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始まりは決別から

少々忙しくて最近隔週更新になってますね。


毎度の事ながら、人物の背景などは後ほど、と言いたいところですが、そういうの面倒! とか、人物増えてきてわかんない! という人もいると思いますので、人物一覧と魔術一覧を作って上げようと思っています。


そういう所で説明しきれない裏設定とかも語りたいなぁ、と



お知らせ

一話のところに人物紹介を載せました。

これまでの内容に変化はありません

「おはよう、一色君」

「おはよう、古登」


魔術を学び始めたとはいえ、日常が大きく変わることは無かった。


「昨日渡した指南書は読み終わったかしら?」

「基本の基本みたいなやつだったし、なんとかな」

「なら、次はこれね」


そう言ってカバンから取り出した分厚い本を彩人に押し付ける。


「なあ、訊いておきたいんだが……どの魔術教本にも『魔力回路』が出てくるんだ。俺、持ってないよな?」

「そうね。持ってないわ」

「なら……いや、何も知らないのに文句を言うのもおかしな話か」

「いえ、あなたの指摘も正しいわ。『魔力回路』の無いあなたに【術式魔術】は使えない。使えたとしても術式を用いない原始的な魔術だけ」


うーん、と頭を悩ませて告げる。


「そうだね、そろそろ本格的に魔術を教えていこうか」

「いいのか?」

「どちらにせよ、対魔王の戦力は早々に整えないといけないからね」


魔王が戦力を増す前にどうしても戦力が必要なのだと。

そのためにも、彩人の成長は必要事項なのだと以前から聞いていた。


だからこそ、その日の授業は集中できなかった。


(……この間の戦闘痕もきれいさっぱり、か)


聞いた話だと、あの後の処理は大変だったらしい。

魔術師の組合とそれに関わる業者が全力で記憶処理を含めた隠蔽工作をしたらしい。


(これも、魔術のチカラか。もしかしたら、俺も誰かを──)

「あの、一色さん、でいいですよね」


思考の海に沈みゆく中、かけられた声に振り向く。


「君は……?」

「えっと、『初夏ウイカ 愛吹イブキ』って言います、 それで、えっと、あの……は、ハンカチ! 落としませんでしたかっ!?」


黒いお下げのメガネっ子から差し出されたのは、ポケットに入れていたはずのハンカチ。


「いつ落としたんだろう。ともかく、ありがとう」

「い、いえ……あ、あの! もし良ければ、この後……」

「何をしてるのかしら、一色君。あら、その子は?」

「ハンカチを拾ってくれたんだ。そろそろ行こうか」


鞄を手に、共に歩く二人。


「覚えてろよ、【人理神話】ぁ。いつか、いつか必ず……!」


少女の発した怨嗟の声は、誰にも届かないのであった。






「で、魔術って何をすればいいんだ?」


カナデ邸に、いざ魔術の特訓をするとなってから彩人は問いかける。


「そうね……本来の魔術師なら回路に魔力を通して術式を構築って手順なんだけど、アナタにそれは当てはまらない」

「なら、どうする?」

「簡単な話よ。術式を介さない魔術を覚えればいい」


彩人を指さし、告げる。


「『言葉は想いを伝える呪い。想いは重くのしかかる。想いは重い、心が篭れば潰れる程に。故に私のオモイを向ける』【人の子よ、神話たれ】」


瞬間、彩人が膝を着く。

今彩人にのしかかっているのは圧迫感、重圧感。


「分類は『言霊術』。その中でも【言葉の重み】っていう術名でね。言葉に乗せられた感情や想いが擬似的な『重さ』としてのしかかる魔術よ」

「お前は、この『重さ』を、背負って『魔術師』を……?」

「あら、察しがいいのね。今回は私の魔術にかける『想い』を乗せたのよ。【言葉の重み】の発動条件は二つ。『想いに沿う言葉』である事と『相手が受け入れられる言葉』よ」


指を二つ立てながら、面白そうに振るう。


「アナタは私の言葉を受け入れられるのね」

「そこに『アイ』があるなら、俺はなんだって受け止める。いつだってそうしてきた」


その重さに抗いながら、ゆっくりと立ち上がる。


(【言葉の重み】は精神に作用する重み。とはいえ、肉体にも相応の負荷が掛かっているはずだけど……)

「──面白い。ああ、キミというニンゲンはとてもいい」


半分が狂気的な笑みを、半分は無表情を。

彼女の浮かべた感情は、不思議な表情だった。


「……古登?」

「え、あ……コホン! それよりも、使えそうかしら? 最初は難しいかもしれないけど、思いっきり感情を乗せれば感覚は掴める筈よ? 後は言葉さえ選べれば……」


慌てて誤魔化しながら問いかける。


「使えるか使えないかで言えば、使える気がする」

「じゃあ、私に使ってみてよ」

「……いや、多分だけど、俺はこの魔術を多用するべきじゃない」


どこかもどかしそうに彩人は言った。


「確かに、魔術は秘匿すべきものだし、『言霊術』は特にだけど……それでも、戦力として数えたいし、見せてもらわないと……」

「まあ、別に俺自身に否は無いし構わないんだけど……」


彼は既に、自分の想いを乗せる言葉を知っている。

彼は既に、相手が受け入れたい言葉を知っている。



だから、歩み寄って言葉を紡ぐ。



「──『愛してる』」

(──【人理神話】15%起動。【反証術式】自動構築。『我が理は其を拒絶する』)


その言葉に彼女は、【反証術式】で応えた。


(っ!? なに、この重み……今私は、身の危険を感じて反射的に【反証術式】を組んで……なのに、膝を折りそうなくらいに、重い……!)


それが『一色 彩人』の言葉の重みだった。

込めた想いの、重圧だった。

背負った業の重さだった。


「ああ、やはりこの『業』は他者には重すぎる」

「侮るな、私は、【人理神話】……人の子に、『神話』を見出す者……!」


だからこそ、気がついてしまった。


その辛さに、その悲しみに。



(『一色 彩人』は、生まれる時代を間違えた。彼の抱える『愛』を思えば、『一色 彩人』は【聖人】だったろうに……)


「君は、どうしてそこまで人を愛せる?」

「なら君は、どうして人類に神話を見出した」


それは互いにとっての、根源を問う言葉だった。


「そういうこと?」

「そういうことじゃないのか?」


無駄に語らずとも、互いに理解を深めた。

何故なら彼らは、同じくヒトに神秘を見出した同志なのだから。


だからこそ、互いの苦しみを理解できてしまった。


「……今日は終わりね」

「ああ、そうだな」


互いが互いに、耐えられなかった。

抱えているモノの大きさを、知ってしまったから。


「悪いけど、対魔王戦力の件はなかったことにさせて」

「……わかった。もし本当にダメになったら呼んでくれ。できる限りはする」


そうして二人は、互いに背を向けて距離を取った──

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