第41話 魔獣 《中編》
竜と同化したアビティオ、アール達は各々が打開策を求めて駆け回る。
サチェットは依然竜の前面で踏ん張るが、余りにも分が悪い。
アール達は拠点内から得たものを出し合い、打つ手を考えるが……。
何人かの既にサチェットと共に竜と向かい合っていた。
拠点内を漁っても、有効な手立てが得られるかは微妙だと考えて。
しかし大型の盾を持ったサチェットはともかく、そうでないディガー達は竜の足をまともに食らうわけにはいかない。
無駄だと知りつつも竜の足や胴を攻撃し、サチェットから注意を逸らし、攻撃を分散させる。
か細く脆弱な反撃でしかないが、確かにサチェットの助けになっていた。
「皆さん! 余り無理はならさぬ様に、特に尻尾には気をつけて下さい!」
つい先程、後ろ足を攻めたディガーが尻尾の横薙ぎを食らいかけた。
直撃を受ける事は無かったが、カスっただけで鎧は一部破損した。
今は戦線から離脱しかけている。
「おめえ1人に任しとけるか! サボってたら後でカッコ悪いんだよ」
「死んじまったら元も子もねえけどな……。まあ報酬分は働かせろよ」
それを目の当たりにしたディガー達は竜に慄きつつも、それでも隙を見て足に殴り掛かる。
ダメージは与えられないが、竜が自分達を狙う前に飛び退き、物陰まで走った。
竜は諦めるか、建物を壊すか、その繰り返しはサチェットに息付く暇を与える。
鎧の中で汗を拭いつつ、サチェットは感謝した。
「……ありがとうございます。しかし、私はまだ」
竜の前に躍り出て槍で盾を打ち鳴らし、自身を鼓舞すると共に挑発する。
お前をさっき殺しかけた男はここにいると。
竜はすぐさまサチェットに向き直り、建物をなぎ倒しつつその足を進める。
一踏みで固められた地面にヒビが入り周りを揺らし、接触した建物はそれだけで瓦解していく。
しかしサチェットもこの攻防に慣れだしていた。
建物を上手く使い、竜の歩みを少しでも遅ませる。
「こっちだデカブツ、私はこっちだぞ! 追いついてみろ!!」
無論、それでも竜は桁違いに大きく強靭だった。
建物郡を薙ぎ倒し僅かに歩みが遅れても、それでもサチェットよりも早い。
一度狙われたら一撃は受ける、それを盾で受けるか上手くいなすか。
対処を誤れば、決定的なダメージを追うだろう。
建物を突き破って迫る竜の足。
盾で受けしかし蹴飛ばされ、しかしサチェットは立ち上がる。
「っぐぉ! ……アール達は、必ずや何か。何か手立てを」
仲間の機転を信頼し、竜との一方的な攻防を続ける。
必ずやこれが、勝利に繋がると信じて。
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「それで、そっちは何か有ったか? ワシは、これを……」
建物の漁り、一旦合流したアール、エミール、ブルック。
それぞれに走り回った成果を見せ合い、竜に一泡吹かせる作戦を考える。
「俺はこれを……。といっても、ちょっと量が……」
「ボクは……。これ、なんだけど……使える、かな?」
各々が拠点内から掻き集めてきたものを出し合う。
エミールは砲弾だが、断頭が尖っており細長い。
アールは薬品類、ガラス瓶やプラスチックの容器等、様々である。
ブルックは黒い剣、鎧にとっては黒い短剣だ、何か細工が施されていた。
「エミールのこれ、砲弾? 私の中のデータとは、随分違う形ね」
「この形だと色々と利点があるんだ……下手に触るなよ? 恐らく爆発するぞ」
注意され、アールは静かに距離を取る。
エミールは自分の背中も無言で指差す、物資スペースにも大量に運んでいる様だ。
何事も無いように、エミールはブルックが持ってきた黒い短剣をつぶさに観察する。
