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過ぎ去りし日々 6

お母さんの元へ

  「街に」


妹たちと田舎に住んでいる母は

なんとなく察していて

何も言わずに預かってくれることになった


無理に無理を重ねて

体を壊している人たちの話は

山ほど聞いているし知っている


食糧の配給量の少なさは

病気の快復もままならない

病気の快復どころか日々の暮らしにも足りない


街に住むものは生きるために食糧を

田舎の農家からどうにかして手に入れようとする

装飾品はおろか思い出の深い着物さえもが

一袋のコメやサツマイモに替えられた


農家も着物ばかりと交換しても・・・


事情が理解できるばかりに

供出された残りの、自分たちの食糧であるコメまでも

交換している者も多いと聞いた

街の者は手に入れられなければ

飢えて死ぬだけなのだから

裁判官が違法だと言って、闇米の世話にならずに

飢えて亡くなったことはよく知られたことだった


誰の助けも受けられずに

街中まちなかで子供と一緒には生きられない

これは分かりきったこと


しかし、母の住む田舎では働き口が限られる

自分だけならまだしも

母の暮らしまでもは支えきれない

妹たちの行く末もまだ定まってはいないし

これ以上の負担は端から無理だった


子供には気の毒だけど、我慢してもらうほかはない

私にとっても、生まれた時代が悪かったと諦める


もう、眼をつむって先へ進むしかない

この先に何が待っていようとも・・・




  「ネオンの光」


戦災に遭った街は見渡す限りの焼け野原だった

あちらこちらにわずかに残ったビルディングさえ

廃墟のような姿を晒すばかりだった


それが、いくさが終わるとともに

掘っ立て小屋が立ち並び

土地の持ち主の看板が立ち並び

区画整理の工事が始まって

広い立派な道路ばかりが縦横に走る


街の真ん中の鉄条網に囲まれた一画には

洒落た家屋が立ち並び、駐留軍だけでなく

その家族までもが住み始めるころには

それを当て込んだ、商店やら、飲み屋やら

あれこれなどが建ち並ぶ


それらに飽き足らぬ者向けに

けばけばしいネオンの光に飾られた

キャバレーまでもが建ち始める


近くで起きた新たな戦争が

降って湧いたような需要を生んで

ますますそれは加速して

掘っ立て小屋が住宅になり

やがてそれらが潰されて、ビルディングが建ち始める


私は今日も午後からは、そんな街のなかの街に

出勤していくのだ




親がいなくても子は育つ、そうですがね。

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