第9話 咆哮
救助されたアールはサチェットと協力して推理を行った。
そこで得られた『コルト1人で虱潰しに換金に当たる』という新たな情報。
これに対応するため、3人で分担し上層街の方々へ散る。
しかし、ディガー用の店にあまりアテのないアールは、成果を得られず徒に時間だけを浪費する。
日も昇り人通りの多くなった大通り。
そこでアールが取った行動とは・・・。
サチェット達の所を飛び出してから、アールはがむしゃらに駆け回っていた。
盛況ではないディガー用の店なぞ、彼にはあまり思いつかない。
ディガーになってからまだ間もない、モグラ上がりである。
せいぜい有名店を少し知っている程度だ。
それでも駆け回る、明け方で人通りは少なく、誰かに聞く事も難しい。
それでも立ち止まってはいられない。
まだどの店も開いてはいないが、僅かにでも人が見えれば構わずに突っ込んだ。
行く先々の店で、グレイの事や盗品の売買に関して話をする。
しかし有効な手掛かりは、何も手に入らない。
時間は徒に過ぎ、体力は減っていき、焦りは増して行くばかりだった。
気付けばすっかり陽は昇り、目についた時計は8時を回っている。
そろそろ店が開き始める。
焦りは更に高まるが、成果は何もない。
人通りも多くなってきた、採掘道具を携えたディガーもちらほら見える。
なりふりもプライドも羞恥も捨て去り、アールの体は自然に動いていた。
大通りに向かって、出来る限りの声で叫ぶ。
「だれかあ! 喋る鎧を知りませんかあ!? 盗まれましたあ! 助けて下さい!!」
言い終わる前から、駆けずり回って疲れていた体はフラついていた。
殆どの人は少し驚いた後にまた道を急ぐが、何人かは近付いてきた。
多くは作業着を来て、無骨な採掘道具を持ったディガー達である。
「喋る鎧? 何言ってんだお前は? ふざけ……てるわけじゃねえっぽいな?」
「知ってるぞ、モグラのガキが拾った変な鎧の事だな。お前がそうか?」
「盗まれたってのはどういうことだ? ちゃんと解るように話せ」
ザワつきつつも、アールの話を聞こうとしてくれる様だ。
アールはまだ知らないが、ディガーは例え面識は無くとも、同業者であるディガーを大事にする。
同業者との関係性も、命や稼ぎに大きく関わりかねないからだ。
アールは言葉よりも先に、涙が出てしまった。
集まったディガー達は一先ずアールを宥めて、座らせてから先を促す。
「ありがとう、ございます……。ですが、余り手持ちはありません。それでも良いでしょうか?」
「モグラにタカるほど落ちぶれてねえんだよ」
「お前の格好で金なんざ期待できねーのは解るわ」
「協力すりゃ組合から幾らか感謝料が出るさ。ちゃんと証言しろよ?」
多少の差異はあるが、ぶっきら棒な温かみを感じる。
アールは焦りを抑え、出来るだけ丁寧に事の詳細を説明した。
「……と言う訳です。どうか犯人の捜索と、グレイの奪還に協力を」
「ボルターか……。あいつが? ……マジかよ。……信じらんねえ」
「今日の仕事はこれで決まりだな。一旦ギルドに戻るか?」
「まあディガーなんて金目当てで当然だ。が、一線は守らねえとな」
ざわつきつつも協力してくれるようだ。
アールはこれからどうするか頭を動かすが、疲れた体では直ぐにはアイデアはでなかった。
後ろから肩を叩かれつつ、誰かが話しかけてきた。
「アール君、貴方は……。いや、とても素晴らしい。賞賛させて下さい」
先程別れたサチェットだ。
何とも大仰に褒められ、アールはこそばゆくなった。
サチェットは感激を振り払い、冷静に言葉を続ける。
「警察へはしっかりと伝えてきました。直ぐに対応してくれましたから、これで向こうも動き辛くなるでしょう。ここは私が引き受けます、貴方はどうしますか?」
「俺は、ちょっと疲れちまいました。皆の足を引っ張りたくない。……1人で探してみます、ここはお願いします」
「過度の謙遜は、程々にした方がいいですよ。こんな発破を掛けておいて、何が足を引っ張るですか?」
アールはサチェットに、軽く背中を叩かれる。
サチェットは進み出て皆をまとめだす、警察や組合と連携させるのだろう。
アールは疲れた体を引きずって、適当に目にとまったベンチに身を預けた。
ゴーレムからの一連で相当に疲れが溜まっていた体は、直ぐに意識を微睡ませた。
「……ぅおっ!? 寝て……たあ?」
アールは全身をビクっと震わせて覚醒する。
寝ている場合ではないと気が焦る。
時計を見るとほんの10分程だったようだ、ほっと胸を撫で下ろす。
見渡しても、先程集まってくれたディガー達もサチェットもいない
捜査のために動いてくれているのだろう。
アールも捜査を再会しようと、ベンチから立ち上がろうとしたが。
「俺も行かないと……うぉ!?」
疲れた体は力の加減を誤り、勢いと踏ん張りのバランスがちぐはぐだった。
アールはこけかけてたたらを踏む。
……ふと、ポケットから何かが落ちた、薄汚れた紙切れだ。
「これ……は? ボルターさんの?」
ボルターから貰った彼の住所のメモ。
先日ギルドに誘われた時に貰ったものだ。
食堂で一緒に飯を食い、アパートの前で出くわし、ギルドへ走り……。
何故だか、アールの胸はチクリと痛くなった。
「まさか、ボルターさんはサークルに残る気だったから。……この近くに?」
予定通り事が運んでいたとすると。
ボルターはコルトが換金を済ませてから合流し、金を受け取って、何食わぬ顔でディガーとしてやっていくつもりだった。
ならば今はどこに?
