プロローグ
初投稿です。
「今日もあちぃぃぃ」
連日の絶望的な暑さで生命の危機を感じる今日この頃。天気予報曰く、今日は今年最高の暑さになるらしく、朝から30℃を突破している。
「まあ、会社に着くまでのガマンだな」
通勤の最大の山場はバス停から会社までの徒歩区間である。朝は気温よりも刺さるような朝日の方がダメージが大きい。クールビズで半袖のワイシャツを着ていることが裏目に出たのか、腕が熱い。というか、むしろ痛い。出来るだけ日陰になっている道を歩いていき、やっとの事で会社に着いた。徒歩15分程度にも関わらず大量に汗をかいた。
「さすがに今日は着替えるか」
たかが通勤で着替えていたら、着替えが何枚あっても足りないが、今週いっぱいで暑さのピークを越えるらしいから、ガマンである。
更衣室で着替えてから担当部署へ行く。この部屋もなんかいつもより暑い気がする。まだ、冷えてないのかな?
「おはようございます、部長。さすがに今日は暑いですね」
「ああ、おはよう、佐々木くん。実はエアコンが故障しているみたいで、午後には修理に来てくれるらしいから、それまでは窓を開けるなりして辛抱してくれ」
なんと。正気か?エアコンなしで働けと?うちの会社はブラックではないが、そこまでホワイトでもない。でも、今日中にエアコンが復活するなら、なんとかなるだろ。
だが、現実はそんなに甘くなかった。パソコンからの排熱と室内ということもあって、みるみると室温が上がっていき、だんだん朦朧としていき、やがて意識を失った。
「おーい、佐々木くん。勤務中に居眠りとは何事だ。起きろ〜 …ったく、いくら暑いからと言ってもさすがにだらけ過ぎだろう。ああ、中村くん、彼が起きたら私の所に来るよう言っておいてくれ」
「はは、説教ですか。伝えておきます」
これが、運命の分かれ道だった。意識を取り戻した俺は真っ白な空間に居た。
――――――――――
「うーん、寝てたのか?ヤベッ、部長に怒られる …ってあれ?部長?ってか、何もなくね?」
「どうやらお目覚めのようですね、佐々木賢治さん」
「どちらさま?というか、いくら居眠りしてたからって、総撤収なんて、なんのドッキリですか。モニ○リング?いや、それにしてはカメラなんて見当たらないし…」
「混乱しているようですね。私はアフロディーテ。そしてあなたは死んだのです。この度はあなたを転生させるためにお呼びしたのです。」
「は?え?死んだ…?俺が?なんで?それにアフロディーテって神話の女神なんじゃ…」
「落ち着いてください。まず、あなたは死にました。死因は熱中症です。意識を失ってから放置されたのが原因です」
「いやいやいや、熱中症ったって、意識を失って数時間でしょ。それで死ぬ?そんな簡単に?いくらエアコンが故障してたとはいえそんなに暑かったのか?」
「その日は気温だけで言えばサハラ砂漠よりも高かったですよ。室内だったのでさらに高かったようです。」
「砂漠より暑いって… 終わってんな、日本。ってか、転生?お約束の?剣と魔法の世界に?」
「大分落ち着いてきたようですね。それでは本題に入りましょう。あなたには魔王と勇者の子に転生してもらいます。」
「いやいやいや、ちょっとまて。こういうのって村人か貴族の子がお約束じゃないの?いや、魔王も一応貴族か。じゃなくて、なんで、エンディング後の世界なの?勇者になって魔王を倒して〜とかじゃないの?なんで魔王と勇者がくっついちゃってんの?魔王と勇者の子供なんて俺TUEEEもいいとこじゃん」
「ふふ、一人で忙しい人ですね。魔王と勇者の子に転生していただきたい理由は、世界の抑止力になっていただきたいからです」
「抑止力?世界の破滅を阻止せよ、みたいな?転生先は混沌な世界なのか?」
「それは… ご自分の眼で確認した方がよいでしょう。当事者になって初めて見えてくるものも少なからずあるでしょう」
「否定はしないのか。それで結局俺は何をさせられるんだ?」
「ノブレス・オブリージュという言葉はご存知ですか?」
「ああ、確か『高貴さは義務を強制する』だったか?それがどうした… ああ、そういうことか。魔王と勇者の子供という立場が俺に何をすべきか教えてくれるってことか」
「そういうことです。それと、もちろん、今の自分の立場はわかっていますね?」
「…一応聴くが、もし断ったら?」
「今すぐ三途の川を渡って貰います」
「容赦ないな」
「それが規則ですから。それに、断る気なんて毛頭ないでしょうに」
「まあな。それで、お約束のチート能力は?」
「…遺伝子的に言えばあなたの転生後はチートそのものですよ」
「魔王とか勇者の能力って遺伝するもんなの?」
「それこそ自分で確かめてみればいいでしょう」
「ケチだなあ。でもまあ、いいか。欲張るのはほどほどにしとこう。二兎追うものは何とかっていうしな」
「よろしいですね?」
「ああ、頼む」
そして俺は優しい色の光に包まれ、徐々に意識を失っていく。