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そして、戦場へ

史上初の台風の無い7月らしいですねー。

台風なくてもずっと雨でしたからあまり変わらない気もする……

「君は『超人』について何処まで知ってるのかな?」


音楽室で、荘厳なクラシック音楽を聴きながら志頭 似智得は問いかける。



「何らかの理由で、ただの人の枠から超えてしまった者」

「そうだね。もし『超能力』を持つ者がいたとしたら、その能力者の『超人』と言えるかもしれない。まあ、僕は『超能力』は認めてないんだけどね。ただ、共通して言えることはひとつ──」


憂いげな表情で彩人を見ながら告げる。


「──超人の思考は普通の人間には理解し難い」







「──見えている世界が異なるから、か」


夢から醒めて、呟く。


「価値観が違うとしても、俺は愛を求める者に応えたい」


嘲笑うかのような薄い三日月を見上げ、立ち上がる。


「行かないと……俺は、愛に報いなければ……」


『一色 彩人』は愛に関することだけが異常である。

彼は他者からの愛を知らない訳では無い。

しかし、彼はその愛に応える前にその供給元を失った。

愛を知るが為に、愛に応えることを知らずに、応えることに渇望する。


それが『一色 彩人』という存在であった。



「──行かれるのですか」

「ああ」

「では、『扉』は開けておきます」

「助かる」


凜々花にそう返し、外へ出る。


思えば最近は魔術にかかわることもなく、平和そのものであった。

無論、自分が望んだ鍛錬をしている間は闘争であったが、それ以外は日常の中で平穏に浸っていた。


音楽好きの友もできたし、自分になついてくれる後輩もできた。

それはとても素晴らしい生活であったが、『一色 彩人』にとってそれで満たされることなど無かった。


むしろ、渇きが強くなった気さえするのだ。



確かな足取りで、然れど揺れる、夢現の様に。



そしてそれを求める者が居るならば──








「『人が作りし全知の悪魔。空想、幻想。然れど不完全。一を知りて10を知り、その先さえも予見する』【不完全な全知の悪魔《False Laplace》】!」


外に要因を求めない、内界的な魔術を行使して物陰に飛び込む。


この魔術の素は量子力学が進む前の物理学者の唱えた高次元悪魔の存在。

もしも全ての物質の運動やエネルギーを観測できる存在がいたとして、全ての動きを演算できる計算力を持っているとしたらその存在は過去現在未来全ての事象を知ることができる。


その思想をダウングレードさせ、自分の存在に重ね合わせることにより実現させたのが限定的劣化全知とも言えるこの魔術だ。


今のカナデは限定的な未来予知すら可能としているのだ。



「チッ! 隠れたか。向こうが使える魔術は限られてる! 確実に追い込め!」


取り出しかけた拳銃を懐に戻し、追いかける。


(普通じゃ手に入らない概念書に銃器……確実に裏の組織が関わっているわね。最近ぶっ飛ばした『ラグナロク』の可能性が高い、か)


背後にいるであろう組織に目星を付けながら、思考を巡らせ走る。


(背後に組織がいるなら、銃器を用意できたのも頷ける。普段の私なら弾丸くらいどうにかできるけど、外部要因の無い魔術では流石に厳しい)

「『変容、硬化。四方は巡り、張る。区切られし界は阻み、遮る』【界阻】」


四角い金属の板を前方に翳し、飛来する弾丸を防ぐ。


「居たぞ! こっちだ!」

(ラプラスを使用している間は限定的に予測演算ができるから、観測領域外からの弾丸でなければ防げるか──『人理神話、3%起動』)


突然、身体が跳ねるように回転し、背後から迫っていた弾丸を防ぐ。


「言ったそばから……!」

(自動防御が働いたから何とかって感じね。ヘタに【人理神話】を使うのも拙いし……)

「【人の子よ、神話たれ】!」


『言葉の重み』を受け、数人が地に伏せる。


他者よりも優位に立ちたい、立っているという自尊心が言葉を受け入れ易くし、【人理神話】の抱える重みを背負わせたのだ。



──そして、彼女の背負うそれは途方も無く『重い』。



(とはいえ、連発もできないし範囲も狭い。このままじゃジリ貧ね。なにかひとつでもミスがあればそこから負ける)


相手は十数で、普段使える魔術は使えない。

どうにか戦えてはいるが、それだけだ。


(ならば、元凶である『神秘殺しの書』を断つ!)


