小学一年生-6
小学校に入学してから2週間、私はすっかり図書館の住人と化していた。
始めは、将棋の本があればお小遣いを節約できるかも、という目論見だったけど、図書館の本が非常に充実していて、将棋の他にも読みたい本が多く、夢中になってしまった。
そして、気が付いたらクラスでぼっち→図書館へ通うのループに嵌ってしまった感じ。
亜季はクラスが別(兄弟姉妹は同じクラスにならないらしい)だし、頼るのは姉としてどうなのかと悩んでいるうちに、完全にぼっち沼に嵌りつつあるようです。
……うん。
私はコミュ障なところがあるし、同級生の女子と普通に話す自信が無い。
前世の記憶に頼ろうともしたけど、友人は将棋指しが多かった模様で、知り合った理由も自分が強豪故に顔も広かったという事らしい。
なので、前世の知識は役に立たず、友達の作り方は分からず仕舞いでした……。
そして、ふと校庭に目を向けると、亜季が友達と遊んでいるのが見えた。
やっぱり妹に頼った方が良いのだろうかと考え、亜季は運動も勉強もそつなくこなすし、しっかりしてるし可愛いし……、と思考が深みに嵌ってきたので、本を借りて図書館を出る事にした。
「お姉さん、この本を貸してください」
「こんにちは。今日は何を借りて行くの?」
今日の図書委員は顔見知りのお姉さんで、時間に余裕もあったから、ちょっと話していく事にした。
「将棋の本を借りていこうと思います」
「岩瀧さんは将棋を指すの?」
意外なところで食いつかれ、私が戸惑っていると、「実は私、将棋クラブに入っているの」と続く。
将棋クラブって何だろう? と思っているのが顔に出ていたのか、更に詳しく教えて貰った。
「この学校では四年生以上になると、週に一回、授業の時間にクラブ活動をやっているの。
例えば、運動系なら野球やサッカーとか、文化系なら吹奏楽や手芸なんかもあったかな。
私は、日本史好きが高じて、将棋クラブに参加した感じね」
お姉さんが将棋を指す事も、学校の授業で将棋を指す事も驚きで、思わずぽかーんとしているところに、更に質問が続く。
「岩瀧さんはクラスに馴染めてる?」
「……えっと」
はい、答えられません。
ぼっち宣言は恥ずかしいし……と葛藤しているところに、優しく提案されました。
「将棋クラブを見学してみる?」
「見学……ですか?」
「うん。運動系は怪我が怖いから駄目だけど、文化系は下級生でも見学できるの」
それに一年生でも参加しやすい時間割になっているし、とも説明され、気が付いたら「お願いします」と頭を下げていました。
「それじゃ、明日がクラブの日だから迎えに行くね。岩瀧さんは何組?」
「一組です。名前は澄花です」
「澄花ちゃんね。私は千代田夏希、夏希でいいよ。
五年生だから、澄花ちゃんの四つ上ね」
「分かりました。それじゃ、夏希お姉さん、お願いします」
そして、眼鏡をした優しいお姉さん――夏希お姉さんは、最後に「またね」とウィンクしてくれました。
これって、ひょっとして友達ができたんだろうか? (というよりは先輩?)とちょっと混乱してしまい、将棋の対人戦のチャンスが出来たかもしれない、と気付いたのは暫く後だった。