小学一年生-2
書いていくと、最初は蘊蓄ばかりになった模様……。
本格的な対局が始まるのは、もう暫く先(10話くらい後)になりそうです。
結局あの後は、調子が優れないから早めに寝る、という事にして部屋を出た。
元々、身体の強くない方だったからか、あまり不審には思われなかったみたい。
こういう時は、いつもは亜季も一緒だけど、今回は幸い一人になる事が出来た。
布団の中で寝たふりをしながら、さっきの現象について考えてみる。
細部はぼんやりしているけど、自分に無い記憶なのは間違いないと思う。
だって、まだ小学生にもなっていないのだ。大学や社会人の記憶なんかある訳がない。
だとしたら、……前世の記憶だろうか。それとも転生?
本かTVで見た気もするけど、まさか自分に振りかかるとは思わなかった。
しかも前世は多分男性。確かに私自身、自分でも女の子っぽくないと思うけど、ちょっとショックだ。
そして気付く。
前世の記憶で一杯一杯だったけど、年齢の割に随分難しい事を考えている気がする。ひょっとすると、前世の記憶と一緒に、知識も思い出したのかもしれない。
これはラッキーだと思うけど、変に思われないよう気を付けないといけないかも……。
こんな感じで、取り留めなく前世の記憶を探っていくと、随分短い事に気が付いた。
多分、大学卒業の後、少しだけ社会人をしたところで途切れている……。
記憶と知識とを照らし合わせてみると、過労死、というものかもしれないと思い立った。
まだ子供な私には信じられないけど、仕事をし過ぎて疲れ果て、そして亡くなってしまうのだ……。
最近でも、お父さんが見ていたニュースで、東大を卒業して有名企業入社後に過労死、とかあった気がする。
……ちょっと待って欲しい。
東大を出ても過労死するなら、避けようが無いんじゃないだろうか?
しかも、私は前世で失敗している(っぽい)。
寿命を全うできず、若くして亡くなる、と考えると急に怖くなった。
駄目だ。前世はもう変えられないけど、私はおばあちゃんになるまで生きたい。
なら生きるための方法を考えないと……、と思ったところで気が付いた。
「もし自分が女性なら、女流棋士になれたのに」
前世の記憶の中でも、一際強く残っていた言葉だけど、今の私は一応女の子だ。
ひょっとしたら、これが私としての人生の切り札になるかもしれない。
女流棋士、棋士……、記憶を探ってみると、将棋のプロをそう呼ぶみたい。
うん、決めた。私は女流棋士を目指そう。
もしかすると無謀なのかもしれないし、もっと駄目な未来が待ち受けているかもしれない。
でも、前世の想いを信じるなら、それが可能になった今こそチャレンジしてみたい。
そのためには明日、お兄ちゃんに将棋を教わらないと……。
前世の記憶に何とか折り合いが付いたのを機に、私は眠りに落ちた。