異変
ここら辺から主人公が神秘に関わり始めます。
私、魔術とか神秘とか大好物なんですよね。
というわけでどんどん使っていきたいわけなんです。ネタが枯渇しないレベルで抑えが利くといいのですが……
──あれから私は仲間を集った。
【人理神話《System Mithology》】である私、『古登 カナデ』を始めとして、私のメイドである『メア』。
『念視』の『異能使い』、『新屋敷 園実』。
『光陰外流剣術』における【剣聖】の孫娘、『薙翠 童子』。
「行くよ!」
化生の生きる虚の世界で私たちは駆ける。
「またあなたですか。前回、あんなにも無様に壊滅したのにまた懲りずにやって来るとは……」
「こっちだって無策で来たわけじゃないのよ──仲間だっているわ」
「あら、なら丁度いい。私の主様が新しいペットの飼育を始めたのよ」
夢魔が指をパチン、と鳴らす。
「ヒュー、ヒュオオオオオオ!!」
そうして現れたのは、猿の顔に虎の胴、蛇の尾を持った化生。
「まさか、『鵺』……?」
「主様曰く、『拾ってた』とおっしゃられていましたの」
まるで落し物を拾った、みたいな言い方をする夢魔だが、そんなわけが無い。
鵺、またはトラツグミ。
日本においては『源平盛衰記』において源頼政に討伐された獣の妖怪。
妖獣であり、雷と共に現れる様から【雷獣】とも呼ばれるチカラのある存在だ。
決して、猫のように拾ってきたと言えるような易い存在では無い。
「カナデちゃん、どうするの? 私の『眼』で見てもかなり強いよ?」
「もちろん、決まってるわ」
手を掲げ、魔法陣を展開して叫ぶ。
「即時撤退! 各員全力で逃げるわよ!」
その言葉に従い、各自素早く行動を起こす。
誰かが撒いた煙幕が晴れたころには全員が撤退した後であった。
「ヒュー?」
「あなたの鼻が利かないのなら追跡は無理ですね。魔術的痕跡もうまいこと誤魔化されています」
「ガッ!」
「ええ、偵察目的であったのならまんまとやられてしまいました。ですが、主は殺しを望んでいません」
踵を返し、帰るべき場所へ帰る。
「行きますよ鵺。朝になったら主さまにご飯を頂きましょう」
「ヒュー!」
「ほら、おいで。ご飯だよ」
彩人の声に反応して、物陰から現れたのは猫と蛇。
「こっちが猫で、こっちが蛇のだよ」
にゃあにゃあと、シャアシャアと、彩人の用意したご飯を美味しそうに食べる。
「よしよし、君たちは元気だね。拾ってきた時はあんなにも弱っていたのに……」
その呟きが耳に入った二匹は食べるのを一旦やめてジッと見つめる。
「ん? どうかしたか?」
「……にゃあ」
「シュルル……」
どこか消沈した様子で食事を再開する二匹を不思議そうに眺める。
「こらー! 蛇と猫をイジメちゃだめー!」
叫びながら、小さい影が彩人に突撃する。
「おっと、鶫ちゃんか。イジメてないよ、ほら。ご飯を上げてただけ」
「うそだ! なんか言ったでしょ!」
「いいや? 拾った時に比べたら大分元気になったね、って」
(……私たちは毛ほどにも気にされていないと言うことか)
内容を話せば大人しくなる鶫と呼ばれた少女。
それがどうしてか猫や蛇に重なって、またもや首を傾げる。
「ほら、彩人さん。ご飯食べないと冷めちゃいますよ?」
「ああ、ごめんなさい。今行きますね。ほら、鶫も」
「ぐぬぬ……いつかメタメタにしてやる……!」
小学生位にしか見えない少女は歯噛みしながら決意を小さく口にするのであった。
「──あー、もう!もう! 全然魔王に勝てないんだけど!?」
いつかと同じように、机に突っ伏して叫ぶカナデ。
「またか……ひと月くらい前にも同じこと言ってなかった?」
「仲間も集めたのよ? なのに、なのに……!」
「はあ、せめてなんのゲームか教えてくれれば調べるんだけど……で、どこら辺まで進んでるの?」
「昨日門番まで行って即時撤退してやったわ!」
自信満々に言い放ったのを見て、なんとも言えない表情になる。
