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幸せな悪夢

おひさです。

表現に納得がいかなくて滅茶苦茶書き直しました。


んー、個人的には狂気が足りない。

人間性の喪失ってわかる人なら容易に想像できるんですけど、知らない人には恐ろしさがわからない可能性が……


見易さの兼ね合いと考えると、うーん狂気が足りない。

一色彩人──かつての多色彩人は傍から見ればただの好青年であった。


中学生男子にありがちな女子との微妙な距離感も無く、壁の無い、分け隔てない態度は好感を持たれていた。


だからだろうか、友達と恋バナになった時にその名前を上げたのは。


その時の私に意中の相手なんて居なくて、例として『一緒に居て居心地のいい人』というのが上がって──ふと思い浮かんだのが彼だっただけだ。


恋愛なんて難しいもの、私にはわからない。

その後に委員会の仕事で荷物運びがなければ何もないままであっただろう。


「手伝うよ」

「あ、ありがと」


他の委員たちはこの前の話に気を使ったのか、「他に仕事がある」といってどこかに行ってしまった。


色恋沙汰となるとこれだから……


「今日の放課後はやることが無くてさ。丁度良かったよ」


申し訳なさを読み取ったのか、何気ない会話が始まる。


「趣味とか無いの?」

「熱中してるものはないかな。普段はご飯食べたり寝たり……ボーッとしたり?」

「ふふ、何それ」


まるでダメ人間のような言葉に思わず笑みを零す。


「あとは走ったりかな」

「私は陸上だから走ってるけど……キミ部活、入ってたっけ?」

「入ってない。刺激が欲しい時に少し走る程度だよ」


そんな他愛もない会話が、どこか心地好くて。

もしかしたら、それが”好き”だと言うことなのかとふと考えたりして。


「ねぇ、君は恋愛ってどう思う?」


そんな疑問を思わず零していたのは、居心地の良さ故か。

はたまた、彼ならばその言葉を笑わないと察していたからか。


「……それは、どういう意味で?」

「そのままの意味。恋とか愛とか、そういうカンタンなオハナシ」


あえておどけて言った言葉に、不思議そうに首を傾げる。


「カンタンか?」

「少なくとも、皆は分かってるらしいよ」


あえて馬鹿にしたように告げた言葉に、ああ成程と頷く。


「少なくとも俺は恋や愛に幻想は抱いてないな」

「ほほう、どちらも知ってると?」


ああ、コイツも知ってる風な口をきくのか、と落胆しかけたけど、そうじゃなかった。


「恋はよく分からないけど……そうだな、愛は何となく、かな?」

「恋が分からなくて、愛がわかる?」


今度は私が首を傾げる番だった。

だって、よく人は『恋の先に愛がある』と言うから──


「そもそも、恋と愛は似通ってるだけで別だと思うんだよな」


そう言って彼は黒板に、一部が重なる円を2つ書く。

ひとつに”恋”、ひとつに”愛”、重なるとこに”恋愛”と。

ただし、”恋”の方が少し小さく”愛”はとても大きく描かれていた。


「恋は求め、愛は与える。まあ、概ねそんな解釈でいいんじゃないか?」

「大きさが違うのは?」

「簡単な話、恋が”恋人”に対するものであるのに対して”愛”は対象が限られていないってこと」

「それを引っ括めて、『恋愛』?」


それが彼の答えだった。

それが真実かどうかは分からなかったけど、ひとつの答えであるとは感じた。


「じゃ、じゃあ! 恋の先に愛があるって言うのは!?」

「そりゃそうだろ? 恋人は番い……家族になるんだから。恋人に求める”恋”が”愛”に変わるのは必然だろ」


言われてみれば、その通りだ。

なにより、どこか実感の籠った言葉には説得力があった。


「……そんなアナタでも”恋”はわからないの?」

「ああ、さっぱりだ。見当もつかん。それに……」

「それに?」

「多分、わからないと思う」


私も多分としか言えないが、そう告げた彼がとても遠く見えて。

それがどうにも、消えてしまいそうに見えたからだろう。


「なら、二人で探してみる?」

「それは…………遠回しな告白か?」


最初はそんなつもりじゃなかったけど、周りの友達も誰かといる訳だし、この際それでもいいかと頷いた。


「じゃあ、これからよろしくでいいのか?」

「うん、よろしく!」



これが間違いの始まりだった。


その後はこれといった変化も無く、恋人モドキの私達はそれっぽいことをいくつかしてみた。



散歩、ショッピング、水族館、エトセトラエトセトラ……



陸上部だから、歩くより走る方が好きだといえば、ランニングに付き合ってくれさえした。



