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芽生え

「『神の愛は星を動かし、世界を動かす──』」

「『生成、回転、衝撃。飛来するは鈍色の死』」


詠唱を始めたのは相手が先。

しかし、速度に特化したカナデの方が発動は僅かに早い。


「【死弾《Lead Reaper》】!」

「『ゆえに、世界に生きる我らは愛の奴隷』!」


弾丸が当たる直前、『イブ』と名乗った女子生徒の身体が輝き、瞬足を持って躱した。

それだけでは無い。

少し離れたところに待機していた生徒まで光に包まれ、常人離れした速度で襲いかかってきたのだ。


「なるほど、【強化魔術】ってわけね。なら──『神の子、人の子、英雄の子。人は英雄に、英雄は神に。未だ届かずとも、いずれ至る英雄の卵よ。その片鱗を見せたまえ!』【英雄伝説前日譚《Origin Mythologia》】!」


このままじゃ押されると感じたカナデが行使した【魔術】は他者の強化。


「こいつァ、スゲエ! チカラが、湧いてくる……!」

「これなら、戦えそうだ!」

「言っておくけど、これはこのまま成長した『ifの未来』のチカラを前借りする魔術よ! 近い未来の有り得た成長を今この時に重ねているだけ。ダメージを負ったら普通の数倍以上になるから気を付けて!!」


強化された二人が駆け出し、その背中に叫ぶ。


「オウよ! っつーか彩人も言ってたが、コイツの攻撃を受ける気なんてサラサラねェっての!」

「嶺二、君にひとつ聞くけど……これは個人の喧嘩か?」

「いや、俺たちの戦いだ」

「なら、卑怯とは言わないな?」

「たりめェだろ!」


操られた5人の内、3人が彼らに襲いかかり、残りの2人は園実の方へと駆けていく。


「キミが2人、俺が1人だ!」

「あいよ!」


役割分担をして戦い始めた2人を見届けて、『魔術師』の2人は向かい合う。


「『生成、回転、衝撃。飛来するは鈍色の死』」

「『反証、人の思いは意志を曲げるに値する』」


鍵句を用いない高速詠唱に対し、イブが紡いだのは【反証魔術】。

放たれた弾丸は軌道を曲げ、彼方へと飛んでいった。


「反証か……面倒な!」

「『詩結び、思い届ける、飛翔の矢』【矢文一条】!」


即座に行使されたのは、お返しと言わんばかりの矢の魔術。

紡がれた言葉が輝く矢を象り、空を切る。


「『堕ちる果実、天へ引く弓。万物は神へ届かず、祈りだけが届き伝わる』【万墜堕天《Fallen Forbidden》】!」


矢は地面を穿ち、煙霧を巻き起こす。

その煙霧を突っ切って、カナデは新たな魔術を紡ぐ。


「『振動、共振、浸透、瓦解』」

「要素魔術……! 『不動、不振、不浸──』」

「遅い! 【共 振 透 解】!」

「『愛の犠牲、恋の代償。焦がれ焦がすは我のみならず』! 」


イブの体に掌底が叩き込まれる。


「【同心同壊】! ぐっ!?」

「がっ!?」


叩き込まれたと同時、攻撃したカナデまでもが後ろに飛ばされ、よろめく。


「ぐ、げほ……人を呪わば穴二つ、ってわけね……」

「ごほっ、お前が、人類を神話として見出すなら、効くでしょう……!」


行使されたそれは他者に対する魔術の攻撃を『呪い』と見なし、術者に返す魔術だ。

当然、この魔術も魔術なわけであるが故に、行使した本人にもダメージが残る諸刃の剣だ。


「私を倒せるかしら、【人理神話】……!」

「倒してみせるわ。私という『人』の生き方で【神話】を証明して見せる。私はそう在らなくてはならない」


淡々と告げられたその言葉には、狂気にも似た強い意志が込められていた──









「──オラァ!」


嶺二の拳が、操られている生徒を打ち抜く。


「硬ェ、けど、コッチだってよォ!」


右脚で踏み込み、右の拳で打つ。

それは先程の喧嘩じみた動きではなく、無駄を極限まで削り、洗練された動きであった。


「ジジイは生木を爆裂できるが、荒削りだとこんなもんか……」


顔を打たれた生徒は脳が揺れたのか、ふらついて立てない。


「どうにか行動不能にしたいところだが……そうは問屋が卸さねェってか!」


それは許さないというようにもう一体が襲い掛かる。


(一度防いで殴り飛ばす。距離が出来たら、動けない方を戦闘不能にして──)

