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『カナデ』と『マキナ』と『一色 彩人』

キリのいいところで終わらせようと思ったら少し長めに……


今後の予定ですが、新作を書きながらこちらもボチボチ進めていく予定です。


新作は少々お待ちくださいな

それは奇妙な世界だった。


一人の少女が立つ場所は、何も書かれていない白紙の世界。


もう一人の少女が立つ場所は、みっしりと歯車が乱立し、回る世界。


「ここは……」

「所謂、精神世界とか内在世界ってやつでしょ」


歯車に立つ白髪の少女に、白紙の上に立つ黒髪の少女が答える。


「……カナデ」

「まさか、アナタが人格を獲得しているとは思わなかったわ、マキナ」


彼女達が直接こうして相見えるのは、今回が初めてだった。


「それにしても、アナタが私を作ったなんて……ずっと逆だと思ってた」

「一部否定:アナタは私が作った。私を作ったのもアナタ。アナタは私の母であり、私はアナタの母でもある」

「えっと、つまり互いが互いを創造し合い、補完した?」

イエス


彼女らの関係は、所謂もう一人の自分では無い。


互いが母で、互いに娘。

互いが姉で、互いが妹。


肉の入れ物は他者に用意されたものだが、それ以外は自身が用意したものだ。


「でも、孤独じゃないのね私たち」


思い出すは、カナデがマキナを作った時。

魔術の師と共に世界を回っていた時だった。


荒廃した大きくない街で、紛争に巻き込まれて。

まだ未熟だったカナデは心の底から願ったのだ。


──誰か助けて、と。


その声は届く者は、自分を含めて無力な人間のみ。

当然、救いなど届くはずもなく。


──誰も助けに来ないなら。

──せめて私が、『救済者』に。


そうして発現したのが【人理神話】。

救済を望む者『カナデ』。

救済を臨む者『マキナ』。


カナデより生じた『思い』や『願い』。

それを叶える魔術、【神威外機構デウスエクスマキナ《Deus Ex Machina》】。


即ち、神の埒外にある神話機構。


故に彼女に神の加護など無く、この世界の神に類する神秘を使えることも無く。


彼女/カナデが紡ぐ魔術は、人の生みだした物ばかり。

マキナ/彼女が使う魔術は、人の成した伝承ばかり。


解決する為の術と、解決した術を用いる彼女たちは──2人でひとつの【人理神話】だった。


「肯定:彼らの思いは目を見張るものがある」


2人で閉じてしまうはずだった世界を、思いを乗せた弾丸が切り開いたのだ。


「ほんとね。アホ嶺二は私を目の敵にしてるくせに、心の中じゃこうだし、園実は優しいし、童子ちゃんは可愛いし……あのイヴってやつはどうにも、一色くんが望んだからってだけだけどね」


