60 いつかの未来
あまーいR15
夢を見ていた。
晴れた空の下、私はエドウィンと手を繋いで歩いている。
今の「私」は第三者の目線になっているので、微笑み寄り添いながら歩く自分の姿をちょっと離れたところから見ていた。なんだか変な感じだけど、私は幸せそうだし、エドウィンもとろっとろに甘い顔で私を見ているから、まあいいこととしよう。
そうしていると、目の前に花畑が現れた。白や黄色、薄いピンクなど、目に優しい色合いの花が咲き乱れる中、二人の子どもたちが遊んでいる。
子どもたちの顔はぼんやりとしていて、よく見えない。でも、子どもたちを見る私とエドウィンはとても幸せそうで――ああ、この夢の中で、私は彼との間に二人の子を産んだ設定になっているんだな、とメタなことを思った。
そうしていると、エドウィンが私に何か言い、胸元から引き抜いたハンカチを足下の草地に広げた。私は礼を言い、そこに腰を下ろす。私が座って楽な姿勢を取るまで、エドウィンは私の手を取ったり背中を支えたりしていた。
なんだか介護を受けているみたいだな……と思っていると、私の隣に腰を下ろしたエドウィンは私と見つめ合いながら、お腹に触れてきた。優しく、労るように腹部を撫でるエドウィンの眼差しは優しい。
ああ、きっと、夢の中の私は近いうちに、三人目の子どもを産むんだろう。花冠を手に駆け戻ってきた二人の子どもたちは私とエドウィンの頭に花冠を載せた後、私のお腹に向かって何か呼びかけている。
幸せな、温かい世界。
そんな未来が、いつか訪れれば――
とろとろとまどろみから覚め、シーツが擦れ合う音が聞こえてくる。
寝返りを打とうとすると、つきんと体が痛んだ。思わず呻くと、がさがさっと衣擦れの音が大きくなる。
「……カトレア様? 大丈夫ですか?」
この声は――エドウィンだ。
目を開けると、ぐしゃぐしゃに乱れたシーツが視界に飛び込んできた。私の腰には硬い腕が巻き付いていて、背中の方から吐息が聞こえてくる。
「エディ……あっ、痛っ……!」
「……どうかご無理をなさらないでください。少し、お体を動かしますね」
体――主に下半身の痛みで身を強ばらせると、私を抱き寄せたエドウィンが、よっ、と体を回転させ、楽な姿勢を取れるように寝かせてくれた。
……ああ、そうだ。
私、さっきまで、エドウィンに抱かれて――
とたん、かあっと顔が熱くなった。私の体を労りながら目の前に横になったエドウィンは当然のことながら裸で、鎖骨のラインとか喉仏とか、鍛えられた胸筋とかが見えると――どうにも恥ずかしくなった。
恥ずかしさから逃げようと私は上掛けの中に顔を突っ込ませたけれど、むしろ潜り込んだことを後悔する羽目になった。うん、全裸だった。
「ぎえっ!?」
「あー……すみません。あなたが寝ちゃった後、片づけとかしようと思ったんですけど、俺も寝てしまったもので」
「う、ううん、いいの!」
慌てて上掛けから顔を上げる。お互い裸なのは仕方がないのだから、今のはどう見ても私が悪い。
エドウィンは寝癖の付いた髪を掻き上げ、そっと手を伸ばしてきた。彼が触れたのは、私のお腹。
「……お体、大丈夫ですか? 痛いところがあるとか、気持ち悪いとか、そういうのがあれば言ってください」
「……ちょっと体は痛いけれど、気分はいいわ。ありがとう、エディ」
エドウィンの手は、ゆるゆると私のお腹を撫でている。さっきは優しくも荒々しい手つきで私の体を暴き、私をたくさん泣かせて気持ちよくさせたというのに、今は遠慮がちに触れているというのがなんとも――
「……可愛い」
「……今、何とおっしゃいましたか?」
「いえ、何でもないわ」
少しだけエドウィンが不機嫌になったみたいなので、誤魔化す気持ちでちゅっとキスをすると、彼は「そんなんで絆されませんっ」とまだ拗ねている。でも、頬は赤いし目尻も緩んでいて……本当に可愛い。
私を抱いているときはあんなに男らしくて獰猛な感じがしたというのに、このギャップには永遠に慣れそうにない。
ちなみに、彼に寝室に連れてこられたのは午前中だったけれど、今はもう夕方らしい。道理で、カーテン越しの太陽光がオレンジ色っぽく見えるわけだ。
「もう日が暮れちゃうのね……」
「そうですね。でも、今の間にたくさんたくさんあなたを愛することができたので、明日からまた頑張れそうです!」
エドウィンに元気よく言われ、そういえば明日からは私たちも仕事に復帰しなければならないのだと思い出した。女王陛下やサイネリア、ジルベール様たちに私たちの口からちゃんと経過報告をするべきだろうし、迷惑を掛けたお詫びもしないといけないだろう。
「明日からまた、忙しくなるね」
「そうですね。……あ、あの、でも、俺ですね」
「うん」
何か言いたそうなので先を促すと、エドウィンは一旦閉口して頬を赤く染め、しばし目線を彷徨わせた後に口を開いた。
「……あなたを抱きしめて眠りながら思ったんですけど、俺、あなたを抱く時間もすっげぇ好きなんですが……こうしてあなたと一緒に寄り添って眠るのも大好きだって分かったんです。ですから……これから先、忙しくなっても、夜はあなたと一緒に寝たいんです」
「あら……そんなの今さらじゃない?」
「今さらですけど、ここで改めて口にしておきたくて」
エドウィンは照れたように笑い、んっ、と色気の混じった声を上げて腕を伸ばし、私の体を抱き寄せた。
私は彼の胸元に大人しく擦り寄り、おもむろに口を開く。
「……夢を見たの」
「ぺんぎんですか?」
「アレが出てきたら今度こそ唐揚げにしてやるわ。……アレじゃなくて、もっと幸せな夢を見たの」
私とエドウィンが手を取り合って、散歩をする夢。花畑には、子どもたちがいて。エドウィンは、優しい眼差しで私のお腹を撫でてくれて。
エドウィンも私の言いたいことの察しが付いたようで、少し目を見開くとやがて嬉しそうに微笑んだ。
「それ、すげぇ素敵な夢ですね」
「うん。……私も、そうなればいいな、って思うの」
「きっとそうなりますよ。……カトレア様、愛しています。これからもあなたと共に生きられること、心から嬉しく思います」
そう言うエドウィンは、夢で見たときと同じように優しい眼差しをしていた。
私は、この瞳に恋をした。
強く、勇敢で、それでいて優しいこの人の瞳を見て、ゲームの登場人物の一人じゃない、生きた人間であるこの人に惹かれた。
困ることもあった。迷うこともあった。
でも、この手を取れて本当に良かったと思える。
さっき見た幸せな世界を、エドウィンと一緒に築いていきたいと思える。
「……うん、私も嬉しい。愛しています、エドウィン」
シーツの上で、手と手を握り合わせる。
愛する人と共に生きていける喜びを、私は噛みしめていた。




