決意する者達
特に読者から反応がなかった場合、第一章『その愛は毒のように』を終えた時点で更新を停止します。
理由としてはモチベーションと、他にも書きたいものが沢山あるからです。
この先続く場合の流れは
新たなる脅威
裏組織との対抗
色以外の魔王との関わり
最強に最も近い魔術師
と言った感じです。
感想などで続けて欲しい、という意見があればモチベーションが続く限り上げます。
どうかご意見くださいな。
「よぉ、カナデ。ちょっといいか?」
そう嶺二が声を掛けたのは、綾人と喧嘩をした翌日であった。
「あっ! ちょうど良かった! あのね、一色くんを知らない? ずっと探してるんだけど見つからなくって……」
キョロキョロと辺りを見回しながら不安気なカナデの様子は、確固たる自信を持っていた彼女を知る者からすれば異常でしか無かった。
「綾人のヤツは休みだ」
「えっ? 風邪でもひいたのかしら……嶺二は一色くんの家の場所を知ってたりする? ほら、仲間だしお見舞いに行かないと──」
カナデの様子を一言で表すなら『依存』であった。
「それよりも話がある。俺だけじゃなくて──」
「アタシもだよ、カナデ」
物陰から現れた園美に驚くカナデ。
「ごめんね、ビックリしちゃって……ほら、今の私は……一色くんと一緒にいない私はただの『人』だから、さ」
それは恐ろしい程に自分を卑下する言葉だった。
まるで、『魔術師』でない『古登 カナデ』は無価値な存在であると言うように。
「なぁ、カナデ。教えてくれないか? あの時──【魔王】と会った時、何が起こったのか」
彼女に変化が起こったのは【魔王】を前にしてからだ。
考えてもわからなかった。
だから今度はぶつかってみることにした。
「なにって、何も……」
「そんなわけがないだろ」
相手のことを慮って、腫れ物に触るように接する時期はもう過ぎた。
遠慮など無く、それこそ綾人とぶつかりあった時のように全力で。
「言えねぇってんなら、それでもいい。でも、お前が何を感じて、何を思ったのかくらいは知りたい」
「園実ならわかるでしょ、見えてるでしょ?」
「確かにアタシの『眼』なら人の心だって見える。けど、見るべきでないものもあるって知ったんだ。だから、カナデが『見て欲しい』って言うまでは見ない。それに、カナデの口から聴きたいんだ。本心ってやつを、ね」
方や、ぶつかりあったが為に。
方や、理解できないものを見てしまったが為に。
2人ともその答えに至った理由は綾人だった。
「……私、自分でもどうかと思うけど。あの時見た【魔王】をさ、『羨ましい』って思っちゃったんだ」
絞り出すように、溢れるように。
ぽつり、ぽつりとカナデが紡ぎ始める。
「あの【魔王】は何にも縛られていなかった。ただひたすらに、思うがままに生きていた。求めたいから求め、欲するから欲し──やりたいからやる。アレは、『自由』だったんだよ」
口にはしなかったが、末尾には私と違って、と言いたいのだろう。
彼女を束縛するのは、家であり、自分自身であり──人類そのものでもある。
「私は、【人理神話】。人が神話の如き、価値のあるモノとして証明しなくてばならないモノ」
それが、彼女を縛り付ける。
「あの【魔王】には素晴らしき人類としての価値がある。私は『対魔王戦力』を引っ張らなくてはならない立場なのに……私、オカシイよね」
【魔王】を『必要な人類』として認めてしまったが故に。
『対魔王戦力』として【魔術】を扱えなくなってしまったのだ。
「あの【魔王】は倒してはいけない。アレは人が乗り越えていいモノじゃ無い。そんな気がするの」
【魔術】は己が積み上げてきた価値観そのものである。
ならば、『倒さなければいけない敵』が『倒してはならないモノ』であった時、矛盾を起こす。
