第7話 告白
ゴーレムに打ちのめされ意識を失ったアールとグレイ。
ボルターとコルトは二人を連れてどこかへと向かう。
アールは朧気に覚醒し、自身が最悪の状況に置かれている事を知ってしまう。
中層 未探索領域
「もうこれで充分だろう! これ以上痛めつける必要はない!」
「どうせ食わせるのに何を偽善者ぶってやがる! やるならとことんだろうが!」
誰かの声が、耳に入ってくる。
まだ頭がはっきりしないままに、微かに意識が戻る。
腕も足も動かない、いや動かせない……縛られている?
目を開くが、光は入ってこない。
何も見えない……暗い所にいるのか?
「全身が全て食われるとは限らないだろう! 食い残しに人の手による傷が残っていたらどうする!? 私はここに残るのだ、あくまで私の保身だ!」
「ッチィ。……起きたようだな。んじゃ猿轡を噛ましておくぞ、これで終いだな」
口に何かを入れられる、布……?
何か仕込んである、変な臭いと味だ。
「……ちゃんと染み込ませてるだろうな?」
「やってるっての。こいつなら獣が布もロープも食ってくれるさ、証拠は残らん」
証拠……?
嫌でも口から入ってくる異臭に吐き気がする。
だが吐き気で、頭がはっきりとしてきた。
状況が嫌でも解った、俺は嵌められたのか……。
必死の抵抗をするが、腕は後ろ手に、足は腿と足首で縛られている。
「ン゛ン゛! ン゛ン゛ン゛ー!!」
「ッチ、暴れんなっての。……さっさと行こうや、もうこいつに用はねえ」
「その前に、作った地図を見せたまえ。……なるほど。これなら大丈夫だな」
「壁の加工もしてない天然物だ、安心したか? おらさっさと行くぞ、まだ終わってねえんだ」
「……先に行っていたまえ。君はここを離れるのだろう? どうせそれの換金に時間も掛かる。例の場所で落ち合おう」
ここで、地下で、拘束して置いていかれる?
俺はどうなるんだ?
疑問は、朦朧としていた時に耳に入ってきた言葉から、冷酷に答えを探り出した。
『食われる』『食い残し』『食ってくれる』
最悪の未来が頭を過ぎる、僅かな想像でさえも怖気が走る。
「……やっぱ偽善者じゃねえかよ。遅れたらこいつの取り分は無えからな」
足音が声が1人分遠ざかっていく。
コルトは、先にどこかへ行った様だ。
「……謝罪はしない。私は、自分が外道だと認識している。君は私を呪う権利がある」
ボルターが淡々と言葉を吐く。
アールは既に、暴れるのを止めていた。
暴れても無意味だと、悟ってしまった。
「……君の最後の言葉を、私は聞く義務があると思う。……慈悲ではない、義務だと思うのだ」
ボルターはアールの猿轡を外す。
何を言えば?
もはや何を言っても助けてはくれまい。
ならばこそ、何を言うべきか?