「ふむ……これは物を詰め込んで、刀身からそれを出す事ができる様だ……これか」
エミールはそう言いつつ、鎧の身では短剣ほどの剣、その柄にあるボタンを押す。
刀身の方で何かプシュッと音がする、アールは薬品類を持ち上げラベルを見る。
「ならその剣に奴に有効な……。ってどれが良いんだ……」
「見せてみろ。ふーむ……これと、これ……あとこっちと、これもイケるか?」
エミールはポイポイと、剣のタンク部分に薬品を入れていく。
明らかに薬品同士が反応し、変色や泡が出たりしているが、剣の方は無事なので口は挟まない。
「こんなものだろう。あとはこれを刺し込んで薬をばら撒けば、流石にどうにかなるさ」
禍々しい混ざった液体を備えた黒い短剣、しかし問題は山積している。
鱗を突破する事もできていないし、何よりこれはただの武器だ、採掘武器ではない。
短剣を受け取り、既にエミールは砲弾を抱えている。
「いや、これをどう刺すってんだ? これ採掘武器じゃ……」
「さっき獣の操作も試してダメだったろう? つまりあれは獣ではない、ならば通常の武器も効くのではないか? どっちも効かないというのは出来過ぎであろう」
合流して直ぐに、アールとブルックはダメ元で協力しての獣の操作を試している。
結果は語るまでも無く、依然竜はサチェット達をいたぶっていた。
ならば剣は効くかもしれないが、まだ強固な鱗が残っている。
エミールは砲弾を運びながら、心配するなと諭す。
「なーに砲弾を直接押し付けて……ツルハシか何かで起爆すれば突破できるさ。……心配するな」
「直接って……そんなの危険過ぎるだろ。何考えてやがる!」
「エミール、それはダメよ。幾ら鎧でも間近で爆発なんて……」
アールはエミールの前に立ちはだかる。
エミールはツルハシも背負っている、今の話は例え話などには聞こえなかった。
道を塞ぐアールに、冷静な言葉が投げ掛けられる。
「心配するな、鎧の中にいればそうそう大事にはならんだろうよ。ワシも大砲を探したが、拠点の内部には無くってなあ」
アールもグレイも返す言葉が見当たらない。
鱗を突破できなければ、短剣を刺すことはできない。
爆発物ならば何とかなるかもしれないが、肝心の大砲本体は見つからない。
ならばどうすれば良いのか、嫌でもその先は解る。
押し黙るアールとエミール、しかしブルックがあるものに気付く。
「あ……あれ、お爺ちゃん達? 城壁の、上……」
アールとエミールも指差す方へ目を向けた。
確かに城壁の上に数人、こちらに向けて手を振り何か叫んでいる。
すぐ傍で、鎧のディガーが何かを運んでいた。
正に今、喉から手が出るほど必要なものを。
「……そりゃそうだ。ワシだって大砲を置くなら中じゃなく城壁の上に置く。……しかしアールよ、お前さっき城壁の上を走っていただろう? 気付かんかったのか? もうちょっとでワシが爆死するところだったぞ?」
「私はー……いやーブルック君を探すのに必死でね? カメラ一個しかないからさー」
エミールは嬉しそうに、しかしアールを軽く足で小突く。
アールはバツが悪そうにしつつ、しかし苦笑している。
ブルックはそんな2人を見て、笑いを堪えている様だった。
先程までの切羽詰った空気は、最早どこにもない。
「いや、同じくブルックを探すのに必死で、足元はお留守だったよ……。よっし、そうと決まれば」
エミールは砲弾を城壁へと運び、アールとブルックは竜へと向かう。
決着をつけるべく、各々が動き出す。
鱗を突破する策を手に入れたアール達。
それを遂行すべく、拠点各所に走る。
果たして、その作戦の先に待つものは……。
是非次回もご覧下さいますよう、お願い申し上げます。




