
「あっはい。すみません」
イケメン上司は外でタバコを吸っています。
その姿も美しい。
私はイケメン上司に見惚れながら瞼が重くなり、眠りました。
私はおでこに違和感を感じ目を開けました。
「あっ、起きた?」
イケメン上司の顔が目の前にあります。
心臓が口から出てきそうでした。
「まだ、熱は高いね」
「手が冷たくて気持ちいいです」
私はイケメン上司の手を取り、頬でスリスリしてしまいました。
私はやってしまったと思いました。
しかし、イケメン上司はヨシヨシともう片方の手で私の頭を撫でたのです。
なんと、神対応です。
嫌がりもせず、恥ずかしがらず、私に合わせたのです。
彼は神なのでしょうか?
それともこれが大人の対応と言うのでしょうか?
しかし、なぜこんなに手が冷たいのでしょう?
タバコで外にいたからです。
まだ真冬ではないですが少し肌寒い季節です。
そしてイケメン上司は家まで送ってくれました。
私はお礼を言ってフラフラする足で階段を上ります。
しかし、私の足は言うことを聞いてくれず階段を踏み外しました。
私は後ろへ倒れます。
「おっと」
またもや、イケメン上司が私の体を支えてくれました。
今回は全体重がイケメン上司にかかっています。
大変です。
私の重い体重がイケメン上司の重荷になっています。
「女性の独り暮らしの部屋には行ったらいけないと思ってたけど、君は一人で帰られそうにないから今回は許して」
イケメン上司はそう言って私を横抱きにしました。
私はお姫様になりました。
王子様が私を迎えに来てくれました。
あっ、また異世界と間違ってしまいました。
でも、私はお姫様抱っこをされています。
これは現実です。
「部屋はどこ?」
「こっちです」
私は指を差してイケメン上司を誘導します。
私は何様なのでしょう。
もしかしたら私は悪役令嬢なのでしょうか?
悪い私は優しい王子様を騙しているのでしょうか?
あっ、また異世界と間違ってしまいました。
「ここです」
「鍵は?」
「あっ、あります」
私は鍵を開け、イケメン上司にそのままベッドへ連れて行かれました。
イケメン上司は優しくベッドに寝かせてくれます。
「これでゆっくり寝られるだろう?」
「ありがとうございます」
「いいよ」
「すみません」
「そんなに謝らなくていいよ」
「でも、迷惑を掛けているので」
「迷惑なんて思ってないから」
「私だったら絶対迷惑と思いますけど」
「俺は君じゃないからそうは思わないよ」
「あなたは神ですね」
「神?」
「あっ、いや、優しい人って言いたかったんです」
「俺はそんなにいい人じゃないよ」
「えっ」
「好きな子と一緒に仕事がしたくて一緒のチームに入れたり、好きな子が他の男の前で笑ってると嫉妬するし、好きな子が目の前にいると触れたくて仕方なくなる」
「好きな人がいるんですか?」
「君は鈍感だね」
「え?」
「俺の好きな子は君だよ」
「わっ、私?」
絶対これは夢です。
いいや、異世界の話です。
でも、異世界要素がどこにもないようです。
現実?
私は彼の頬に触れます。
「現実だよね」
「君は俺の理性を壊す気?」
「えっ、いや、その」
「大丈夫。弱ってる君を襲うほどバカじゃないから」
そう言っている彼の顔は苦しそうに見えます。
どうしても彼を笑顔にしたくなりました。
「私みたいな何の魅力も色気のいの字さえない私でもいいんですか?」
「俺にとっては君は魅力的で色気がある最愛の人だよ」
「私はあなたのお姫様になっていいですか?」
「お姫様?」
「あっ、また異世界と間違っちゃった」
「異世界?」
「あっ、何でもないんです」
「君は見ていて飽きないよ」
「それは誉め言葉ですよね?」
「当たり前だよ」
「あなたは誰よりもイケメンで格好よくて、優しくて王子様です」
「じゃあ王子様はお姫様にキスをしてもいいかな?」
「ダメですよ。風邪が移ります」
「いいよ。移っても」
彼はそう言ってキスをしました。
私には大人過ぎるキスでした。
「その顔、たまらない」
彼はそう言ってもう一度キスをしました。
私の心臓はこれ以上早くならないほどドキドキが止まりませんでした。
イケメン上司はお姫様の王子様になりました。
次の日、私は元気になりその代わり彼が風邪をひきました。
しかし、彼は私に言いました。
「また、君に移して送り狼になろうかなぁ」
彼は優しく、大人で、王子様で、そして狼さんでした。
読んで頂きありがとうございます。
ドキドキしましたか?
楽しく読んで頂けたら幸いです。