「躱せ嶺二! 刃物を持ってるぞ!」

「っ! 何だと!?」


守りの体勢から体を逸らし、振るわれたカッターを避ける。

崩れた体勢、乱れた思考。

操られている生徒は、それを見過ごさなかった。


その勢いのまま突進。

構えられたカッターの鋒は、偶然か嶺二の心の臓へ。


「マズ──!」


慌てて手で阻もうとするが、焦った頭では上手くいかずに刃先はすり抜け──


ドン、と衝撃。


もつれ、転がり、慌てて確認したのは彩人の姿。

転がる直前に、目の前の生徒を飛び蹴りで退けたのが見えたからだ。


「彩人!」


『強化魔術』の副作用で痛む身体に鞭を打ち、立ち上がって叫ぶ。


「嶺二、無事か?」

「魔術の副作用で身体中痛てェが問題ねェ。前借りしてるチカラの分、痛みが倍増してるみてェだ。お前も気を付け……オイ、彩人?」

「ああ、身をもって実感してる」


ふらつく彩人が振り返る。

その脚は血に塗れていて、近くにはカッターが転がっていた。


「彩人!?」


慌てて駆け寄り、彩人を支える。


「くぁ、しくじったな。飛び蹴りでもつれた時に刺さったか」

「オイ、動くな! ……ッ、カッターの刃が刺さったまま折れていやがる!」


傷口を見ながら歯噛みする。

自分のせいで、友達がケガをして苦しんでいるのだと。


「……彩人、少し休んでいてくれ」

「嶺二……?」


ゆっくりと彩人を座らせて、立ち上がる。


(彩人が負傷したのは、俺のせいだ。ならやるべきことはひとつ。わかってんな、俺)

「自分の尻は自分で拭え!」


駆け出すと同時に息を吐き出す。


(要らないものは全て吐き出せ)


脱力しながら前傾に倒れるように走り──息を吸う。


(必要なモノは全て取り入れろ!)


今度は大地を強く蹴りつけ、急加速。


(苦痛も、疲労も、今は全てが要らねェ!)

「シィッ!」


短く息を吐き、それを乗せる。

パン、と乾いた音とともに生徒は吹き飛んで動かなくなった。


「今のは……」


普段とは違う、どこか不思議な感触に何かを掴んだ嶺二。


「今のが、『神秘』か……? ぅッ!?」


虚脱感と吐き気に思わず膝を着く。

素質があったとはいえ、なんの習熟も無いままに使いこなせるほど『神秘』は優しくないのだ。


「まだ、まだ倒れるな。せめて、彩人を……!」

「──ま、一般人としては頑張った方なんじゃないの?」


破裂音と衝撃音。

迫っていた生徒が仰け反り、倒れ伏す。


「『異能』も『魔術』も、余人が気安く触れるべきモノでは無いのよ」


リボルバーに二発装填し、倒れた生徒の頭と胸に一発ずつ撃ちこむ。


「荒屋敷……!」

「頭と胸に術式がある。両方破壊しないと止まらない仕組み。そのおかげで私も無力化するのに手間がかかったわ」


面倒くさそうにリボルバーに弾を込めながら嶺二の倒した生徒を見やる。


「へぇ、『気』を流し込み、過負荷をかけて術式を止めたの? 力技だけど確かに有効な手段ね。さて、カナデの方は手を貸す必要がないと良いのだけど……」


戦いながら自分たちを巻き込まないために移動した友の安否を憂うのであった。


反証魔術

基本的には即席で紡ぐ、相手の魔術を無効化するための術式。

大体はその魔術の在り方を否定する文言が用いられる。

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