異世界転生 3
「そう言えば、母さんの部屋ってどこにあるのか知らないんだよね。執務室ならわかるけど」
「ほんなら、ジュリーに案内してもらいや」
「かしこまりました」
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食後にブクブクぺーをして、部屋で待っていると、ジュリーがやってきた。
「アルディア様、お迎えにあがりました」
「うん、よろしくね。えっと、ジュリーさん?」
「そう言えば、正式に自己紹介したことがありませんでしたね。私はアルディア様の身の回りのお世話を担当しているジュリアという者です。と言っても、アルディア様は身の回りのことは全てご自分でなされているので、城内で最も暇を持て余している者でもあります。せめて、掃除や洗濯くらいはやらせてほしいのですが… いえ、アルディア様が自立なさっているのは大変喜ばしいことなのですよ。しかし、あまりにもやることがないと、メイドとしての存在意義というか、アイデンティティーを失っているような気がして……」
「わ、わかった、わかった。これからはジュリアさんにも色々頼むことにするから、とりあえず落ち着いて」
「も、申し訳ありません。つい出すぎた真似を」
「いや、気にしなくていいよ。こっちも一人暮らしが長かったから、習慣になってて…」
「一人暮らしが長かった…?」
「あ、いや、なんでもない。それよりも母さんの部屋に案内してもらえる?」
「大変失礼いたしました。ご案内いたします」
”うっかり”口が滑ってしまったが、まあ、セーフだろ。なにがセーフかは知らないが。それにしてもこんなマシンガントークする人だとは思わなかったな。まるで出番に飢えているような… ともかくこれからはジュリアさんにも雑用をさせることにしよう。
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「アルディア様、到着しました。こちらです」
「ありがとう、ジュリアさん」
「私のことは『ジュリー』でいいですよ。それでは失礼します」
ジュリーさんって割とキャラが濃いよな。さて、部屋に入るか。
コンコン
「はーい」
「アルディアです」
ガチャ。鍵の開く音だ。しかも、シリンダー錠ではなく、ちょっとお高いホテルとかで見かけるカードキータイプ。どうやって作ったんだ、これ。
「ようきたなあ、中にお入り」
「お邪魔しま…」
「どうしたん?そこで固まって」
「いや、なんでもない…」
「なんでもないわけないやろ。怒らんから正直にゆうてみい」
「えっと… この部屋が『自分の思う女子の部屋』にどストライクだったんで吹き出してしまいました…」
「ほうほう、『自分の思う女子の部屋』ですか。女子の部屋入ったことないん?」
「いや、まあ、その...」
「無理に取り繕わんでもええから。この部屋のレイアウトは日本でのうちの部屋を再現したものや。記憶だけが頼りだったのと、同じ小物や家具、家電がなかったから、完全再現とは行かへんかったけどな」
日本での部屋!そうだよ。「ニ◯リのモデルルームとかでよく見る広めのワンルームにそっくり」って言えばよかったんだ。なにが『自分の思う女子の部屋』だよ。仮にも自分の母親の部屋なのに。テンパっていたとはいえ、黒歴史確定だよなぁ、これ...
「ソウデスカ」
「まあ、うちの部屋のことはええから、本題に入ろか。夕食んときの続きやな。適当なとこに座りや」
いや、適当なところって言ったって魔獣のぬいぐるみがソファを占領していて座る場所がないんですけど。これ勝手に動かしたら怒るやつ...?とりあえずいい感じのところにローテーブルがあったのでそこに座る。もちろん正座だ。
ええと、夕食の続きだっけか?そうそう、母さんと前世の話題ですんなり会話が成立したんだ。母さんも俺と同じ転生者なんだろうか。とりあえず、会話の切り口としては…
「母さんは『日本』を知ってる…よね?」
「ああ、知ってるで。アルちゃんはどこで知ったん?」
「どこでっていうか、前世?異世界転生、みたいな?」
「なるほど。転生っちゅうことは、女神様的なヤツに会った?」
「うん、まあ、一応。アフロディーテ様に転生させてもらったんだ。本人かどうかは知らないけど、愛と美と生を司るギリシャ神話の女神ってことで、なかなかの美人さんだったよ」
「あー、そっかー。あのチ◯コ野郎かー」
オイ、コラ。なんてことを言うんだ。美女のチ◯コ発言は聞きたくなかったなー。確かに、前世の母さんも家庭内では卑猥な単語を躊躇なく連呼してたけれども。ここはスルーが懸命かな?
「母さん、アフロディーテ様と知り合い?」
「こっちの世界来てゴタゴタしてたときにちょっとな。ほんで、なんか言われた?」
「『世界の抑止力になってほしい』って言われた。なんのことだかさっぱりでさ。追求したら『ノブレス・オブリージュ』、そのうちわかるみたいなこと言われた」
「はあ、あいつらしいと言えばらしいけど。それじゃあ、アルちゃんは世界を救ったり滅ぼしたりしようとか考えてはないんやな?」
「今のところは、だけど。むしろ、何をしたらいいのか教えてほしいくらいだよ」
「そかそか、ほんなら、三者面談しますか」
「三者面談?俺と母さんと父さんで?」
「いや、うちとアルちゃんとチ◯コ野郎とで、や」
そういって母さんは俺の手を握ってきた。ドキッとして椅子から立ち上がってしまったが、気づくと、前世の妹の部屋と見間違えるほどに汚い部屋にいた。