小学一年生-3
「……おはよう」
まだ日も登っていない時間だけど、猫のトパーズに起こされてしまった。
この子は、何故か私を起こしに来る癖がある。
懐かれる分には悪い気はしないけど……。
二度寝したいけど、お祖父ちゃん家のお手伝いがあるから、結局は起きないといけない。(農家の朝は早いのです。その代わり、お昼までで作業が落ち着くことが多い。)
なので、隣で寝てる亜季を起こして、一緒にお手伝いに行くことにした。
「お兄ちゃん、将棋を教えてください」
午前の種蒔が終わり、私のお手伝いも終わったので、早速お願いしてみる。
お兄ちゃんはちょっと考えてから、「それじゃ、山崩しでも……」って、違う、そうじゃない。
「ちゃんとした将棋を教えて欲しいのです」
「将棋を? 澄花にはまだ難しいと思うよ」
「大丈夫です。頑張ります」
「……分かった。でも澄花、漢字は分かる?」
……え。
そうか、将棋の駒には難しい漢字も使われてたっけ。
でも私には前世の知識が……、あれ?
「……読めない」
何故……って、確かにまだ習っていない漢字もあるけど、前世の知識があれば分かるはず…と考えて、知識が残っているなら、そもそも将棋を教えて貰う必要が無い事に気が付いた。
という事は、前世はぼんやり思い出せるけど、知識は学び直さないといけないようだ。
どうやら、幼い頃から前世の知識を発揮、という訳にはいかないらしい……。
「お兄ちゃん、漢字から教えてください……」
思ったより、前途は大変そうだった。
「……きゅ~」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「……うん」
何とか「お兄ちゃんの将棋入門」を終えたけど、頭がくらくらする。
駒の文字から覚えないといけないのは想定外だった。
正直、駒の動きはまだ怪しい。金と銀はごちゃ混ぜになっている気がする。
前世の記憶を信じた事について、このときはちょっと後悔した……。