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第38話 兄弟

ブルック(おとうと)を救うため躍り出たアール。

城門前でキマイラを相手に苦戦するエミールとサチェット。

どちらの戦況も、(かんば)しいものではなかった。

「さーて、ゴーレムなんざちょちょいと。いや、3体か……まあ何とかするっきゃねえな」

「アール、ブルックにも呼び掛けるのよ。協力してくれれば何とかなるわ」


 アールの目の前のブルック。

 両脇から2体のゴーレムに腕を掴まれ、ぐったりとしていた。

 しかし、アールがゴーレムと戦うとすれば。

 1体ならば敵では無し、2体ならば拘束は弱まる。

 どちらにせよ付け入る隙はあると、短剣を構え機を窺う。

 ゴーレムに乗っているソル達は何か話し合ってから、それぞれに動き出す。


「……ん?げ、ちょっとそれは……。いや、そりゃそうするか」


 ブルックを掴んでいたゴーレムの1体が、腕を放して進み出る。

 これでアールとゴーレムは1対2、ブルックの拘束は弱まると思っていた。

 しかし残った1体は、だらりとしたままのブルックを後ろから羽交い締めにする。

 これでは拘束は大して弱まっていない。

 アールは目算が狂うが、臆しはせずにゴーレムに構え直す。


「こうなりゃ、倒して数を減らすしかないか……」

「辛抱強くよアール、焦ったら負けよ」


 アールはゴーレム2体と真正面から睨み合う。

 どちらもアールより大きく、それぞれ棍棒を持ったゴーレム。

 避けて通れる道も無し。

 ブルック(おとうと)を奪還すべく、アールはゴーレムと切り結ぶ。



 一方、拠点城門前。

 エミールとサチェットはそれぞれ、互いに苦しい戦いを踏ん張っていた。


「こんのお……邪魔だ!」


 エミールのツルハシが、何体目かのモールベアの頭を潰す。

 とっくに何体仕留めたかなど数えてはいない。

 目の前のキマイラと対峙しつつ、2人は多数のモールベアにも囲まれていた。


「師匠、左後ろに!」

「解っておるわ! えーい鬱陶(うっとう)しい」


 声に従い、左後ろから突っ込んできたモールベアを短剣で仕留める。

 サチェットもモールベアを捌きつつ、キマイラと切り結んでいる。

 少しサチェットの方が余裕がある。

 適時エミールに加勢や声を飛ばす。


 キマイラと対峙して少ししてから、檻の中にいたものと、更に拠点から大量のモールベアが2人に迫った。

 結果、2人はキマイラだけでも手に負えない上、モールベアにも囲まれている。

 キマイラは2体とも依然ダメージがない。

 エミール達の疲弊を待つような立ち回りだ。

 たまにキマイラの攻撃がモールベアと噛み合わさり、連携の様なものまで偶発した。

 それには大盾を持っているサチェットまで被害を受けている。

 ジリジリとした消耗戦を余儀なくされていた。


「このままでは、ジリ貧だ……。しかし逃げる事もできん、する気もない」

「同感ですが、しかし。……いや、師匠? あれは……」


 サチェットに促され、エミールは視線だけそちらを向ける。

 何かがモールベアの囲みの外に迫っている。

 かと思ったら囲みを蹴散らし出した。

 エミールもサチェットも、ましてやアールも、援軍のツテなどは無かったはず。


「あれは何だ? どう見てもディガーだぞ。お前では、ないんだな?」

「私ではありません、失礼ですがアールでも無いでしょう。……しかし」


 理由は解らないが、明らかに加勢である。

 今はそれさえ解れば良いと、2人は奮起した。

 萎えかけた戦意に気合を入れて、改めてキマイラと向かい合う。



――――――――


 アールと交代したミュース達は、それを物陰から見守っていた。

 本来の予定であればミュースは説得役を終え次第、後方のジョージャウ達と合流するはずだった。

 しかし今はそれなりの人数で、退避せずに留まっている。


「ではあなた達は、アールの知り合いから頼まれて?」

「そういうわけだ。心配するな、しっかりと報酬を頂いてるからな」


 前払いで貰った新品のツルハシが輝く。

 (ほお)ずりしつつ、班長はミュースに状況を説明していた。

 ミュースは少し前に、ジョージャウと共に来るディガー達と遭遇し、再び拠点近くの物陰に戻っていた。

 アールの知り合いの工房に声を掛けられたディガーだと説明され、班長はジョージャウ達の護衛に、残りはエミール達の加勢に向かった。


「しかし、よく信じてくれたのお。地底人やらソルやら、更には地上侵攻なんぞ。突拍子もなかろうに」

「まあ、尊敬する人に力説されちゃあな……。しかも破格の報酬付だ。乗っかるというか、飛び乗るさ」


 班長は目の前の状況を見ながら一人頷く。

 ジョージャウ達に会った時も驚いたが、目の前の大規模な拠点は更に驚いた。

 実際は半信半疑だったが、こうして目の当たりにすれば信じざるをえない。

 班長はミュースに向き直り、少し遠慮がちにモヤモヤとした疑問を口にした。