楽しかった。

とても楽しくて、私はもう少して恋がわかりそうで──



そして、次の間違いが起こった。



雨の中練習をして、骨折し、さらに風邪を引いたのだ。

長期休暇に入ったばかりで、さらにいえば陸上部の合宿もあったのだが、参加はできなかった。


家族は前日から長期の旅行に行っていて、家には自分ひとり。


それを心配した彼は、泊まり込みで看病しに来てくれたのだ。


不安は勿論あったが、それ以上に私は嬉しかった。

心配してくれる彼に、もう少しで何か分かりそうな私に。



「お粥を作ったんだ。良かったら食べてくれ」

「熱は……まだ高いな」

「薬と水だ。スポーツドリンクも置いておくよ」

「おはよう、まだ熱は高いな。体を拭いて服を着替えろ」

「消化に良いそうめんを作ったんだ」

「痛むか? 食わせてやる」

「生姜湯だ。温まる」

「おやすみ」

「おはよう、よく眠れたか?」

「服脱いで……これで綺麗になった」

「美味いか? 食欲も戻って来たみたいだし、美味しい物を作ろう」

「お粗末さま。まだ動こうとするな」

「まだだるいか?」

「シャワーを浴びたい? フラフラじゃないか」

「倒れてるし。やっぱりダメじゃねぇか。手伝ってやるから座れ」


彼は献身的で、邪なものを感じさせなかった。

だから、つい甘えて受け入れてしまっていた。


ひとつひとつ、人としてのナニカが失われていく。


食事は欲せば用意され、食べさせて貰える。

風呂に入りたくなれば用意され、入れさせて貰える。


欲せば用意され、施される。

それはあまりに甘美で、退廃的で。


つまるところ、堕落だった。



何時しか言葉を発せずとも彼は察して行動してくれた。


食欲、睡眠欲、性欲の全てが満たされる。

尽くされ、承認され、ココロが幸せに満たされる。


なにもかんがえなくていい。

しあわせだった。

こうふくだった。

やわらかく、つつまれている。


しあわせ、だった。



「初音?」

「う、あ──?」


なにか、こえをかけられた。

こまくをゆらす、その音すらここちよい。


だいじょうぶ

かれは、りかいしてくれる

あたえてくれる──


「──俺は帰るよ。今日は家族が帰ってくる日だ」


何を言ってるのか、理解できなかった。

彼が近くに居ない。

治まっていたはずの身体がやけに痛む。

身体の熱が上がって、汗が吹き出す。

のどがかわいた。

いたい

つらい

くるしい

あやと、あやと、あやと──


遠くで扉が開く音がする。


「あ、や……と──?」


ちがう

これはあやとじゃない

あしおとがちがう

かれはわたしをきづかって、あしおとをおさえるから


「初音──初音? 初音!!」

「あ──」


こえが、うるさい

かれはそんなことをしない

かれは、かれはかれは────















「──っ!? はぁ、はぁっ!?」

「落ち着いて、大丈夫。大きく息を吐いて」


隣から優しい声が届く。


「わた、し──」

「昔の事を思い出して、少し疲れただけ。ここには私たちしか居ない」


初音が見回せば、そこにいるのはカナデと園実と名乗った少女。

初音はその声で、ようやく昔の話をしていたことを思い出す。


「その後は、気づいたら彩人は引っ越してて……」

「今のが本当なら、『一色 彩人』のルーツはそこね」


【人理神話】という魔術師としての判断はそうだった。


「引っ越す前まで彼の名字は『多色』だったのよね?」

「え、そうだけど……そこって重要?」

「とても、ね」


初音が首を傾げるのは無理もない。

魔術師にとって家系を表す名前はとても重要なものだ。


その一員として育てられたものは、良くも悪くも”そうあれかし”とされている。

であれば、その為人に影響を与えるのは当然。


「『多色』を『一色』に変えるだなんて、最悪にも程がある」


多を一に。

つまりは、そのほかの色の剥奪。


「『名伏せ』や『名隠し』じゃない。ただ名前が変わっただけではありえない」

「それって、つまり……」

「どこかで『魔術師』が関わってる」


第三者から見るとそうはならんやろってなるかもしれませんが……

・怪我病気で弱った精神と肉体

・倦怠感

・望めば与えられる状態

・向けられる感情は愛情

・芽吹いていた好意

といった点で心理的な壁がグズグズに溶かされて行ったと思ってください。


簡単に言えば洗脳と同じような仕組みです。

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