現状から予測演算し、限りなく起こる可能性の高い未来を掴み取る。


(──今!)


一瞬の隙をついて物陰から飛び出す。

向かう先は勿論、その本を持つ男のもとへ。


「だろうな。賢いお前ならそうすると思ってたぜ」


男の懐から帯状の何かが飛び出してカナデを絡め取る。


「くぅ!?」

「なんだ、俺の戦闘スタイルが『術具』使いってのも覚えてねぇのかよ。取るに足らない程度の認識でしか無かったってか?でもよ、お前はそんな相手にこうして、無様に這いつくばってるんだぜ!」


拘束され、身動きの取れなくなったカナデに蹴りを入れる。

それはまるで、溜まりに溜まった感情を吐き出すようであった。



(この状況はマズイ。ロクな魔術も使えなければ身動きすら取れない……なにか、なにか手は──)

『──わかってるんでしょ? このままじゃ、何も出来ずに終わるだけだって』


現状を打破するために思考を巡らせるカナデに囁く声があった。


(邪魔をするな。今それを考えて……)

『心のどこかで理解しているはずよ。だからこうして、私が出てきた』


囁くその姿は、奇怪であった。

造形は少女のようでありながら、顔だけがモザイク処理をされた映像のようにブレる。


「そんな、ことは無い! 私なら……【人理神話】たる私なら……!」

「何言ってるんだ、お前。見ての通りの有様じゃねぇかよ!」


その言葉はモザイクの少女に向けられたものではあるが、自分に向けられたものと勘違いした男は苛烈に暴力を振るう。


『話の邪魔ね。【egoid】』


世界が切り替わる。

ただの路地裏から、街を全て見下ろすかの様なソラへ。


『【人理神話】たる私なら、と言ったわね。なら、遠慮なく私を目覚めさせなさい』

「それは……ダメよ。そんなことしたら……」

『街ごと壊してしまうって? いいじゃない、私たちが死んでしまうよりよっぽどね』


手を差し伸べて、誘う。


『一緒にやりましょう、カナデ。【人理神話】を紡ぐの。愛おしき人類に』


その手を取ろうと手を伸ばし──


『──愛してる』



脳内に響いたのは、かつて聞いた愛の慟哭。



「──いいえ、もうひとつだけここから助かる可能性があったわ」


それは本来ならば忌避すべき答え。

唾棄すべき回答であると知りながら、彼女はそれを求めた。


「──『助けて』、一色くん」

「もちろんだ」


返ってきた答えは、すぐ傍から。


「『防御術具』【起動】!」


彩人の拳は展開された盾に阻まれはしたが、男をカナデから離すことには成功した。


「一色くん、どうやってここに……」

「君が呼んだ。俺は助けに行くと言った。それだけだろ」


彼女は彩人の名を呼びはしたが、実の所来てくれるとは思っていなかった。


というのも、ここはカナデの創り出した異次元世界。

本来自分たちが存在する世界とはズレた場所なのだ。


ならばそこに、どうやって彼は来たというのだろうか。



「細かいことはいい。今わかるのはお前が傷ついていて、傷つけた相手がいる。それが分かれば十分だ」


そう言って立ち上がり、敵を見据える。


「何者だ、お前」

「一色 彩人。こいつを助けに来た魔術師見習いだ」


『一色 彩人』はカナデのために、初めて魔術師として戦場に立つ──


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