「ところで……アールの奴が地底人さん達と家族だとか何とか。どういう事なんだ? あいつも地下の出身なのか?」


 思わずジョージャウ達は吹き出し、班長の背中を叩く。

 依然状況は予断を許さないが、アール(かぞく)に関して嬉しそうに話を始める。

 班長はその話を、半分理解しながら、半分涙ぐみながらに聞くのだった。



――――――――


 拠点内、中央大通り。

 アールは2体のゴーレムと切り結び、しかし押されていた。

 どちらもアールより大きく力も強い、まともにやり合っては敵わない。

 地形や場所を利用しようにも、ここは分が悪かった。

 整地された拠点は起伏等は無く、建物郡や施設はアールには不慣れな作り。

 結果、単純な力のぶつけ合いが多くなり、速さを活かしても1対2ではそれもカバーされる。

 アールはブルックに呼び掛けつつ、ゴーレム達から逃げるように戦い続けていた。


「おいこらブルック!! いい加減起きやがれ!」


 アールの呼び掛けに、しかしブルックはピクリともしない。

 ゴーレムに羽交い締めにされたまま、抵抗の素振りも見せない。

 アールの声には反応せず、だらりと下を向いたままでいた。

 捕まえているゴーレムは微動だにせず、肩に乗ったソルはニヤニヤしている。


「母ちゃんが、ミュースがすぐそこに来てんだぞ! お前帰りたくないのか!?」


 母親の名前、先程はミュースの直の声で明らかにブルックは反応していた。

 しかし今は何も反応しない。

 アールの声では無意味だと態度で示す。

 救出対象のブルックにそっぽを向かれ、アールは段々と苛立ちが募る。


「だぁーもー! なんなんだあいつは!?」

「アール落ち着いて。アールの声でダメっていうなら……もっと他の言葉を」


 グレイのアドバイスに一旦頭を冷やし、ゴーレムの棍棒を切り払いつつ距離を取った。

 再び逃げ回りつつ、ぶつぶつと記憶を辿る。

 他の言葉、アールとブルックが共通して知っている言葉を探す。

 ソル、グレイ、ミュース、ジョージャウ……アールは一つの言葉に至る。


「グレイ、拡声機能! もうこれしか残ってない、ダメだったら蹴り飛ばしてやる」


 それに応じ鎧の口がガパっと開かれる。

 アールはゴーレムから逃げ回りながらも、一旦ブルックの前に立ち止まりその言葉を叫ぶ。


「ブルック、親父を思い出せ! レクターはお前に、人間の敵になんて、なって欲しくないぞ!!」


 瞬間、紫のグレイ、ブルックの頭が動いた。

 たどたどしく、しかしはっきりと、アールの声に反応する。


「……お、とお……さん……?」


 見届けたアールは、しかし迫るゴーレムの腕に引き倒される。

 言い終えて逃げるはずだったが、ブルックの反応につい、それを見守ってしまった。


「ちっくしょーが……空気読めよな」


 必死に抵抗するが、2体がかりに押さえつけられビクともしない。

 周りのソル達は獲物を捕まえた事を確認し、方々に応援を要請している。

 勝利を確信したソルが、ゴーレムの上からアールに罵声(ばせい)を飛ばす。

 しかし残った1体のゴーレムは、腕の中で抵抗する()()を、必死に抑えていた。


「邪魔……だぁ……」


 紫のグレイは羽交い締めの状態のままに、自らを拘束するゴーレムを持ち上げる。

 ゴーレムを背負ったまま、地面に押さえつけられたアールまでフラフラと近付く。

 ゴーレムの肩に乗っていたソルも周りのソルも、突然の事態に蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。


「ブルック……お前」

「アールの説得、届いたじゃない!」


 操作していたソルが逃げた事で、羽交い締めをしていたゴーレムの拘束が(ゆる)む。

 ブルックは背中のゴーレムを振り回し、アールを押さえつけているゴーレム達にぶつけた。

 衝撃でゴーレム達はアールから引き剥がされる。


「あいたたた……。いや、もうちょっと丁寧に……お」


 自由になったアールに、ブルックが手を差し出す。

 無言のままだが、感謝とくすぐったい様な絆をアールは感じ取った。

 アールはしっかりとその手を握り、引き起こされる。


「ははっ……俺が助けに来たってのにな。サンキュー、ブルック」

「う、うん……ありが、と」


 互いに感謝を伝え合う。

 具体的に何がとは言わない、それはわざわざ言うまでもない。

 アールが先導し、2人は拠点の出口へと向かう。

 とは言え、拠点内部はブルックの方が詳しい、適時道を教えてもらいつつ城門へとひた走る。

 こうして兄弟はようやく、その歩む方向を同じくした。

想定外の援軍と、ブルックの奮起に状況は一気に好転する。

アールとブルックは更なる決定打を放つべく、一旦拠点の外を目指す。

是非次回もご覧下さいますよう、お願い申し上げます。

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