「なにその、『え、まだそこ?』みたいな顔は! 魔王よ、魔王! そんな簡単に倒せるわけ無いじゃない!」
「カナデちゃん、ちょっと声大きい。もう少し静かに話しなさい」
そこに声をかけたのは新屋敷 園実。
クールビューティーが印象的な女子生徒で、どこか冷たい印象を受ける人も多い。
「あ、ごめん園実。声大きかったかな」
「そこまでじゃないけど内容がね。えっと、昨日のことを話したいんだけど……この人は『お仲間』?」
「……いえ、違うわ」
「そう、できれば早めに話したいのだけれど……」
「わかったわ。ごめんね一色君」
その言葉に察し、話を切り上げて移動する。
「一色くん、でよかったわね」
だと言うのに園実は彩人に話しかけた。
「えと、新屋敷さん?」
「アナタ、何かものすごく我慢してない? そんなに我慢しているとよくないわよ」
「……よくわかるな。肝に銘じておくよ」
それだけ告げて、二人で他の空き教室へと入る。
「人にああやって助言するの、珍しいわね」
「少し気になったから。カナデ、一色君と仲いいの?」
「仲がいいって言うか、たまに愚痴を聞いてもらってるのよね。前に落ち込んでた時に話しかけてくれてね。それからたまに……」
「そう。なら、少し気にかけてあげた方がいい。彼、なにかものすごく感情を抑え込んでる」
「それって……?」
「わからない。けど、私の時みたいに気にしてあげてほしい」
「わかったわ。今度、それとなく聞いてみる。それで──」
「この学校にこっち側の住人が紛れてる。と規定はできてないけど、注意して」
「やっぱりね。さて、どうし──」
対策を考えようとしたその時だった。
ズンッ、と身体の芯に響くような重さを感じた。
「今のは……」
「精神干渉と魔力干渉が同時行使されたみたいね。幸い、私たちは対魔王用に準備した護符やらなんやらでレジストできたみたい」
「噂をすれば、って感じ。どうする?」
「犯人の意図は読めないけど、耐性の寧一般生徒たちは気絶してるんじゃないかしら。とはいえ、あの規模の魔術ならおそらく学校内に忍び込んでるわね。園実、武器は?」
「……教室に【術式銃】のハンドガンが一つある」
「なら警戒しながら教室へ戻りましょう。園実に銃なら鬼に金棒よ」
「伊達にこの『眼』と付き合ってないわ」
慣れない賛辞に頬を染めながら、足早に教室へ向かうのであった。
「よう、彩人。元気にやってっか?」
教室がざわつく。
ズカズカと無神経に声をかけた男は制服を着崩し、『不良』と呼ぶにふさわしい格好だったからだ。
「普通だよ。そっちは元気そうだね」
「おう、それでよ。放課後ちょいとツラ貸して欲しいんだが……」
平凡な彩人と不良の少年は傍から見ればかつあげにあっているようにも見える。
「殴り込みなら行かないよ。前にも言っただろ? 喧嘩は苦手なんだ」
「お前なら全然やれると思うが……じゃなくて、ほら、この前から喧嘩は控えてんだ。実家の武術をもう一回習おうと思ってよ。それで、一緒にやらねぇか? ってお誘いだ」
狩る側と狩られる側に見えなくもないが、彼らは友人である。
『神奈木 嶺二』。見た目通りの不良に分類される男だ。
「武術か。気になるけど通うとなるとお金がないからな……」
「あー、じいちゃんが気に入った相手なら多少安くしてくれるんだが……まあ、体験だけでもどうよ?」
「体験だけなら考えてみるか」
そんな会話をしている、その時であった。
ズンッ、と臓器を揺さぶる、振動のようなものを感じた。
「……ッ!? なんだ、今の……!」
頭が揺れたようにふらつき、思わず近くの机にもたれ掛かる。
「彩人、無事か!?」
「俺は大丈夫だが、他の皆はそうじゃなさそうだ」
見渡せば休み時間だからと自由にしていた生徒たちが皆様倒れ伏している。
「──二人とも動かないで。下手な動きをしたらその頭をぶち抜くわよ」
ドアを勢いよく開け放つ。
手で銃を模り、指先に弾丸を浮かべてカナデは告げた。
鵺が魔王の仲間になっている理由はまた後ほど。多分かなり先になります。