彼らが向き合うべきものたちよ
最近寒くなってきましたねー。
皆様もお体にはお気をつけてくださいな。
「おい、綾人……なにいってんだよ……?」
「言葉の通りだよ、嶺二。どう捉えるかは君たち次第だ」
【魔王】の潜む場所の家主と名乗った綾人。
それ即ち、彼は──
「アンタが【魔王】、なの?」
「実を言うと、自分でもよくわからないんだ。ここに居る誰かかも知れないし、『私』かも知れない。でも、ここにいる者たちは僕が知る限り【悪】ではないし、そんな彼女たちが認めている同居人も【悪】では無いと信じてる」
わからないと言いながら、自分がする事は明確に告げる。
──この地を脅かすなら敵に回るのだと。
「守りたいのは彼女たちだけじゃない。けど──」
両手をカナデに伸ばす。
「──っ! 【気纏・軽気】『瞬撃』!」
何かを感じ取った嶺二が俊足で動き、彩人を殴り飛ばす。
「お前、今、なにをしようとした」
「は、はは……さすが嶺二。感がいい」
割れ、血の流れる顎を摩りながら、どこか嬉しそうに笑う。
「あぁ……主様が私の『肉』で、お身体を、あぁ……」
「自分の『肉』で修復されるのをみて、恍惚とするのは
やめなさい。気持ち悪いわよ」
遠くで小さく騒ぐ夢魔と人魚に一瞬だけいしきを向け、嶺二に向き直る。
「危害を加えようとしたつもりはないよ。ただ、そうだな……彼女の中身を引きずり出そうとした、で伝わるかな」
「わかんねぇ、わかんねぇよっ! なんでお前はそっちにいるんだ!? どうして何もわかるように言ってくれねぇ!」
この期に及んで、嶺二は気が付いた。
彩人とぶつかり合って、理解したつもりになっていた。
だが、理解できたのなんてほんの一部分で──
「なあ、嶺二。ならお前は、あの喧嘩で本気を出したのか?」
「何を……」
「本当に、何もかもをさらけ出して戦ったのか? 違うだろ?」
あの時、嶺二は確かに使わなかったチカラがあった。
「俺はあの時、出せるチカラは全て使って戦った。ひそかに開発していた魔術だって使ったし、道場で培った戦い方も使った」
それに比べて、お前はどうだ、と目で問いかける。
「アレは、気軽に使えるモンじゃない。あの時使ったら……」
「俺を殺していた、か? そこだよ。お前は止まった方がいいと考えて、止まることができた。だが、お前はどうだ、カナデ。いや──【人理神話】」
話の向きを変え、カナデに問いかける。
「え? わ、わたし?」
「ああ。お前たちは止まれるのか? 人を神話とみなすその道を、止まれるのか?」
その問いに対する答えを、彼女はすぐに返すことができなかった。
今まさに、彼女は進むことができるかを思い悩んでいるせいで魔術を使えないのだから。
ダァンっ、と。
静寂を、破裂音が切り裂いた。
放たれた弾丸は彩人に一直線に向かい、蠢く水に受け止められた。
「みんな、惑わされすぎ。結局、ソイツの言葉に対する答えは自分で考えるべきものばかり。それに、今目の前に立ちふさがる理由にはならない」
「荒屋敷さんの言う通りです──【首堕】」
いつの間にか死角から駆けていた童子が刀を振るうが、差し込まれた剣に阻まれる。
その剣の持ち主は、中身の見えない鎧武者。
『彩人殿! この娘は拙が相手しても?』
「ああ、任せるよ」
『では、この『ムクロ』推して参る!』
その巨体から繰り出される膂力で吹き飛ばし、追従する鎧武者。
「じゃあ、マリンちゃんはあの『アラヤシキ』の娘でいいかな☆」
「けがはしないようにね」
「もちろん☆ じゃあ、この弾丸は──返すね」
水の中に浮かんでいた先ほどの弾丸が高速で吐き出され、園実に迫る。
「銃弾で弾丸を弾く、か。そのくらいはできてもらわないとねぇっ!」
凄惨な笑みを浮かべて、宙に生み出した水の流れを泳いでいく人魚。
「では、私は……」
「リリさんはカナデの中身をお願い」
「一応聞きますが、どちらを?」
「一応聞くけど、あっちを相手して生きていられますか?」
「……無理ですね。大人しく私の領域で戦うことにしましょう」
夢魔がカナデ目掛けて駆ける。
「させるか!」
「残念ですが、あなたを一瞬でも止めることが私の役割です。【魅了の瞳】」
「ついでに私も──『愛故に、我等は踏み留まる』」
二つの神秘が嶺二の身体を縛り付ける。
「ぐ、あ、おおおおおおおおおお!」
その拘束を、気迫で吹き飛ばす。
「きゃあっ!?」
「これだから、気闘士ってやつは……でも、彼が届いた」
彩人の掌底がカナデへ届く。
カナデの身体は後ろに倒れ、そこに立っていたのはメイド服の女性。
「やあ、カナデのところのメイドさん」
「どうして、あなたが……」
「悪いけど、余裕がないんだ。後は夢魔同士、話してほしい」
「彩人ぉ!」
「リリさん! 後は頼んだ!」
入れ替わるようにして彩人が嶺二と、夢魔がメイドと相対する。
「私は『淫』であなたは『喰』。やり方は違えど、同じく『夢魔』なら、夢の中で語り合いましょう?」
二人の周囲が歪み、姿が消える。
同じ『夢』に居所を持つ者同士、夢の世界へ飛んだのだ。
「さあ、やろうか嶺二。この前とは違う、全力の闘争を」
「ああ、やってやるよ。今の俺に手加減するほどのやさしさは残ってねぇ」
各々が戦うべき相手を前にした。
ならば残るは、闘争だけ。
「行くぞ!」
「来なよ。君が見たかったものを見せてあげよう」




