小学四年生-3
「倉敷王将戦」県予選で奥空君に敗れた後、私はスランプに陥っていた。
これまでは順調に棋力を伸ばしてこれたし、結果も付いて来ていたから、あまり意識していなかったけど、今の私としては初めてのスランプだと思う。
こういう時は前世の記憶……と確認してみたけど、所詮は一介の若手アマチュアに過ぎなかった事もあり、特効薬と言える案はなさそうだった。
と言うよりも、プロであってもスランプは起こり得るのだから、そもそも劇的な治療方法は無いというのが正しいのだと思う。
なので、特効薬は諦めつつも、対処方法について考える事にする。
まず大前提として、スランプ中であっても鍛錬を怠らないことが必要だと思う。
休む事は悪くないけれど、鍛錬しなければ棋力が下がってしまうから、結局は鍛錬を続けなければならない。
そういう意味では、スランプ脱出というよりも、先を見据えて努力し続けることで棋力を向上させて、自然とトンネルから抜けるイメージになるだろうか。
その一方で、心理的に無理を掛けない事も大切だと思う。
嫌々やっている鍛錬が身にならないかと言うと、必ずしもそうではないと思うけど、益々状況を悪化させてしまう可能性もある。
一番拙いのが、そうやって競技そのものを嫌いになってしまう可能性が怖い。
なので、さっきとは矛盾するけど、時には休む事も重要になるのだろう。
まとめてみると、なるべくスランプは気にせず、先を見据えての鍛錬と、心理的負担が小さくなるような処置を続ける感じになるだろうか。
また、鍛錬の手段にしても、香落戦や一般の大会での実戦のように、これまでとは違う目線の方法だと新鮮で、負担も軽くなるかもしれない。
そう考えていると、違う方向からアプローチがあった。
珍しく、はるちゃんから電話が来たので話してみる。
いつも学校で会えるから、意外と電話が掛かってくることは無いけど、今日は何かあったんだろうか?
「すみちゃん、こんばんは」
「こんばんは、はるちゃん。どうしたの?」
「今日は、すみちゃんをデートに誘おうと思って電話したの」
「デート!?」
小学四年生にして、はるちゃんはもう彼氏が出来たのだろうか?
確かに、はるちゃんは可愛いけど、それは早過ぎないだろうか……と思考がぐるぐる混乱するけど、何のことはなく、私と亜季と三人でのお出掛けの提案だった。
「もう~、びっくりしたよ……」
「あはは、ゴメンね。でも、女の子同士でもデートって使ったりするらしいよ」
「そうなんだ。日本語って難しいね」
何となく雑談をしつつ、予定を聞いてみると、偶には将棋と関係ないお出掛けがあっても良いのでは、という感じのお誘いだった。
なので、亜季にも声を掛けたところOKだったので、明日は三人でデート? の予定になった。
・・・・・・
そして翌日、私達は近場のショッピングモールに来ていた。
今日の予定は、はるちゃん希望の映画を観て、ご飯を食べて、とりあえず色々なお店に寄ってみる、という感じらしい。
私的には最後がちょっと不穏だけど、確かにデートっぽい。
「それじゃ、行こっか。あ、飲み物は最初に買わないとダメだよ」
そうして、私達三人は慌ただしくも、ただいま評判の映画を観る事になった。
・・・・・・
これまで、映画への興味はあまり無かったし、映画館に来ることも滅多に無かったけど、今回観た映画はとても面白かったと思う。
亜季は寝落ちかけていたけど、はるちゃんと映画の感想を話しながら、昼食に何を食べるか相談する。
これには亜季も参戦してきて、チェーン店のハンバーガーを食べた事が無かったので、私達姉妹の初チャレンジを兼ねて、その店に行く事にした。
尚、初めてのハンバーガーは普通でした。
私は食べきれなくて、亜季に協力して貰ったけど……。
そして、昼食の後は色々なお店を回り、服やアクセサリを試着させられそうになって私が脱走したり、ペットショップで猫を観察したり、ぬいぐるみをモフモフしたりして、一日中遊び倒した。
「今日のデートは如何でしたか、お嬢様」
「あはは。どうしたの、はるちゃん?」
「うん。すみちゃんが元気出たみたいで良かったよ」
「あれ? 私そんなに元気なかった?」
「うん。何か、話し掛け辛かった頃の表情になっていたよ」
どうやら、私がスランプで悩んでいたのはバレバレで、それを心配して誘ったらしかった。
「そっか、はるちゃんには敵わないね。ありがとう」
「どういたしまして」
私には、こんなにも頼もしい友達がいる、そう思うと、心の負担が軽くなった気がした。




