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参入

わかりにくいところは追追説明していきますので、何となく理解してもらえれば大丈夫です。

不自然なところも不自然なりに理由があったりしますのであしからず。

「──びっくりした。あなた、本当に神秘側の人間じゃないのね」


心底驚いた様子でカナデは彩人を見る。


「だから言っただろう? 神秘なんてもの、この前の異変で初めて知ったんだって」

「いや、まあそうなんだけど……どれだけ一色君のことを調べても何も出てこなかったから、逆に怪しかったというか……」


以前、彩人に関して調べた時にはなにも出てこなかったため、余計に怪しく思っていたのだ。


「でも、それならどうやって【魅了傀儡】の術を破ったの?」

「破ってなんか無い。あの時あの瞬間だけは、俺はあの相手だけ・・を愛していた」

「なら、どうして【魅了傀儡】は倒れたのかしら?」

「わからない。あの時は確か、心のままに愛を伝えて……その直後に倒れたんだ」


神秘を学んで無い彩人は困惑を隠せない。

が、その表情に何かを感じたカナデが行動に移る。


「園実、悪いんだけど捕らえてある【魅了傀儡】の様子を見てきてもらっていい?」

「厳重に拘束してあるから、放っておいてもいいって言ってなかった?」

「多分そろそろ目が覚めるから、念の為ってことよ。何かしようとしても、あなたの『眼』ならわかるでしょ?」

「……わかった。何かあったら声をかけるわ」


席を外し、退室したのを見届けてからカナデは表情を消した。


「さて、話をしましょうか。1人の人間としてでは無く、『魔術師』【人理神話】として」

「荒屋敷さんが居ないとできない話、か」

「ええ、そうよ。突然だけどアナタ、『魔術師』になるつもりはないかしら」


紡がれたのは、誘いの言葉。

それも、コチラ側の世界へ来ないかという誘い文句だ。


「何を言って……」

「初めに言っておくわ。チカラのある『魔術師』は大抵、心の底に何かしらの『異常』を抱えているわ」

「……それで?」

「アナタも抱えているでしょう? 何らかの『異常』を」


そこには何故か、確信があった。


(【意識誘導】も敷いた。【理性緩和】もかけてある)

私も抱えている・・・・・・。アナタは、何を抱えているの?」


準備は万端だ。

この部屋に入った時から、訊かれたことには答えるように細工してあった。


(拒絶はさせない。ここで全て吐かせて──)

「君は、人類に神秘を見出したと言っていたな?」

「ええ」

「なら、『隣人を愛せ』って言葉は知っているな?」



紡がれたのは、有名な一節。


「当たり前でしょう?」

「なら話は早い。俺は小さい頃、子供ながらに『どうして争い事は無くならないのか』と問いかけたことがある」

「……それで?」

「なんて答えたと思う?」


それはまるで、君ならどう答える、と問いかけるようで。


「……争いは無くならない、とか」

「そうとも言っていた。だけどその人はこうも言った。『もし世界が愛に満ちていたのなら、争いは無くなるかもしれない』ってさ」


言葉を紡ぐ様は懐かしむようで、慈しむようで。


「だから俺はまず、隣人を愛したんだ。その次に、隣人の隣人を愛した。それを繰り返したら、どうなったと思う?」


カナデは答えられなかった。

それを口にするのは何故か、酷く恐ろしい気がして──


「全てが愛おしくなった。」


その言葉は、呪いのようだった。


「愛した隣人が殺し合えば、憎悪が生まれる。隣人同士が愛し合っていたとしても、愛憎が生まれる。悲しみも、勿論喜びも。ならば、この世全ての感情は『愛』に起因する」


それは、少年が見出してしまった『真理』であった。


(まさか、『一色 彩人』という『人間』は、『魔術師』という視点を得ずにひとつの『真理』を見出している──!?)


