小学二年生-3
その後、開会の挨拶などを経て、対局に移る事になった。
しかし、盤の隣に置かれている時計の機械――対局時計の使い方が分からない。
その態度があからさまだったのか、対局前に相手の眼鏡男子――奥空啓一君が、対局時計の使い方を教えてくれたので、まずはほっとする。
(尚、隣の体育会系男子が笑いを堪えていたようだけど、それは無視した。)
そのままの流れで、振り駒も奥空君にして貰い、歩が3枚だったので私が後手になる。
正直なところ、難敵との対局なので先手が欲しかったけれど、こればかりはどうしようもないと気を取り直す。
そして、対局前にお互いに挨拶を交わし、遂に私の将棋大会初対局が始まった。
初手、奥空君はプロの様な手つきで、駒音高く7六歩と角道を空ける。
一方の私は、普通に駒を掴んで、ぺたんと歩を3四に置いた。
指し手だけ見ると、正に熟練者と初心者だけど、私はまだ綺麗な指し手で指せないので仕方ない。(尚、駒を人差し指と中指で持つ正規のスタイルは、意外と指に負担が掛かり、前世では指が少し曲がってしまったらしい……。)
そして、対局に意識を戻すと、奥空君は2六歩と飛車先を伸ばし、居飛車の態度を鮮明にした。
それに対し、私は5手目に3二飛と、用意の戦法「三間飛車」で対抗する。
普段は居飛車中心に指している私だけど、前世は振り飛車党で、特にこの三間飛車を最も得意としていた。
しかし、前世の棋風は「柔よく剛を制す」指し回しであり、初心者の頃はとても指しこなせるものではなかった。
なので、これまでは居飛車からどんどん攻めるように指していたけど、攻めの形を学ぶ意味でも、この選択は正解だったと思う。
そんな中で、この一局に慣れない戦法を投入したのは、今後を見据える意味もあるけど、一番の理由はこの対局に勝ちたいからだ。
まず、この戦法に勝機を見たのは、前世の知識はほとんど失われているけれど、感覚はその限りでなく、学生強豪の時の捌きの感覚がまだ残っているのが理由だ。
……ズルのような気もするけど、私自身の力に違いはないし、そうしないと、恐らくこの試合は手も足も出ない。(それに、残っている感覚は当時の半分にも満たない程度だという事もある。)
そして、今後を見据える意味では、本格的にプロを目指すとき、研修会・奨励会とも駒落ち戦があるから、振り飛車が必要になるのが一つ。
もう一つの理由は、居飛車・振り飛車両方が指せる、オールラウンダーを目指すためだ。
この点、前世では振り飛車一本で戦い続け、最後に壁にぶつかったのを教訓として、考えていたことだった。
その後局面は進み、先手急戦VS後手三間飛車のほぼ定跡形となった。
しかし、僅かに形を変えているのが奥空君の工夫であり、定跡そのままと思って飛び込むと、三間飛車が嵌る恐れがある。
対して、私は奥空君の手に乗りながら、定跡外しの一手を放つ。
普通なら、定跡外しは悪手になる恐れが高いけど、定跡から外れた今の局面なら、今後の構想力次第で十分に勝負になるとみた。
この折衝で奥空君が自重したため、まずは私の主張が通り、最初のポイントを上げる事に成功した。




