過ぎ去りし日々 5
遠い日々のことです。
「別れ」
兄が帰った後に沈黙が続いていた
なぜ黙っているの
なぜ話してくれないの
いったい何が起きているの
何が起きているのか話してくれれば
聞くことも出来れば、話し合うことも出来る
なぜ今ここで兄が出てくるのか
なぜ今ここで養子の話が出てくるのか
あなたの沈黙が意味することは何なのか
私が何かおかしなことをしたのかしら
あなたの勤め先で何かが起きた?
頭の中で様々なことがぐるぐる回っている
どうして黙っているの
何か話してよ
無性に悔しくて
話してくれないことが悲しくて
あなたの沈黙が恐ろしくて
何かとんでもないことが起きるような
何かとんでもないことが起きてしまったような
心の底から震えるような
グラグラと眩暈が起きているような
お腹のあたりがキュウッと締め付けられて
それがじわじわ昇って行って
心臓あたりにある心を握りしめられたように
はあ、これではいけないわね
目をつむって
深呼吸をして
精一杯の優しい微笑みを浮かべて
ねえ、話してくれる?
何が起こっているの?
苦しそうな顔をしたあなたが
泣きそうに顔をゆがめたあなたが
話してくれたのは
別れの話だった
俺は働けなくなってしまった
せんだって喀血して
仕事を失ったよ
きょうから俺には何処も行くところがない
何より子供に感染させるわけにはいかないし
これ以上お前に負担をかけるわけにはいかない
そう言ったきり・・・
あとは沈黙が続くばかりだった
「涙と決意」
私にも、意地があるわ
私の子供は私が育て上げる
泪がぽろぽろ零れたけれど
そう決めたならばできることは限られる
決めたならばあとは動くだけ
子供は母に預かってもらう
私が働いて
育てるのに不自由させない
だれにも頼らない
誰にも文句を言わせない
そう決めた
はい、頑張りましょう。




