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過ぎ去りし日々 2

このところ涼しくなって調子がいいのでしょうか。

  「安らぎの日々」


たとえそれが厳しい現実であったとしても

それまでの日々があまりにも

あり得ないほどの理不尽が積み重なっていたので

どうにかなっていくことを信じることが出来た


何より、共に生きて行くであろう人が傍にいて

言葉少ないまでも、語り合えることが

何よりうれしかった


なにもない部屋に、時間がかかるものの

少しづつ、ものが増えていくことが

確かな生活が、ここで営まれていくのだと

手応えを感じることができた


朝に晩にコトコトとまな板の音と

小さな鍋でみそ汁や

煮物が煮えていくのを確かめながら

今日の日がまた無事に過ごせたことに

感謝を感じることが出来た


朝にあの人を送り出し

夕べに部屋のドアの前で迎えることが

確かな今日の生きているリズムになっていた


いまだに町にはものが出回っておらず

必要なものでさえ遠い市場まで

探しに行かなければならないが

それでも、手に入れることが出来た喜びと

それをあの人に話すことが出来る喜びは

厳しい中でもほんのりと

心が温かくなる気がする


配給だけではとても生きて行けそうもないけれど

こうして足を使えば探し出すことが出来るのが

まだ救いなのかもしれなかった


振り返れば、ずっとこうした生活だったように思う

兄たちの見果てぬ夢に引きずられ

渡った先には広い広い大地があった

なにもない荒野には、することばかりがあった

焦っても、焦っても、進むことのない作業


終わりの見えない生きるための作業は

心を摩耗させ、体を痛めつける

手も、足も、傷だらけになりながら

幽鬼のようになってでも

働かなければ生きられなかった


あの日々のことを思えば

たとえ部屋に雨漏りがしても

建付けが悪い窓から北風がもれても

どれほどのことがあろうか


台所で使う鍋、釜も新品など消え失せていても

錆びだらけの包丁など研ぎなおせば用は足りる

穴の開いた鍋、釜も銀紙を詰め込んで

叩いて焼けば使うのに不自由はしない


今はしっかりと

あの人を支えて

ここを守っていかれれば、生きていかれる


家のことがひと段落ついて

近所のどこかから漏れ聞こえるラジオの音に

ほっと一息つくときに

今度はお茶を入れる急須が欲しいなどと

考える私がいる




  「妊娠」


それは突然のことであった


二、三日前からなんとなく気分がすぐれず

むしゃくしゃとした気分が続いていた


ムシムシとした暑い夏が過ぎ

ようやく涼しくなって

寝苦しい夜が、さわやかな朝に取って代わられ

虫の声に、やっと秋になることを喜んだ


あっという間に過ぎる秋


すぐに冬の支度を整えないと

またしても隙間風に悩まされることになる

今年の冬は、窓を閉め切りにして

目張りで塞いでしまおうか

そんなことを考えていた


下の部屋の窓は塞げないけど

寝室に使っている上の部屋なら

多少のことならいいのだろうか


練炭火鉢も板戸を開けておけば大丈夫そうだし

煮物に使う練炭コンロも、隙間風があれば安全だ

夜中になれば一つ布団でくっついていれば寒くない


そんなことを考えているときのことだから


いきなり顔が赤くなる

自分ではっきりわかるほどに熱くなる


明日、お医者さんに診てもらおう


話すのはそのあとでいいよね


頭の中がぐるぐる回る

どちらが原因だかわからないけれど


なんだかまた気分が悪くなってきた






今のところ何とかなってますか?

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