指折り数えるは、思いを乗せてきたカナデを求める人間。

【万象の解決者】マキナでは無く、ただのカナデを求める思いだ。


「そもそもマキナはさ、私が今回『どうしようもなく』追い詰められて、それを解決するために表に出てくれたんでしょ?」

イエス

「文句じゃないけどさ、流石に不要な人類を抹消して、人類史そのものをやり直すってのはやり過ぎじゃない?」


今回、事においては誰の悪意によるものでもなかった。

綾人はカナデの歪さをどうにかするために、時に離れ、時に叱り、最終的に敵に回っただけだった。

その歪さの要因の一つである『マキナ』を表に呼び出し、カナデに自覚させ──話し合わせるために。


「マキナは、【デウス・エクス・マキナ】は不要か」


必要とされている思いは、カナデへ向けられたものだった。


解決者マキナが不要ならば、私は眠ることにしよう」

「何言ってるの。よく見なさいな」


上を指した先を追い──思わず口を開く。


「あれ、は──」

「一色くん曰く、『愛』ってやつでしょ。アレでマキナの意識を押さえつける事で、この内在世界に来たのよ」

「ちがう、そうでは無く──」


マキナが聞きたいのはそこでは無い。

あそこにある、内在世界を覆う程の『愛』は誰に向けたものか。


「アナタよ、マキナ。私が仲間から向けられている『思い』と同じくらいの『思い』をあなたに向けているのよ」


四人が向ける感情と同等以上の愛情を、『一色 彩人』はマキナへ向けたのだ。


「私はこの世界に必要ですか?」

「ほかの誰かは知らないけれど、少なくとも私と一色君は必要としている」

「ならば、仕方ない。マキナはカナデとともにあろう」


歯車が白紙の世界に噛み合う。

歯車の隙間が白紙で埋まる。


欠けていたパーツが合わさり、彼女たちは【人理神話】として完成する──



「よろしくね、マキナ」

「これからはともに」


【人理神話】は新たなる頁を綴る──








(とりあえず、みんなには謝らないと)


