001 本を読む者
遥か彼方の遠い宇宙。天とも地とも表せぬ世界のある地点。僅かな大地が広がる土地に、一軒の家が建っていた。色とりどりの花が家を取り囲み、その花々を取り囲むように鉄柵が取り囲む。鉄柵の先は何も無く、青や紫で塗られた空間に、赤や白の点がまばらに置いてあるだけだった。
家も家で奇怪な様子だった。たとえば、ある一点から見れば中世の古城なのだが、別の点から見ればかやぶき屋根が現れる。かと思えば隣の破れた障子から畳の床が顔を出す。外に備えられた階段から、上へ下へと駆けることも可能に見える。これらはバランスを取り合って静かに佇んでいた。
家の最上階には円筒形のようなものが建てられていた。他の建造物よりも一回り小さく、天井部分はガラス状のドームになっている。こぢんまりとした空間に一人だけ、アンティークのソファに身を預けながら本を読む者がいた。ページをめくるたびに空色の短い髪が揺れる。文字を追う目は外に広がる紫で満ちている。本を持つ手にぶら下がったバングルには、目の輝きと同等の色を帯びていた。
やがてページを全てめくり終えたのか、閉じられた本がぽすんと音を立てる。白い表紙を一瞥した後、本を持ってビューロの前に立った。中を開けると似つかわしくない電子パネルと棚が現れ駆動音が鳴る。パネルをいくらか操作し、持っていた本を棚に置く。瞬間、その本は光を放ちながら形を変え、元通りに置かれたときには緑色の表紙に変わっていた。それを見届けると、その本を手に取り、蓋を閉めた。そして元のソファに座り、本を広げる。辺りは再び静寂が訪れ、ただページをめくる音だけが響く。
これは、様々な本を読む者の、お話。
本の内容について語られるのか、はたまた本を読む者について語られるのか。
全ては、物語の行く末を見る者にしか判らないのだ。