「一言だけだ。それでもう一度猿轡をする。それで終わりだ」
「……あなたは、なぜ、こんな事を?」
アールは動機が解らなかった。
ボルターは真面目に金を貯めていたディガーだ、詐欺師ではない。
アールとも面識は無く、私怨ではない。
こんな贖罪じみた事をやっていて、悪人という事もないだろう。
「なぜ? か。……私はねアール君。……君を妬んだのだ。ちっぽけで悪辣な男だ」
妬み……。アールは自身に問いかける。
心当たりが無い訳でもなかった。
幸運にもこの若さで鎧を手に入れた、只のモグラ。
それも自力ではない、妬まれるのも当然かとも思えた。
「私は君を蹴落として、自分の利益を優先した。罪だとは思うが、恥でも愚かだとも思わない」
誰しも少なからず、意図せずとも他人を蹴落とす。
それくらいはアールにも少しは解っている。
だがそれを率先して行う人間は稀である。
誰もが持っている倫理観というものが、ブレーキをするものだ。
「昔の私はこれができずに、失敗した。……私は昔の私と決別する。……話しは、これで終わりだ」
ボルターは再びアールに猿轡を噛ませる。
抵抗するが、それも無意味だった。
猿轡をしっかり確認したボルターは去っていった。
無感情に機械の様に。
静寂と闇のみが、アールを包み込む。
ボルターに言われた事を考えるが、アールの倫理観では肯定したくなかった。
利益と他者の命を天秤に乗せる事など、アールには仮定でも躊躇われた。
時折ロープをどうにかしたり、猿轡を噛み切ろうとするが、とても無理であった。
ロープと布が、身に食い込む痛みだけが残った。
どれだけの時間が経ったか、まるで解らない。
何も見えず何も聞こえない、眠る事など恐ろしくてできるわけもない。
いつ落ちてくるかは判らないが、いつか絶対に落ちてくる断頭台に固定されているようだ。
狂ってしまいそうな、いっそ狂ってしまいたい、その方がマシなんじゃ?
頭の中がグチャグチャになる。
それでも必死に正気にしがみ続け、現実逃避の甘い囁きを振り払う。
不意に、耳が微かな音を捉える。
死神の気配に、身が凍りつく。
思いとは裏腹に、恐怖が聴覚を研ぎ澄まさせる。
「ガリ……ガリ、ガッカ……ガッ」
壁か地面を削っている様な音。
怯えて身を震わす事しかできない。
歯はガタガタと震え、全身の血の気が引いていく。
耳は無慈悲にも、音を拾い続ける。
いっそ鼓膜を破ってくれと自身を呪う。
「ガカ……ブシュー……ガッカ、ブシュー」
妙な音が混じっている。
途端に頭が正気に戻ると共にフル回転する。
気体の排出音、余分な水蒸気を出す音。
蒸気機関だ!
人間である!
「ン゛ン゛ン゛ー! ン゛ン゛! ン゛ン゛ーン゛ー!」
猿轡をされていては声では無理だ。
見つけられるのを期待するしかないのか?
何かやれる事はないかと、アールは必死に拘束された全身を探る。
この後もチャンスがあるとは限らない。
尻に違和感がある……後ろポケットに何か硬いものがある。
後ろ手に縛られた手で、痛みに構わずにポケットから『思い出の品』を取り出す。
必死に地面に打ち鳴らして、こちらの存在を報せる。
地獄で蜘蛛の糸に縋るように、それしかもはや頭にはない。
「喧しい。……なんだ? 誰かそこにいるのか? というかここは。……通れるのか、紛らわしいもんだ」
愚痴を言いながら誰かがやってくる、もはや誰でも良い。
アールの精神力も体力も限界だった。
気付いてくれた誰かを待つこともできずに、アールは意識を失った。
「……なんだこりゃ? おいサチェット! こっちに来い。……これをどう見る?」
「直ぐに解放しましょう。……一体誰がこんな事を?」
「知らん。……はああ。私の探索ライフを邪魔しおって、糞面倒な」
見つけてくれた命の恩人は、愚痴を言いながらもアールの命を救う。
アールが中層の片隅に放置されてから、約半日程立ってからの事だった。
ここまで御覧頂き、まことにありがとうございます。
※こちらからは《メタ話、顔文字、ゆるい話等》となっております
※また、後書きは推敲を行っておりません、悪しからず
前回は内容がアレでしたんで後書きは自重させて頂きました、今回はまあ良いかな?と復活です
というわけでアール君は愚痴られつつも救出されます、一体だれなんでしょうねえこのディガーは?
ボルターとコルトの会話は幾らか仕込みがされてるので、そこにご注目頂ければ幸いです
救出されたアール君はこの後どうなるのか?ボルター達の企みはこれによってどうなるのか?
次回も是非ともご覧下さいませ




