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対魔王戦力の瓦解

忙しかった……やっと上げれる。

「おう、彩人か。体調はどうだ?」

「お陰様でだいぶ良くなった」


翌日の学校。

体調を崩して休んでいた友達と再会を喜ぶような、日常的な光景。


「彩人が居なかった間、敵勢力を削りに動いたんだが……その時にちょいと問題があってな」

「参加できなかったのは悪かったが、問題? カナデがいながらか?」


彩人は今までのカナデの行動見ていて、慎重なだけでなく、必要ならば大胆な行動も取れる優れた判断力を持っていると知っている。


「別に気にしてねェよ。いなくても動くべきだと判断したのはアイツだ。アイツの判断力は頼りにしているしな」


今まで彼らは魔王が現れてから不安定になっていた治安維持の為に度々戦ってきた。

勿論、表立った行動はできるはずも無く、暗躍する神秘側の組織であったり、覇権を求めた魔物やら妖やらの討伐であったりした。


その中でのカナデの見せる判断には目を見張るものがあり、対魔王戦力の皆は重きを置いていた。



「負けたんだ。抵抗もできずに、何をされたかも理解できずに」


そう告げる嶺二は小さく震えていた。

怯え、悔恨、怒り。

その全てが嶺二を震わせた。


「詳しい事も細けェ事も、俺には説明てきねェ。だから、カナデに直接聞いて欲しい。アイツはなんでか話さねェが、俺たち全員が逃げられたのはアイツのお陰だ。だから──」

「わかった。できる限りのことはしてみる」



彼はその放課後、カナデ邸へと足を運んだ。


「どうしよう、一色くん。わた、私、魔術が、使えなくなっちゃったぁ……」


そこには涙ながらに縋り付く少女の姿があった。





「ごめんね、一色くん。急に取り乱したりして……それと、ホットミルクありがと」

「気にするな。落ち着くにはホットミルクがよく効く。少しばかりハチミツを入れて、な」

「ふふ、案外家庭的なのね」

「以前は一人で生活してたからな。粗方家事はできるんだ」

「すごいなぁ。私はメアリに任せっきりだから……」

「メアリ? ああ、メイドか」

「そ、メイド服のメイド。電子レンジすら使わせてくれないのよ」


酷いでしょ、と文句を垂れるカナデだが、言われた方は溜まったものでは無い。


「それは以前、カナデ様が電子レンジを爆発四散させたからです」

「なによ、アレは多分電子レンジが壊れてたのよ!」

「多少壊れていたとしても、電子レンジは爆発しませんよ。それに、何を作ろうとしたのでしたっけ?」

「ゆで卵よ!」

「このように、生卵をレンジに入れるような馬鹿でして……」


騒ぐカナデと静かに返すメアリ。

そこには互いの信頼や友情と言ったものが垣間見えて、彩人もほっこりしてしまう。


「仲がいいんだな」

「あ、ごめんね。せっかく来てもらってるのに……」

「気にするな。むしろ眼福だ。が、そろそろ本題に入ろう。何があった?」


話しずらそうな雰囲気を感じて、切っ掛けを作る。

魔術が使えなくなる、というのは自分の信念を壊されたということなのだから。


「……【魔王】を、見た」

「……それで?」

「多分、それだけ。それだけで私は【人理神話】でいられなくなった」


訳が分からない。

カナデも彩人もその一心だ。


「まあ、俺も魔術初心者だから何とも言えないが……」

「一度、見てもらった方が早いかもね。着いて来て」


酷く足取りが重そうに開けた庭へと進む。


「『──人の怒りよ、神に通じよ』【雷怒】」


今の彼女では届く言葉では無い。

そのハズだった。


雷が空を裂き、地を穿つ。


「なん、で……まさか!?」


先程までは居なかった一人の男へ目を向ける。


「人の愛が誰にも届かないなんて、哀しいにも程がある。そうは思わないか?」


彼の根源は──アイはそういったモノだ。

そのアイは誰かを救うために。


救われるべき者が目の前に居るなら、彼は無窮の愛を注ぐ。


「私は、貴方と居れば、【人理神話】で居られる……?」


崩れ落ち、這い縋るように手を伸ばす。


「わたし、は──」

「ああ。君が望み、求めるのなら」


手を取り、あやす様に撫でる。


(ああ、これは──ダメだ。堕ちてしまう)


直感が叫ぶ。

このままでは魂を堕落させてしまう。

そうなれば彼女は【人理神話】で居られなくなる。


(なら、俺は──)



行動を起こしたのは翌日、学校に着いてすぐ。



「──荒屋敷、嶺二。来い」


有無を言わせない、強い言葉であった。

内容が分からずとも本気具合の伝わった2人は黙って後に続く。


「ここら辺でいいか」

「なあ彩人、なんかあったのか? 今のお前、なんかいつもと……」

「いつもと、か。なあ、お前は俺の何を知っているんだ?」


違和感を感じる嶺二に冷たく言い放つ。


「お前ら同じ『対魔王戦力』の仲間だよな? なら、お前らは何を見ていた? 魔王討伐という名誉か? 目先の平和か?」

「どういうことだ?」

「カナデの事を見てやってたか、と訊いている。なあ、荒屋敷」


口を噤んでいた園実に語りかける。


「お前、目を背けていたな? カナデの抱えていたモノから」

「あたしにだって、見たくないものはある……」

「その結果が【人理神話】の──カナデを苦しめる事になっている」

「なら……ならお前が見ていれば良かっただろ!? 見えるからって私に押し付けるな!」

「お前が言ったんだ。 俺を見て、お前が拒絶した。俺は言ったはずだ。彼女は俺以外の人間に救われなくてはならないと。その結果がコレ(・・)だ」

「──あ、ここにいたんだ一色くん。おはよう。授業、始まっちゃうよ?」


呼びかけてきたのはカナデ。

どうやってか居場所をつきとめて声をかけに来たのだ。


「ここにいるとよくわかったね」

「ほら、今の私は貴方がいないと魔術が使えないから。逆に近付けば少しずつ使えるようになるわけで……」

「盗聴器を見つけるようなものか」


おどけながらも、自分が『異物』である事を再認識して苦笑い。


「それと、俺以外の仲間もいるんだ。俺だけに挨拶するな」

「あ、ごめん居たんだ。気づかなかった。おはようみんな」



見えない位置に居た訳でもないのに気がつかなかったのは、単に眼中に無かったから。


それがどれだけ危うい状態なのかは一目瞭然である。



「お前の調子が戻るまでは【魔王】にかまけてられないって話をしてたんだ」

「え、でも魔王も戦力を整え始めてるし、一色くんが居れば私も魔術を……」

「何かあってからじゃ遅いだろ? それに、確証はないが、俺が何とかできるかもしれない」


今回の件で彩人は薄らとではあるが、いくつか可能性に気がついていた。


【人理神話】のこと、『荒屋敷 園実』のこと。そして──【魔王】のこと。



「カナデを見つけて、戻せ。話はそれからだ」



去り際にカナデに聞こえない声量で告げる。


対魔王戦力はこうして、【人理神話】と『一色彩人』という魔術師を失い、瓦解し始めた。

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