過ぎ去りし日々 4
子育てって大変なんですよね。
「子育ての毎日」
こわごわとした手で抱き上げていたあなたが
いつの間にか抱いたまま外に散歩に出るようになって
這いまわるようになると
階段が危ないからと柵を作ろうとする
独り座りが出来るようになれば
早く立たないかなと待ち望み
摑まり立ちが出来ればニコニコしながら
歩き始めるのを待ち
伝い歩きをし始めると
ひとりで立つのを今か今かと待ち続ける
そんなに急がなくてもいつか独り立ちしてしまうわよと
笑う私に、それは早過ぎると
真剣な顔をして心配をする
毎晩、夜泣きで悩まされる私に
こんなことも今の内だけだと
抱き上げた子供をあやすあなた
これを食べさせてもいいのかと近所に聞いてまわった挙句に
どこかから手に入れてきたブドウの房を
じゃぶじゃぶ水洗いして
一つ一つ皮をむいては潰して
スプーンで口元へもっていく
酸っぱい顔をして口から出すのを
自分で食べてしまって
私の分のことは考えてもいない
離乳食にはまだ早すぎるって
言って聞かせても聞いていないのか
あれはどうだ、これはどうだってうるさいから
私が働くからあなたが育てなさいって言ったっけ
言葉が出るのが遅くはないか?
お父さんって言うのはいつになるんだと
何度も、何度もしつこく聞くので
まだ当分先だって、三歳過ぎだって言ってやると
ああ、待っていられない、明日には無理かって・・・
私もこの辺で気が付くべきだった
なぜこんなに急ぐのか
どうしてこれほど焦るのか
何か変だ、どこかおかしいって
「変調」
兄が相談事があるとやってきた
実は自分たち夫婦には子供がいない
努力はしてるんだが恵まれない
そこで相談なんだが
お前たちの子供を育てさせてはくれないか
自分たちには寂しい老後は辛すぎる
必ず幸せになるようにやっていく
自分たちの命に代えても育てきる
どうか、どうか、考えてはくれないか
返事はすぐでなくてよいから、と
考えるだけでもよいから、と
何時までも待っているから、と
言いたいことだけ言ったまま帰っていった
なぜ今ここで
こんな話が出てくるの
いくら考えても解らない
それに、傍にいるあなたは
なぜ黙っているの
つい昨日まであんなにお父さん、お父さんって
自分のことを呼んでいたのに
まだか、まだかって騒いでいたのに
なぜ、急に静かになって
なぜ、何かを悟ったような顔をして
なぜ、諦めたような眼をして座っているの
これはどうしたことなの
いったい何が起きているの
さっきから黙っているあなたは
何を考えているの
ちゃんと私に判るように話してよ
嫌な予感だけしかしませんが。