アールの生還を起因とした捜査を知らないのならば?
「どうせ他に行くアテもない。こうなりゃ行ってみるか」
アールはボルターのアパートへと走り出す。
その目には憎しみや復讐の念は宿っていなかった。
程なくしてアパートには到着したが、既に物々しい状況になっていた。
警察官、組合員、ディガーも少し見える。
見ていても何も解らない、暇をしているディガーに声を掛ける。
「あの、ここにボルターさ……。ボルターはいましたか?」
アールに声を掛けられたディガーは、少し残念そうな表情をしつつ質問に応じてくれた。
「君も捜査の協力を? もぬけの空だとさ。流石に、そこまでマヌケじゃないようだ」
「そうですか。何か手掛かりとかはあったんでしょうか?」
「手掛かりは何も無かったようだ。というか伽藍とした質素な部屋で、物自体があまり無く……。借金関連の書類が少しあっただけだとか」
伽藍とした質素な部屋。
貯蓄や倹約が班長の間違いならば、部屋には酒瓶や物が多く溢れているのではないだろうか?
更には借金?
アールには益々解らない、班長が間違っていたのだろうか?
疑問は益々深まりつつも、手掛かりが無い以上は、他を当ろうと踵を返す。
「有難うございます。俺はよそを当ります」
「気をつけろよー。採掘道具は無かったから、武器持ってるかもしんねえぞー」
ボルターのアパートを後にして通りに出る。
残るアテは食堂だが、ここにいなかった以上は食堂で優雅にコーヒーを啜っている、何て事はあるまい。
ここまで闇雲に動いてきて、アールはディガー達への協力要請しかできていない。
走り回るのは止めて頭を振り絞る。
ボルターと初めて会った日を思い出す。
組合で声をかけられ、食堂へ行き、班長と話し、アパートに行き、ボルターが後ろから買い物袋……。
あの時に感じた違和感に、再び向き合う。
アールは疑問を言葉にし整理する。
「……やっぱ変だよな? ボルターさん俺と別れて人と会って、買い物してアパート? ……俺そんな班長と長話してないぞ?」
ボルターが全力疾走していた、という事もないだろう。
買い物袋を持って現れたボルターは、疲れていなかった。
その後アールを引っ張って、組合まで突っ走れるほどに。
あの時アールは食堂から大通りを通って、ボルターの家まで向かった。
ここが生活圏のボルターは……。
「ボルターさんは、この辺りの裏路地や細道に詳しい? いや自宅周辺は詳しくて当然か。……まさかそこに?」
ボルターが、アールの知らない道を通って自宅周辺を行き来していたのならば、あの時の時間の齟齬も辻褄が合う。
こうなればとことんだ! と、アールは検討もつかない路地へと入っていった。
「……そりゃそうだよな。土地勘ねーし、入り組んでるし。迷ったのかな?」
30分もせずに迷ってしまった。
幸い工房の煙突等の高い建物のお陰で、大まかな方角は解る。
だが方角は解っても路地の解明は進まない。
上層の街はサークルの発展に伴って、複数の国や貴族をバックに、競争的に開発が進められた。
表通りは小奇麗だが、一本道を逸れれば、途端に複雑怪奇である。
アールは途方に暮れつつも、少しでも前進するために目標を定める。
「一旦戻るか。流石に、闇雲にも程があった……。とりあえずは煙突を目印に」
「まさかとは思ったが、運命とかいうやつかな? ……その声はアール君だね? 私はここだよ」
不意に、疲れと諦念を感じる声を投げかけられる。
間違いなく捜し求めていたボルターだ。
身構えつつ声のした方に体を向ける。
しかし姿は見えない所か、そちらには壁とパイプしかなかった。
パイプが入り組んだ壁から、更に声が続けられる。
「私はもう動けん。君に見つかるのなら、それは運命なのだろう。ほらこっちだ」
ゴンゴンと何かを叩く音でボルターはアールを導く。
音を頼りに、建物同士のパイプの間を覗き込む。
人が1人ギリギリ通れる、隙間の奥。
何とも見つけにくいが、パイプが絡み合った奥まった所に、少しスペースがある。
アールは手頃な廃管を手に、中へと入っていく。
これが罠ではないとは言い切れない。
徒労に終わるかと思われたアールの捜索。
紆余曲折を得て、遂にボルターへと辿り着いた。
日の光が僅かにしか届かない、薄暗い裏路地の更に奥。
そこでアールとボルターは、何を語るのか?
ここまで御覧頂き、まことにありがとうございます。
※こちらからは《メタ話、顔文字、ゆるい話等》となっております
※また、後書きは推敲を行っておりません、悪しからず
という訳で、アール君は「なんの成果も!!」とはなりませんでした。
大通りで叫ぶ、お約束ですがなりふり構わない協力要請ってのはこれが一番かと。
拡声器とか放送設備とか考えましたが「そこまでやる? 焦ってるならその場で叫ばね?」とか考えてしまいました
ボルター編を〆るためには、アール君とボルターの腹を割っての会話がどうしても必要になります。
次回はガッツリ全部2人の会話になります、動的なものは皆無なのはすいません
是非次回もご一読下さいませ