「ならば、この世全ての想いは『アイ』だろう」


ここに来てやっと、どうして彼を前にして【魅了傀儡】が倒れたのかを理解した。


「『ならば、アイに突き動かされる我らは愛の奴隷』」

「その詠唱、まさか……【魅了傀儡】の根源そのものを否定したってこと……っ!?」


それが意味するのは、【根源殺し】。

魔術師が抱いた希望、見出した神秘、重ねてきた年月の根本を崩すこと。


即ち、魔術師としての死だ。

魔術師にとって生物としての死よりも忌避される程に、残酷な仕打ちだ。


「彼女は欲していた。そして俺がそれを持っていた。それだけの話だ」

「──カナデ! 問題発生だ!」


ドアが勢いよく開き、園実が叫ぶ。


「どうしたのかしら? 【魅了傀儡】が発狂でもしたかしら」

「少し違う! なんて言ったらいいか……とりあえず来てくれ!」


呼ばれるがままに二人は【魅了傀儡】を拘束していた部屋へと向かう。


「どこよココ……グズっ、なんでこんな所に……うぅ」


ガラスの壁の向こうには、今までのように自信満々な【魅了傀儡】の姿は無く、代わりに気弱な少女の姿があった。


「なにこれ。本当に【魅了傀儡】?」

「それが、おかしいんだ。『眼』で見ても性質は似通っているのに何かが違うんだ」

「それは多分、願いの本質が似通ってるからだ」


そう口にしながら扉を開く。


「ちょっと!?」

「大丈夫、彼女は【魅了傀儡】じゃない」


近寄り、そっと手を伸ばす。


「だ、誰!?」

「大丈夫、君は怖がる必要はない。何も怯えることはない。ここに君を脅かすものは何もない」

「ほん、とうに?」

「ああ。だから今は、安心して眠るといい」


その言葉には、底のない愛情があった。

遍くを包みこみ、呑み込むほどの大きな愛が。


「う、あ……」

「……眠ったか」


目隠しはされているものの、安らかな表情を見て満足げに頷く。


「今のは……?」

「魔術でも何でもない、ただ安心させただけだ」


愛おし気に視線を向けながら、決意した。


「なるよ、魔術師に。なれば、もっと誰かを救えるんだろう?」


こうして彼は──【色欲の魔王】は神秘の世界へと足を踏み入れたのであった。












「はあ、はあ、はあ……!」


暗がりの中を一人の少女が走る。

黒い髪を目が隠れるほどに伸ばし、眼鏡をかけたどことなく地味な見た目の少女は、必死な様子で走る。


「なんで、どうして……!?」


訳が分からなかった。

理解が及ばなかった。


──むしろ、理解なんてしたくなかった。


自分の見出した神秘──魔術を破られるだけでも屈辱なのに。

自分の根幹を成す、その在り方そのものを否定されたのだ。


(とにかく、ここから離れないと……!)


もう一度、アレを目の前にしたら自分がどうなるか見当もつかなかった。


だから自分の魔術が殺され、乗り移っていた少女から精神を戻した瞬間に逃げ出したのだ。


(せっかく、ここまで来たのに……『ラグナロク』に拾われて、ここからだって言うのに……!?)


無我夢中で走り続け──気づけば知らない場所に迷い込んでいた。


「……ここ、は?」


着かれているせいか、目に映る世界がゆがんで見えて──


「いや、違う。ここは、『虚数領域』……怪異と異常の蔓延る異界!?」


足音が聞こえて、慌てて物陰に隠れる。

すぐそばを通り過ぎたのは、異形の存在。



(なんで、なんで……?これじゃ昔の私と変わらないのに……)


忌まわしき過去が首をもたげる。

それにつれて、心の奥底に昏く重い澱みが湧き上がる。


「いやだ、いやだ、死にたくない……!」


思わず零れた言葉に、近くにいた異形が反応して近づいてくる。


「う、あ……」


魔術も使えず、目の前には自分を見つけた異形の存在。


そんな絶望の中で思い出したのは、自分という魔術師を殺した男の言葉。


(愛してる、か)

「……初めて、心の底から言われたなぁ」


彼女の魔術の根源は『愛の渇望』だった。

だからこそ、心の奥底から望んでいたその言葉に、その思いに満たされてしまったのだ。


故に、【魅了傀儡】は『一色 彩人』という人間に殺されたのだ。



ぐしゃりと肉が引き裂かれる。

器を失った体液があたりに飛び散る。


「こんなところで、迷子ですか?」


鈴の音のような声が耳朶を打つ。


「あなたは、『愛』を信じますか?」


うつむいていた顔を上げる。

異常の中に普通に存在するその女性の問いかけは、彼女の心を揺さぶった。


「アナタ、は──」

「私は『アマリリス』。愛の信徒、【色欲の魔王】の忠実なる配下」


『アマリリス』と名乗った女は少女に手を差し出す。


「もしアナタが『愛』を信じるのなら、この手を取りなさい」


こうして【魅了傀儡】は死に、新たなる魔王勢力が加わった──

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