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短編

飛び降り自殺、今日もウィキャンノットフライ

作者: NOMAR


 高校の屋上に佇む男子高校生、こいつはいつものように、何を考えているか解らない顔で校庭を、街を見下ろしている。

 いや、何を考えてるかは俺には少しは解る。ガキの頃からの付き合いだ。こいつも俺と同じ目的で屋上に上がって来たというのなら。

 解ってはいるが一応聞いておいてやろうか。


「お前、何やってんだよ」

「何って、風景を見てる」

「風景ったって、部活やってる奴等を眺めて何が楽しいんだ」

「まぁまぁ楽しい。俺がここから飛び降りて楽しい部活動を凍りつかせる、というのも面白いかと妄想してる」

「命賭けで嫌がらせかよ。だが、部活やらされてる奴等は喜ぶかもな。アクシンデント発生、救急車ー、おまわりさーん、と日常にピリッとひとつの刺激的なイベントの予感だ」


「あいつらを喜ばせるのはつまらんなー」

「飛び降りるんなら付き合うぜー」

「お前、友達なら止めるとこだろに」

「止める理由が見当たらない。それに俺も生きるのに飽きた。息をするのもかったるい」

「まったく、友達甲斐の無い奴だ」

「俺が止めると思ったか? 逆だ。俺とお前の絆ってのをナメるなよ? お前が飛び降りるってなら、俺が一緒に飛び降りてやる」

「やめろ、そこまで行くと気持ち悪い。俺とお前が恋人での心中とか言われたく無い」


「死んだあとのことなんか気にすんなよ。その噂が立っても、死んだ俺達の耳には入らんし」

「ツレションのようにツレ飛び降りってのもどうなんだ? だったら俺はお前が飛び降りるより先に飛び降りてやる」

「負けるか。俺が先に飛び降りてやる。お前が俺の後についてこい」

「ふざけろ、俺が先だ。お前はそれ見てろ。一番に通報する権利をくれてやる」

「させるか。お前は俺が飛び降りる様を録画して、ユーチューブに投稿してから飛び降りろ」


「なんでお前の死に様をネットに流さなきゃならんのか? 俺が飛び降りづらくなる」

「そしたら少しは生き甲斐も出るんじゃねーの?」

「同級生の自殺する様を録画して投稿するって生き甲斐は、なんだそりゃ? そんな奴はさっさと死んだ方が世の為、人の為だ。よし飛ぼう」

「よし付き合おう。で、遺書は?」

「遺書を一通書き上げる気力があれば、まだ生きていけんじゃね?」

「まぁ、息をするのも、もうめんどくせーわな」


「じゃ、死ぬ前にだな、家の戸締まりはどうだ? ガスの元栓は閉めてきたか?」

「おい、ちょっと待て。いきなり言われると不安になるぞそれは。お前こそパソコンのデータとか大丈夫なのか? エロ動画とか残ってんじゃないのか?」

「最近は突然死対策の為にそれ用のアプリがある。パスワード三回間違えたら自動で全消去だ」

「ち、そんなとこだけ頭が回りやがる。俺の秘蔵コレクションどーすっかなー」


「お前の持ってる秘蔵コレクションってなんだ? お前は何をオカズにしてんだ?」

「興味あるか? うちに来たら見してやんよ。ただ、持ってるだけで法に触れるから俺が持ってる物については秘密にしろよ」

「十年以上付き合いのある幼馴染みが違法なブツを持ってるとは。なんだ? ロリか? ペドか?」

「俺はこれでも女だぞ? 十歳以下の美少年の行き過ぎた友情写真集とか、その辺だ。お前はどーなんだよ?」

「たいして珍しくも無い。ただのスナッフムービーだ。女が泣き叫んで死ぬようなヤツ」


「やっぱ俺らは大人になる前に死んだ方が、世のため人のためだーなー」

「まったくだ。ろくな未来になりゃしない。クソ以下だ。生きてるのも苦痛だ」

「なんで俺らはこーなったんだろーなー?」

「さて? 生きる希望より先に死んだ方がマシって、教えてもらったからじゃね?」

「死んであの世に期待すっかね。生まれ変わりってのはあるんかね?」


「あ、お前の読んでだウェブ小説。『異世界に転生して女装して伯爵令嬢することに』が、書籍化だってよ」

「マジか? というか、なんでこれから飛び降り死にしようって時にスマホでツイッター見てんだよお前」

「いや、なんとなく。書籍には書き下ろしか100ページつくってよ」

「おい、そんなん聞いたら飛び降りづらいだろが。それ言ったらお前の見てたアニメ、『アビス・イン・ワンダラーランド』も二期が製作決まったってよ」

「なんだって? クソ、それ見ないと死ぬに死にきれんな」


「スマホ出したついでだ。異世界転生占いでもするか?」

「なんだそれ?」

「死んで異世界に生まれ変わったら何になるかってヤツだ。えーと、お前の生年月日を入力、と」

「お、見つけた、このサイトか。じゃ、こっちはお前の生年月日を入力してやる」

「何処の世界に生まれ変わっても、また幼馴染みになって、だらだらくっちゃべってたいもんだ」

「ここまで遠慮無く言い合える奴なんて、お前しかいないしな」


「どいつもこいつも気取りやがって、息苦しい世の中だ」

「次の世界は気楽に生きられるとこだといいな」

「お、結果出た」

「こっちもだ」


 ……、

 くだらないことを言い合っているうちに、日は傾いてきた。屋上に立つ幼馴染みは、顔はいいが頭の中はアレだ。アレなくせに常識と倫理はマトモだ。ただ、生きているだけで自分の思考で自分の精神をガリガリ削っている。

 俺もこいつもこの世界で生きていくには、頭の中身が地獄過ぎる。ろくでもない未来しか想像できやしない。

 壊れてなけりゃ、背も高くて顔もいいのにな。頭が良すぎる奴は、ヤバイ奴ってことなんだろ。


「じゃ、一緒に言うぞ」

「せーの、」


「ムカデ!」

「ダンゴムシ!」


 ……互いに顔を見合わせる。虫か、いや、正確にはどっちも昆虫じゃないか。ダンゴムシって確かエビの仲間だったよーな。


「……よし、飛び降りるのは、また今度にしよう」

「そうするか。気分じゃ無くなった」

「飛び降りるのは異世界女装少年を読んでからにしよう」

「そうか、じゃ、読み終わったら貸してくれ」

「なんだ? お前も読んでるのか?」

「紙の本になったら読んでみるか。お前の趣味なんだろ?」

 

 屋上の手すりから手を離して、校舎に戻る階段へと向かう。

 1度振り返って屋上の空を睨む。

 まだ、お前にこいつはやらねーよ。俺が先に見つけた、俺のもんなんだから。

 並んで階段を下りて下校する。俺とこいつのいつもの時間。

 さて、こんな誤魔化しの先伸ばしを俺達はいつまで続けられんのかね?

 未来に問いかけても答なんて返ってきやしねえ。


 つまらなそうに校門の外の道路を見ている幼馴染みを見上げる。いつから俺より背が高くなったのか。

 産まれてこなければ良かったことばかりだが、こいつに出会えたことだけは感謝してやる。

 いずれは一緒に死ぬ予定の幼馴染みと現実から目を逸らす話をくっちゃべる。

 少しでもこの時間を長続きさせるために。



 

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[良い点] 胸が締め付けられる様な、息が詰まる程の苦しさ、哀しさ、やるせなさ 気安く「二人で手を取り合って生きて行けば」とは言えない重さと深さ 互いに互いを理解し受け容れ通じ合い思いやる暖かさが一…
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