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過ぎ去りし日々 3

  「喜びの日々」


青い地色に黒のチェック模様が入った

古ぼけたロングコートに包まれて

髪を隠すように頬かむりしたマフラーを

襟もとに押し込んでまとめている

周りにはどこにでも見られる姿なのだけれど

どう見ても怪しすぎる格好で

今日も買い物に出掛けてきている


せんだってまでは何処にもなかったそれは

あの人がどこかの古着屋で見つけてきたのか


体を冷やしたらいけないからと

冷たい北風が体に良くないからと

外に出る時にはこの格好を必ずすること、と

きつく言われたので仕方ないか・・・


葉がすっかり落ちて久しい木々の間を

買い物かごをぶら下げて歩きながら

ふとあの日のことを思い出す


お医者さんが診察を終え

三か月ですねって言われたことを

あの人と夕食を食べて

ぽつぽつと話す今日あったことを聞きながら

私は思い出したように告白する


沈黙が訪れて

ぽかんと口が開いた、間の抜けた顔のあなたが

狂ったように喜びだす姿や

親友である私の兄に報告するのだと

電話のある家に走っていこうとするあなた


夜だから、取り次ぎする家に迷惑が掛かるからと

手を引っ張って止める私に

ああそうだなって振り返って

いきなり抱きしめられた私


頑張らないとな、って呟きが聞こえる


ボンヤリと歩いていた私も、顔を上げて

お腹を抱きかかえるようにして

頑張らないとな、って呟いてみる




  「初めての子供」


家の二階から降りる急な階段から

足を踏み外して落ちて

お尻をしたたかに打ち付けて

突然に産気づいてしまった私は

男の子を産んだ


しわしわで、赤い、小さな赤ちゃんで

お猿さんのような顔をしていたけれど

大きな声で泣いていた


ちょっと早かったけれど

大丈夫、元気に育つよ

そう言ってお産婆さんは笑っていた


慌てふためくばかりで

何の役にも立たなかったあなたが

赤ちゃんを、恐る恐る抱き上げる手つきが

あまりに危なっか過ぎて

私は目をつむって見ないでいたけど

すぐに赤ちゃんは私のところに回ってきてた


まだ先のことだと

お乳のケアなんかしてなくて

上手くいくか心配してたけど

初めてのお乳を上手に飲んでくれたようだった


これから、長い長いお付き合いになるけれど

どうかお手柔らかにお願いね

しばらく続きます。

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