小学一年生-4
そんなこんなで、ドタバタした父実家への帰省も終わり、お家に帰る事になった。
あの後、頭がパンクした私を見かねて、お兄ちゃんが将棋入門書を持ってきた。
「もう使わないからあげる」というので、今は帰りの電車の中で読んでいる。
昨日は躓いてしまったけど、駒の動きとルールを覚えないと何も始まらないし……。
そして、帰宅の途中で、ターミナル駅で一旦降りて、買い物をする事になった。
どうやら、私と亜季の小学校の入学祝いに、何か欲しいものを買って貰えるみたい。
私と亜季は双子じゃないけど、同学年の姉妹のため、小学校にも一緒に入学する事になる。
同学年で私の方が約一歳年上だからか、亜季が小さい頃は、かなり私にべったりだった。
今はちょっと落ち着いたし、身長が追いつかれた事もあるのか、姉妹逆に見られることもあるけど……。
亜季はいつも通り、ぬいぐるみか可愛い系のものかな……と考えたところで、意識を戻す。
と言っても、今の私が欲しいものは決まっているので、お父さんを引っ張って行くだけだ。……意外と将棋の盤駒は安かったです。
そして、盤駒だけだと亜季の分とつり合いが取れないから、もう少しだけプレゼントを追加して貰える事になった。
だとすると、将棋の本が良いだろうか?
それなら、前世の記憶の中にヒントがあるかも、という事で思い返してみた。
……うん。中盤の手筋と、詰将棋の一番簡単なものと、一冊ずつが良いと思う。
駒の名前すら忘れている割に、今回はあっさりと必要な知識を見つける事が出来た。
というのも、前世の私は、後輩を鍛えるにあたり、かなり後悔していたらしい。
後輩を即戦力にすべく、序盤戦術を徹底的に覚えさせた結果、確かにすぐに戦力になった。
しかしその後、彼は序盤力に頼り過ぎてしまい、中終盤の力が身に付かず、結局伸び悩んでしまった……。
将棋で最も重要な力は終盤力だ。
相手玉を詰ませられなければ、どんなに優勢でも勝つ事は出来ない。
その一方で、不利な状況であっても、終盤力次第では相手に決め手を与えず、逆に相手が隙を見せた瞬間に討ち取る事も出来る。
そして、終盤力を鍛えるに当たっては、詰将棋(特に短手数・実戦形式のもの)による、詰みのパターン学習が最適だと思う。(前世の知識によると、受験数学(今の私には分からないけど……)に近いらしい。)
それに対し、中盤は重要な以上に一番難しい。
序盤は定跡があるし、終盤もある程度パターンを覚える事で鍛えることは容易だ。
しかし中盤は、将棋の中で最も手が広い場面であり、鍛えるのも容易でない。
但し、初心者が中盤の指針を学ぶ手段としてなら、手筋の学習が有効だと思う。
序盤も重要だけど、初心者には意味不明な部分も多いし、そもそも将棋の展開が本の通りにならない。
以上から、終盤用に詰将棋、中盤用に手筋の本が良いと判断したのだが……。
「何を選べば良いのか、分かりません」
よくよく考えると、小学一年生でも読める将棋の本ってあるんだろうか?
一人困って、本屋さんの将棋コーナーをうろうろしていると、私よりちょっと年上の男子を発見した。
なんとなく、将棋を指しそうなオーラを醸し出しているので、質問してみよう。
「すみません、教えてください」
「……、僕ですか?」
「はい。一番簡単な詰将棋の本と手筋の本が分かれば、知りたいです」
その眼鏡をした男子は、ちょっと驚いた顔をしつつも、本探しを手伝ってくれるようだ。
「将棋はどの位指せますか?」
「覚えたてです。盤と駒と入門書は持ってます」
「でしたら、これとこれでどうでしょうか」
薦められた本は、一手詰・三手詰が中心の詰将棋入門と、中盤の入門書だった。
そのまま2冊とも買うことにして、眼鏡男子にお礼を言って別れる。
その頃には亜季の買い物も終わっていたので、将棋指しは意外と面倒見が良いよね、と思いつつ帰路についた。