「わからないの。そもそも、私はあの【魔王】と戦うべきなのか」
「ねぇ、そもそもカナデはどうして【魔王】と戦うの?」
カナデの迷いに根本的な問いをかけたのは園美だった。
「最初は、魔術組合から言われたからだけど……その時に【魔王】の配下と戦って、放置はできないって思って……」
「つまり、カナデ自身に戦う理由は存在しないのね?」
順を追うカナデにズバリと言い放つ。
「……うん。確かに、そうなのかも。あったとしても義務感とか、正義感だけ」
「戦う理由がないなら、戦わないって手もあるけど……このままだとカナデが魔術師としてやって行けるかっていう問題も残るのよね」
【魔王】がいる限り、何らかの理由でカナデが魔術を満足に使えない。
心残りとか凝りのようなものなのかもしれないが、どうしたものかと首を捻る。
「なあ、要するにだ。カナデは『魔王が気になって魔術が使えねぇ』ってことなんだろ?」
「…………、……まあ、ホンっトーに簡単に言えばそうね」
引っかかる物言いに不満そうに言うカナデを嶺二が笑う。
「何をウジウジ悩んでんだか。気になるなら訊きに行きゃあいいんだろうが」
「──へ?」
突飛もない言葉に思わず変な声が漏れる。
「俺も魔王と対峙して、『コイツはヤベェ』って思ったが……別にヤベェやつが皆が悪いやつって訳でもないんだぜ? 昨日のケンカを見てねぇカナデはわからんと思うが……なぁ?」
「アタシからしたらアンタも大概だから。ま、その点じゃ同意ね。良い奴かどうかはさておき、悪いやつとは限らないわね」
「ケンカ?」
「ま、こっちの話だ。さて、カナデの問題は取りえず綾人が一緒なら解決するんだったか」
「万が一の時にはアンタが壁になりなさい。一色にカナデを担がせて逃げるから」
当事者のカナデを他所に、トントン拍子に話が進んでいく。
「ま、待って待って!? まるで魔王の根城にカチ込むみたいに聴こえるんだけど!?」
「みたいも何も、そう言ってるんだが?」
「あくまでオハナシをしに行くだけで、喧嘩腰じゃ無いからね?」
あっけらかんと言い放つ2人に唖然とするカナデ。
「どうして、私のために……?」
「言っちゃあなんだが、俺らは『対魔王戦力』っていうチームだろ? 仲間が困ってんなら手伝うのは当然だろ」
「このバカみたいに小っ恥ずかしいことは言えないけどさ。ま、そういうことよ」
そう言いながらリボルバーの調子などを見つつ、いつ動けるのかを話し始める。
「うし、ここにいるメンツはすぐにでも動けるな。綾人には俺から訊いてみるか」
「じゃあ、アタシは童子ちゃんにメッセージ送っておくわ」
「そうか。なら後はお前次第だぞ、カナデ」
口角を上げて、笑う。
彼もまた、魔王を前にした時に感じたものを忘れていない。
──アレは普通では届かないし、届いてはいけないものだ。
あまりにも隔絶した何かに、そして何が異なるのかを理解できなかった嶺二は、意識を落として理解を拒む以外の選択肢を持たなかった。
(だけど、今なら少しだけでも、何かが分かる気がするんだ)
(アタシも、もう一度会わなければならない)
彼女は、余りにも理解できない何かを目にして──理解しようとする前にその眼を閉じてしまった。
それを理解することはとても恐ろしくて──
(それでも、アレは目を逸らしていいモノじゃない。理解できずとも、見なければならないモノだ)
綾人が口にした『目を逸らすな』と言う言葉に、彼女は今まで見ていなかったものを見ようとして──見るべ気でないものに気がついた。
2人は前に進もうと決意した。
(なら私も、立ち止まったままではいられない)
「私も行くよ。ここで腐ったら、もう戻れない気がする」
3人目も進む決意をした。
彼ら彼女らが進む道の先に、なにが待っているのかも知らずに。