自分達を救い上げてくれた彼らに、謝罪と感謝を伝えようと瞳を開く。


「……あれ?」


てっきり、自分のことを待っていてくれているものだと思ったカナデは拍子抜けし──それどころでは無かったことに気付く。


「しっかりしろ彩人! 気を強く保て! 絶対に手放すなよ!」

「なんで、【回復弾】の効果が薄い……!?」


聞こえてくるのは焦燥の声。

視線を向ければ、血に濡れ倒れ伏せた彩人の姿。


「一色くん!?」


駆け寄ったカナデが見たものは、身体を大きく切り裂かれた綾人。


「なんで……彼は確か、人魚の肉で……」

「人魚の肉は便利な回復薬じゃないの! 人の思いや欲望を喰らって生命力を吐き出す発電機みたいなもの。彼は『愛』を代償に回復していたけど、今は──」


カナデは曲がりなりにも『異名持ち』の魔術師。

その言葉で察しが付いた。


彼が回復しない理由は、その『愛情』を使い果たしてしまったから。


「園実! まだか!?」

「ダメ、根本的に本人の精力が足りない……!」


今の彩人の状態はまさに、精根尽き果てた状態。

生命力活性化の術式も意味をなさなかった。


「──マキナ!」

「いくつかの該当例あり。条件難易度・高」


一つの身体に二つの意思。

故に交互に彼女たちは話し始める。


「よかった。二人とも話し合えたんだね」

「本当に無茶して……! マキナ、条件って!?」

「出典は『とある聖人の復活』」

「有名なやつね。けど、それは一色君が【聖人】じゃないと……」


そこまで呟いて、ふと気づく。

確か、彼を【聖人】だといっていた少女がひとり──


「童子ちゃん! あなた確か、彼を【聖人】って……」

「え、あの、はい!」


治療に加われない童子は離れたところにいて、突然の呼びかけに肩を震わせる。


「証拠は!? 何か持ってたりする!?」

「は、はい。これを……」


腰に佩いていた木刀を差し出す。


「園実!」

「……これは、本当に聖具ね。これが?」

「もとはただの訓練用の木刀だったんです。それが、彩人さんに助けてもらったときに、彼が一振りしただけで……」


『対魔王戦力』が結成される前。

それどころか、この町に【魔王】がいると知られる前にあった出来事。


そのときに様々な偶然が重なりあって生み出されたのがこの『聖木刀』であった。


「どのみち、悩んでる時間も惜しい! 『儀式魔術』を準備する! アマリリスって言ったわね。ここらへんに丘は?」

「少し歩いた先に小さめの丘があります」

「じゃあ嶺二、一色君を担いで」

「わかった! ……おい、カナデ。それは?」

「これ? 見てわかるでしょう。『十字架』よ」


【人理神話】の魔術を応用して作り出した身の丈を超える十字架を背に背負い、歩き出す。


「あの、カナデさん。代わりましょうか?」

「いいの。これは罪人が背負わなければならないから」


この儀式で必要なものは『丘』『十字架』『罪人』『観測者』『聖者』、そして──『処刑人』。


「よいっしょ!」


ズドン、と重い音を立てて十字架が丘に刺さる。


「嶺二、一色君を磔に」

「……ああ、わかった」


何のためかは分からないが、それが必要なことであるならと。

嶺二が支え、ほかの人間が彩人を括り付ける。


「ごめんね、一色君。でも、必要なことなの」


すでに彩人の意識はなく、言葉は紡がれない。

弱弱しくも、まだわずかに鼓動は刻まれている。


「時間ね。ここまでよく持ってくれたわね」

「カナデ、これって……」

「明日は安息日。それまで罪人を見張るのはいやよね」


十字架の足が乗っていた台を砕く。

宙吊りになった彩人の身体はその負荷に、命の灯が消える。


「童子、生死の確認を」

「……わかった」


震える手で刀を構え、彩人のわき腹から刺し貫く。

ピクリともしない彩人は、明らかに息絶えていた。


「園実、見届けたわね?」

「ええ」

「なら、後はあなた次第よ。でも、叶うのなら私は、私たちはあなたに直接お礼を言いたいわ」

「……もし彩人様が帰らなかったら、私たちはあなたを殺します」

「それでいいわ。その変わりに、他の人類も纏めて──みたいなことは辞めなさい」

「なんでっ!? いつもそうやってニンゲンはそうやって……! 彩人さまは、救われない人を救おうとしただけなのに! 助けてもらったクセに、彩人様を助けもしない連中に! 慈悲なんて必要あるモノか!?」


悲痛な叫びだった。

救う者は救われないのかと。

そんなものに価値はあるのかと。


「マリン、貴女の言い分はよくわかります。私だって同じ思いです」

「アマリリス……」

「でも、彼はそれを望まない。そう言いたいのでしょう?」


カナデに問いかければ、帰ってくるのは首肯。


「だから私は、その時は貴女だけを殺す」

「……優しいのね、貴女」


もしこの儀式が失敗すれば、カナデは永劫苦しむだろう。

だからこそ、アマリリスの言葉に優しさを見出すことができた。


「それでも、甘える訳にはいかない。最も、私達にできることは、ただ願うことだけ」


棺に納め、綾人の亡骸を埋める。

掘り出しに来たのは、翌日の事だった。


「処刑三日目、安息日。掘り起こすわよ」


園実以外の『対魔王戦力』全員で掘り起こす。

それまで、園実は目を閉じたまま。


(処刑三日目、安息日。現世でなく、独立している曖昧な虚数世界。現世の聖書を辿っているけど、この虚数の世界では『一色 彩人』が【救世主キリスト】であるのなら──)


掘り起こした棺を開く。


「──は?」

「え!?」


予想だにしていない光景に、魔術師でない二人は声を漏らす。


「園実、もう目を開けていいわよ」

「……彩人の遺骸がない?」


彼女らが目にしたのは、空っぽの棺。

今回、【人理神話】である彼女たちがおこなった儀式魔術は【聖者の復活】。

とある救世主を冠する聖者が、死後蘇ったとされる逸話。

聖書にも記される有名な話。


「マキナ、今一色くんがどこにいるかわかる?」

『解答:彼が帰るべきところに』

「なら、彼の家でしょうね」


彩人がいるであろう場所へ歩みを進める。


この儀式魔術は、様々な偶然が奇跡のように重なったことで半ば成功した。

カナデが意図的に作り出した状況に加えて、躯という兵に慕う夢魔や人魚といった魔なるモノ。

『一色 彩人』がこの虚数空間という異界において、聖者であり、ここにいる者たちを救う救世主であったこと。

そして、『対魔王戦力』の彼ら彼女らの思い。


それらが『一色 彩人』を呼び戻した。



何時しか彼らの歩みは加速し、駆け足に。

彩人宅の扉を開き、先へ進む。


その次に開いた扉の先、ベッドから身体を起こした彩人が居た。


「彩人!」

「一色くん──警告:制止推奨」

「カナデ!」


近寄ろうとして、違和感を感じたマキナが警告を発し、続いて園実まで声を上げた。


童子までもが刀に手をかけ、よく見ればムクロも同じように。


「だ、れ?」


向けられた視線に温度は無く。

余りにも彼女達の知る『一色 彩人』とは乖離していて思わず問いかけた。


そして、口を開く。


「さて、俺は『一色 彩人』だ。それで、お前たちは誰だ?」




第一章は次回で終わると思います。

ゆっくりではありますが、続けていきますのでよろしくお願いします。

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