小学二年生-11
奈央ちゃんの女性棋士宣言の衝撃は残っていたけど、B級予選も間もなく始まるから、急いで受付を済ませ、席につく。
王将戦の県予選では予選敗退だったので、まずは予選突破を目指し、緒戦に臨んだ――。
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何とか予選は2連勝で突破できたので、お父さんに報告してから、会場を見回ってみる。
B級だったので、流石に奥空君や中田君クラスの人といきなり当たる事はなく、鍛錬の成果も十分出せたと思う。
本来、A級でおかしくない子が何人いるか次第だとは思うけど、そこそこ上位まで行けるかも……と皮算用をしつつ、観戦者でいっぱいになっている対局を覗いてみることにする。
そこでは、奈央ちゃんと朱雀院さんが対局していて、勝った方がベスト8に進むらしく、珍しい女子対決にギャラリーが集中していたようだった。
将棋の局面としては、既に最終盤になっており、その後間もなく奈央ちゃんの勝利となった。
その正確な終盤の差し回しを見ると、小学生名人戦ベスト4の肩書に偽りなく、奈央ちゃんの強さが分かった。
また意外なことに、感想戦では特に険悪な雰囲気になってなかったので、この二人自体はそれほど確執がないのかもしれない。
そしてB級の予選も終わり、早速本選が始まる。
私の初戦の相手は、朱雀院さんと一緒にいた女子――西大路桃華さんだった。
「あら、奇遇ね。ここで当たるとは思っていなかったわ。岩瀧澄花」
「……よろしくお願いします。西大路さん」
威嚇気味に挨拶され、少々閉口する。
とは言え、ここから先は負けたら終わりのトーナメントだから、集中力のギアを上げて対局に臨む。
本局の戦形は、私の先手三間飛車VS西大路さんの右四間飛車となり、私は低い陣形から飛先を突き越して、西大路さんの攻めを待つ。
対して、西大路さんは更に玉を固めようと右金を上がったが、これが致命的な落手になった。
この戦形では、右四間側は一段金のままで戦わないと、三間飛車の捌きを抑えきれない。
実際に、本局では飛先交換から浮き飛車に構え、その後に飛成を見せてからの垂れ歩が成功し、私は序盤からと金を作ることに成功する。
西大路さんの顔を見ても、完全に想定外の手順だったようで、かなりの動揺が見て取れた。
その後も、私は強気に局面を押し切って、まずは初戦突破を果たした。
「……負けました」
「ありがとうございました」
「こんな順があったなんて……。岩瀧澄花、覚えていなさい」
相当に悔しかったらしく、西大路さんはそう言って席を立ってしまった。
まあ、私の様なちびっ子に、コロッと負かされると悔しいのは凄く分かるけど……。
それでも、この一局で波に乗れたのか、私は着実にトーナメントを勝ち進んでいく。
途中の試合で、必敗の将棋を頓死で拾ったりしながら、気が付くと決勝まで勝ち進んでいた。
そして、慌ただしく決勝戦が開始される。
身体は凄く熱かったし、周りも全然目に入らなくなってたけど、不思議と頭の中はクリアになっていた。
もう周りの雑音も耳に入らず、盤面のみに没頭した極限状態になる中で、対局が始まった。
先手の振り飛車模様の出だしに対し、後手の私も振り飛車の態度を鮮明にした結果、戦形は相振り飛車になりそうだ。
但し、決勝戦という事もあるのか、お互いに警戒した駒組みが続いた結果、相向かい飛車金無双という珍しい形になった。
完全な力戦形のため、お互いの読みと腕力が試される中盤戦が始まり、まずは私の方から積極的に動く。
先手の腰掛け銀を5五歩と追い払い、優位な陣形を築く狙いだ。それに対し、先手は追われた銀を繰り替えて前線に派遣することで、攻めの主導権を握ろうとする。
但し、局面が進んでみると、先手の攻めは無理筋で、私は大きな駒得を果たし、優位に立った。
優位を得た私は、二枚飛車を活用し、一気の寄せを狙う。
それに対し、先手は飛車の片方を捌かせないように抑えつつ、私の歩切れを突いて反撃を行う。
その結果、私が優位ながらも、薄い玉に嫌味が付いた形となり、ギリギリの終盤に突入した。
終盤は私が攻め急ぎ過ぎた事もあり、一時は完全に逆転されてしまったものの、その後も形勢が二転三転する大熱戦となった。
この点は、トーナメント最終戦という事もあり、お互いに限界を超えていたんだと思う。
最終的には、お互いに一つずつ詰みを逃しあったものの、私の執念が勝り、自玉の入玉に成功した上で相手の入玉を阻止し、200手近い熱戦を制した。
B級とは言え、優勝した達成感からか、ふわふわした気持ちになっていると、だんだん意識が無くなっていく気がする。
そして、亜季の「お姉ちゃん!」という焦った声が聞こえたのを最後に、私は意識を手放した。




