小学三年生-5
夏休みに入り、「倉敷王将戦」全国大会の前日、私達家族は、朝早くから岡山県に向けて出発した。
幸い、両親ともお休みが取れたので、家族全員での旅行になる。
そして新幹線に乗り込むと、見知った顔を見つけて驚く。
奥空君と、そのお母さん、妹さんも一緒の新幹線で、座席も私達家族と前後だった。
初めての全国大会なので、県予選の時にお父さんが相談していたらしい。
そこで、新幹線の座席を回転させてから、お互いに自己紹介し合いつつ、家族ぐるみで会話しながらの、新幹線の旅が始まった。
私も、折角なので奥空君に「倉敷王将戦」の全国大会の事を聞こうと思ったのだけど、席が斜め同士になっているので、ちょっと話がしづらい。
と言うのも、亜季と奥空君の妹さん――理乃ちゃんが、妹同士で意気投合したのか仲良くなった後、まず理乃ちゃんが窓際の席を希望し、私の方は亜季から「お姉ちゃんは酔うときがあるし、身体弱いから」と窓際に追いやられてしまった。
理乃ちゃんの意図は分からないけど、亜季は奥空君を警戒しているらしい。
「奥空君は、去年準優勝だったんですか」
「はい。とは言っても、決勝では彼方に手も足も出ませんでしたけどね」
準優勝は立派だと思うのだけど、奥空君は自嘲気味に話す。
尚、話に出てきた彼方――紫苑彼方君は、小学四年生ながら今年の小学生名人戦を制した天才少年で、次代の名人を嘱望されているらしく、奥空君の世代の目標でもあるらしい。
そうして、紫苑君は今回の王将戦に不参加なことを聞いたり、王将戦のシステムについて質問していく。
「予選が3試合で、決勝トーナメントも3試合ですか」
「ええ。但し気を付ける事として、一敗即脱落のシステムですので、
実際は予選無しの完全トーナメントと考えた方が良いかもしれません」
「そっか。負けても最低3局は指せる、位で合ってます?」
「そうですね。それと、朝も早いので、気を付けてください」
確かに、大会要項を見ると、早めの時間に始まって終わる感じだった。
この後、県予選の時のように、有力候補についても教えて貰う。
「低学年の部の有力候補は、僕の知っている限りだと……」
次々名前が上がり、奥空君の情報網に関心する。
「基本的に、人口の多いところの代表は強いと考えた方が良いですね。
そして、最有力と思われるのは、兵庫の赤穂君だと思います」
「赤穂君?」
「ええ。彼の兄は僕と同学年で、手強いライバルでもあります。
その一学年下の弟も、また強いと聞いていますので」
奥空君曰く、紫苑君を追いかける世代二番手が、奥空君と赤穂君(兄)になるらしい。そして、兄と一緒に鍛えられた弟も、間違いなく強いという事だった。
そうして、大会について一通り教えて貰えたので、十分な予習が出来たと思う。
その後は、子供同士で話したり、時々奥空君のお母さんとも話したりしながら、岡山駅で一旦別れる事になった。
奥空君達と別れた後は、岡山城を見たり、倉敷の街を散策したりして、短めの家族旅行を楽しんでから旅館に入った。
旅館では、凄く豪勢な食事や温泉に驚いたけど、家族旅行ということで奮発したらしい。
慣れない環境の中、珍しくはしゃぐ亜季を宥めつつ、明日に備えて早めに休むことにした。




