過ぎ去りし日々
やっと入り口にたどり着きました。もう迷わないように・・・
「ある一つの邂逅」
思い出せる人がいなくなって久しい
もう忘れてしまってもよい程の過去
かと言って、つい先だってのような気もする
私以外の人にとっては
ほんとうに、どうでもいい事だろうに
それは一人の男と
一人の女の出会いのお話なのだけど
どこにでもある、誰にでもある
本当にありふれた、でも一度だけの出会いだった
不幸な時代だった
誰もが虚しい夢のようなものに
踊らされていた、浮かれていた
手前勝手な者たちは
出来もしない計画を立てて
夢物語の中へ人々を追い込んでいった
一時だけの輝きが
瞬きするほどの短い間だけの
光が過ぎてしまうと
そこにはドロドロとした欲望に塗れた
眼をそむけたくなるような
深い傷跡だけしか残らなかった
襲い来る暴力から
命からがら逃げかえった
何も知らずに船に乗った人々は
眩暈がするほどに破壊され尽くした故郷で
途方に暮れるばかりだった
そんな中での出会いだったという
兄とその男は親友だった
良いことも、悪いことも
生きるために手を染めた
逃げる時も連れ立って走り
隠れる時も寄り添っていた
生きるための物も分け合ったと言うが・・・
ようやくたどり着いた港には
持ち物などなくて
ほとんど着の身着のままであったよと、嗤う
出奔した遠い故郷には帰れずに
親友の近くに棲むのも
しかたがないことか
そんな兄の勧めと
家族の生活の安定のために
慎ましやかな祝言を上げた女
逃げ回った日々と比べれば
たしかに小さな幸せであろうと
伏し目がちに夫となる男をぬすみ見る
派手さなどない
贅沢など出来るわけもない
混乱の中で自分を見失わないことが
ただ一つ女にできることだった
町の安アパートで家具のないままに
二人で暮らすのが始まりだったのだ
「祝言の日」
白い角隠しが着けられたのだろうか
神の御前で三々九度を交わすことが出来たのだろうか
きっと
混乱が落ち着き
食に困ることもなく
毎日の仕事についていたのだ
家族もそれぞれに楽しみを見つけ
明日への希望も持つことが出来て
こうして働けば楽になることも
信じることが出来ていたんだ
たぶん・・・
つぎはいつになるか・・・