高校生-19
師走の時期で時間が取れず、間が空いてしまいました。
三段リーグの二日目以降、私は快進撃を続けていた。
あの日、殻を破った感触は間違いではなく、今までより読みがクリアになり、三段リーグに通用する棋力に辿り着けたと思う。
女流王座の防衛戦は、藤原さんを三連勝で下し、まずは女流三冠を堅持する。
そして、三段リーグでも連勝を続け、昇級戦線に留まったまま年内の対局を終える事が出来た。
年明け以降は強敵との対決が続くけど、今期の女流タイトル戦は全て終えたので日程に余裕があるのは大きいと思う。
それに強敵との対決も、逆に考えれば、自力で順位を逆転できるチャンスだから、昇級ラインに追いつく事を考えると悪い事ばかりじゃない。
いずれにしても、昇級を争うライバル達との直接対決が鍵になりそうだった。
・・・・・・
冬休み初日、今日はクリスマスパーティーのため、みんなで海未の家を訪れていた。
イヴは終業式と重なっていたのと、夜も家族で過ごす人が多かった事もあって、この日程になったけど、クリスマスは元々イヴの夜から当日の夕方までを指すから問題ないらしい。
この辺の豆知識は汐里さんがとても詳しく、今日のプレゼント交換も、汐里さんの提案で『シークレットサンタ』方式が採られている。
『シークレットサンタ』は、予めクジ等で、プレゼントを渡す人を事前に決める方法で、『秘密のサンタさん』になるという方法らしい。(受け取る側は、渡される直前まで、誰からプレゼントを貰えるか分からない。)
通常のプレゼント交換だと、誰にプレゼントが渡るか分からないから、プレゼントも無難なものかネタに走るかになるけど、『シークレットサンタ』なら、その人に合ったものを選ぶ事が出来るのが良いところだと思う。
そんな訳で、誰が誰のプレゼントを準備したか分からないまま、私達六人のクリスマスパーティーが始まった。
「それじゃ、改めてメリークリスマス!」
「「「「「メリークリスマス!」」」」」
掛け声と共に、みんなでクラッカーを鳴らす。
まずは取り留めも無く、学校の事、進路の頃、あるいは私の将棋の事などを、皆でお喋りしていく。
「昨日は皆さん、どのように過ごされましたか?」
「あたしは普通に家族皆でケーキを食べたよ!」
「私は早速、冬休みの宿題をしてた」
「うわ~、特進科の宿題って難しそう……」
「うん。実際難しい」
帆波さんのクリスマスイヴは平穏だったみたいだけど、はるちゃんは流石に表情に疲れが見える気がする。
「海未ちゃんはどうでした?」
「私も普通に家族と過ごしたけど……」
「そうですか……。澄花さんと亜季さんは?」
「私達も家族と一緒だよ?」
「そうですか……。季節柄、恋バナの一つ位はあるかもと思いましたが、中々無いものですね……」
どうやら、汐里さんは恋バナのチャンスと考えていた様だけど、みんな浮いた話は無かったらしい。
「あ、海未をクリスマスに誘って、一瞬で切り捨てられた男子は見たよ!」
「帆波、あれは忘れて……」
「あはは、モテ過ぎるのも大変なんだね」
相変わらず海未はモテている様だけど、本人にその気が無いから、有難迷惑なのかなと考えていると、海未から返しがくる。
「そういう澄花はどうなのかしら?」
「私? 全然無いよ?」
「本当……? 澄花はミス蒼海にも選ばれたし、男子の見る目が無い訳では無いと思うのだけど……」
「私は有名人みたいなものだし、将棋に全力なのも知られているから、ミスコンの投票対象ではあっても、恋愛対象にはならないんじゃないかな」
そう答えると、まだ海未は話したそうだったけど、亜季とはるちゃんが海未を連れて行ってしまう。何か、『学園のアイドル化』とか『抜け駆け禁止に成功』とか聞こえた気もするけど、二人がちょっと怖かったのでスルーする事にしました。
そうしてお喋りが一段落した頃、そう言えば『シークレットサンタ』のプレゼント交換はどうするんだろう? と考えたところ、亜季が口火を切った。
「それじゃ、そろそろプレゼント交換しよっか」
「汐里、プレゼントはどうやって渡すのかしら?」
「そうですね……。本来はプレゼント置き場を指定して、誰からのプレゼントか分からなくする方法もあるみたいですけど、今回は順々にプレゼントを渡していって良いと思います」
「それじゃ、最初はあたしね! 海未、メリークリスマス!」
そう言って、いの一番に帆波さんが海未にプレゼントを渡す。
なるほど。これはプレゼントをする側・される側だけでなく、見ている側も新鮮で面白いかもしれない。
「ありがとう、帆波。……これは、香水?」
「海未のイメージに合いそうな、大人っぽいのを選んだよ! 後で感想を聞かせてね!」
「ふふ、分かったわ」
帆波さんのチョイスはちょっと意外だったけど、海未の好みを抑えている辺りは流石だと思う。
「では、次は私が行きますね。帆波ちゃん、メリークリスマス」
「あたしのは汐里だったんだね! 何かな……、リップ?」
「はい、色付きリップです。帆波ちゃんも、お化粧を意識しても良い頃だと思いまして、まずは簡単なものからですね」
「う……。ありがとう、汐里。また今度使ってみるよ……」
「はい。その時は、私にも見せて下さい」
帆波さんは海未に化粧品を贈ったけど、自分もプレゼントされるとは予想していなかったようで、ちょっと引き攣っていた。
「それじゃ、次は私ね。汐里、メリークリスマス」
「ありがとうございます、亜季さん。ブックカバーと栞……、早速使わせて頂きますね」
汐里に栞なのが気になったけど、汐里さんはにっこりと笑顔でスルーする。
「じゃ、次は私。亜季ちゃん、メリクリ」
「美春ちゃん、ありがと。可愛いミトンだね」
「最近、良く料理してるって聞いたから。頑張って」
はるちゃんのプレゼントはお洒落なミトンで、思い返すと、亜季の動向を何度か聞かれていたから、そこからヒントを得たのかもしれない。
「それじゃ、はるちゃんには私から。メリークリスマス!」
「ありがとう、すみちゃん。これはハーバリウム?」
「うん、ハーバリウムペンだよ。これならペンケースに入れて持ち歩けるし、勉強中にちょっとでも癒しになれば良いと思って」
「そっか、ありがと。大切にするね」
はるちゃんは最近、勉強が忙しいらしいから、普段使いができて、癒しになるものを選んだけど、喜んで貰えた様で一安心する。
「最後は私ね。メリークリスマス、澄花」
「ありがとう、海未。……バレッタ?」
「ええ。澄花はもっとお洒落を意識しても良いと思ったのだけど、どうかしら?」
「あはは、善処します……」
海未としては、ぬいぐるみ、化粧品と迷った末、この選択になったらしい。
そして、次は化粧品ねと言われてしまい、帆波さん同様に引き攣ってしまった。
この後は、帆波さんをリップで軽くメイクしたり、私の髪を編み込みつつバレッタを付けてみたりと、早速プレゼントを試しつつ、楽しい時間を過ごした。
この一年は色々あったけど、新しい友達も出来たし、棋力の向上も図れたから、良い年だったのかなと思う。
来年は早々から厳しい戦いが続くけど、またみんなで笑って集まれるよう、その為にも前を向いて勝ち抜いていこうと思った。




