過ぎ去りし日々 10
私が、詩だって言えば詩になるんでしょうか?
「新事業を始める」
私がお腹が痛くて笑うことが出来ないときに
彼の家族や会社関係者、私の兄弟たちは違った意味で
笑っていられない状況にあったようだ
現在と違って、輸血される血液は借りていることになっていて
借りたものは返さないといけないものなのだ
自分たちはおろか、近所の人にまでお願いして血液を集めていたのだ
使われたものと同じ型を用意するのは大変なことだったろう
とりあえず量がそろえばいいのであればどうにかなるけれど
型までそろえるのは大変だ
いまでこそ様々な診断機器があるから早期に診断がつく
この頃はまだ技術が進んでおらず、レントゲン検査でさえも
子供に影響があるとのことで控えるのが当たり前だった
X線の量もたくさんなければフイルムに映らなかったし
この線量では発癌や障害の心配も必要だったのだ
特に妊娠中のレントゲン検査は一番の忌避事項だった
結果、妊娠最後期まで異常が見つけられなかった
陣痛促進剤を使っての分娩予定だったが、大量出血があり
急遽、帝王切開に移行したが、さらなる出血は避けられなかった
総量四千ccを超える量の輸血が必要となったのだ
一人当たり、二百cc づつとしても、二十人以上からの血液の提供を
受けなければならないわけだ、それも血液型の同じものを・・・
親類、縁者、知り合いは及ばず、果ては駅前に立ってのお願いする姿が
新聞記事になることもあるほどなのだ
周りがバタバタしていても赤ちゃんの方には関係がない
毎日、朝に晩にお乳を飲んで大きくなっていく
私も最初の頃はお腹が痛くて笑うことすらできなかったけど
日にちが経てば傷も癒える、出血もなくなり再輸血の必要も薄れる
最初の子供は階段から落ちて生まれてきた
二番目のこの子はお腹を切って生まれてきた
は~~、この先三番目以降もお腹を切らないといけないなど
気が滅入るけれど、これは義務だと諦めようか・・・
どうせ義父母は容赦してはくれないだろうから
帝王切開は子宮に傷をつけて子供を取り上げるものなので
次の子供は最低二年の間を開けなければいけないらしい
そして当然ながら自然分娩は出来なくなる
分娩に伴い、子宮破裂が起こることがあるからだそうだ
まあ、子供が多少手が掛からなくなるのがその頃なので
自然かということなら、自然だといえることになる
翌年には次の子供を産む人も居るから、まだ
傷が癒えないうちに無理はするなってことなのだろう
それからは、お乳を上げたり、おしめを替えたり
お風呂に入れたり、大きな赤ちゃんの面倒を見たりして
過ごしていくだけだった
そんな時に話が持ち上がったのが、輸出用梱包資材の作成だった
折しも国内産業が回復してきつつあり、よりたくさんの生産に
必要なのは輸出だった
日本国内には資源がない
物を作るには原料を輸入しなければならなかった
それには外貨が不可欠で、外貨を稼ぐには輸出しなければならない
この頃輸出には貨物船が使われていて、きちんと梱包しなければ
船に乗せる事さえできなかったのだ
クレーンで釣り上げて、大きさのそろった木箱を積み上げる
これがこの頃の基本でほかに方法がなかった
たまたま、私がこれに縁があるところに嫁いだのを
前の仕事の付き合いで、知っていた人から話があったらしいのだ
せっかくの話を見逃すはずがない、先は確実な会社であることだし
新しい会社を立ち上げての対応となったのだ
「長男を出産」
この会社は、輸出用梱包が、コンテナを使うようになって
新しい形に段々と切り替わっていくまで続いたようだった
他人事のように言うのは、私はこれに携わっていなかったからだ
それよりも、きっちり二年後には次の子供がお腹にいたことだ
今やいっぱしの社長として働いている彼は
どうしても男の子が欲しかったってことがあるようだ
まだこの頃には、後継ぎを得るということに
とても大きなウエイトが置かれていたので
妻になるということは、男の子を産むということが避けられない
今のように当たり前に女子が社長になり、会社を発展させる
そんなことが考えられもしない頃の話だから
どこから見つけてきたのか知らないが、男女の〇み分けなどの題名の
本が積んであったりもする、それもあちらこちらに
私には食事のことなど、言われることがなかったから
たぶん、自分一人がどうこうしてたのだろうかしら
さて、その成果はなんて思っていたけれど
今度は大きな問題もなく、待望の男の子が生まれた
当然、今度も帝王切開になった
産み月に近づくにつれ、お腹に負担のかからないように
気を付けるのが煩わしかったけれど
周りの人たちも、それなりに気を使ってくれたので
まずまず無事に産むことが出来た
今度は出血もたいしたことがなくて
周りの人たちに迷惑をかけることもなくて
ほっとしたのは私だけではなかったようだ
頑張っていますね、我ながら。




