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第31話 戦後

過激派の襲撃は終わった、しかし村も被害を受けていた。

アール達は村の手伝いをすると共に、今後に関しても話し合いを行う。

そこで紫のグレイに対し、エミールはとある考えを口にする。

 過激派の強襲後、アール達は被害を受けた村の片付けを手伝った。

 鎧のでの瓦礫の撤去や物資の運搬、まさに父レクターが言っていた通りの、平和的な活用法である。

 一通り終え、ジョージャウの家で食事を振舞われつつ、互いに今後の為のやり取りを行う。

 グレイは自己修復ために眠ってしまった、眠っている方が少しは早く回復できるらしい。


「では奴等は、地上に進出し勢力を築くつもりだと? そうなれば、ここの直上のサークルは?」


 エミールはソル達の料理に舌鼓を打ちつつ、真剣な面持ちでジョージャウに質問した。

 ジョージャウの説明によると、過激派のソルの一団は、前族長のアビティオという者が率いているという。

 彼は地上人に異常な敵愾(てきがい)心を持ち、地上に進出し牙を剥くつもりだという。


「サークル? ここの上の村かね? ……まず最初の標的になってしまうじゃろうな、最もそれも今すぐというわけではないじゃろう。安心しなさい」

「それは、何か根拠があっての考えですか? 只の予想では流石に……」


 ジョージャウは、もぐら牛のスープを飲み干してエミールに答える。

 モールベアの本来の家畜としての形態であるもぐら牛。

 良質の肉と乳をソル達にもたらしている存在だ。


「奴等は鉱獣を主力に据えておるが、わし等が鉱獣を扱えるのは成人1人が同時に1体が限度じゃ。それも距離が無制限というわけでもない。奴等は何やらそれをどうにかしておるらしいが、まだそれも上手くいっておらん様子じゃったな」


 先程の戦いをエミールは思い返す。

 モールベアとゴーレムは数に任せて襲ってくるばかりで、動きは普段のものよりも単調であった。

 あれならば鎧が揃っているサークルにとって、大した脅威ではない。

 キマイラは一匹でも手を焼いたが、ジョージャウが言うには誰かが傍で補助をしていた可能性が高いという。

 しかし頭が3つのキマイラは、操作も量産も難しいとか。

 アビティオ達が獣の操作を大幅に改良させ、キマイラ級のものを量産するまではまだまだ時間が掛かる。

 ジョージャウはそう説明する。


「という訳で、まだ焦る段階ではない。しっかりと準備を整えて、周りと協力すればよかろう」


 言われてアール達は各々に考え出すが、それは少し難しいと思えた。

 サークルは複数の国家、貴族、有力者達の、表向きには共同出資の場である。

 しかし実際は街の開発一つ取っても競争ばかり。

 とても利害を一致させて力を合わせている、とは言えない。

 そういった事に疎いアールでさえも、上層の街の作りには強い(いびつ)さを感じている。

 仮に今、地上に敵対する勢力の存在を公開しても、あまり良い展開を期待することはできなかった。


「最悪の場合……。利権を目当てにアビティオ達と、一旦手を取る勢力等も出現するかもしれません。貴族達は、常にそういった隙を窺っています」


 貴族出身のサチェットから、貴族達は油断ならないと警告される。

 サークルが獣と初めて出会った時も、貴族達の独断での掘削が獣と鉢合わせを起こした。

 結果、貴族達は出資額の割りに、サークルでの利権をあまり握れていない。

 躍起になって、何をしてくるかは解らないと。

 エミールも続いて、サークルを取り巻く不安材料を口にした。


「姉さんが言っていたが、組合がサークルで幅を利かせているのを、快く思わない国も多いと。実際に獣が中層で出現した時も、組合を解体し直接国々が出張るという動きさえあったらしい」


 サラっとエミールは、ディガーがまとめて廃業しかねなかったという事を口にする。

 初耳のアールは当然として、どうやら知らなかったサチェットも顔を青くした。

 続けてエミールは、最近は貴族達が組合に介入する事が多くなったと付け加える。

 今組合にソルの事を相談すれば、確実に貴族達が知る事にも繋がる、と。

 サチェットは難しい顔をしつつ、自身の不甲斐なさを嘆く。


「私の武器が壊されていなければ、逃がす事も……。そういえば、なぜ獣には掘削道具しか効かないのでしょう? 通常の武器が使えるのであれば、もっと楽に……」


 アール達の視線がジョージャウに集中する。

 先程食事の用意を手伝っている時にも話題になっていた、『なぜ獣は普通の武器を寄せ付けないのか』と。

 獣の体は普通の武器は通じない、それは死体でも例外ではない。

 地上では獣の解体や廃棄でさえも、掘削道具が使われている。

 しかし今も食べている獣の肉を使った料理は、極普通の包丁で切り捌いた。

 実際にアール達もそれを行い、大いに頭を悩ませていた。

 ジョージャウは頭を掻きつつ、難しい顔で話し出す。


「恐らくじゃが……。アビティオ達は鉱獣を戦闘用として生まれさせる時に……手当たり次第に思いついた『概念』に対し抵抗を与えさせたのじゃろう」

「『概念』に対し、抵抗を……それは、どういう事でしょうか? 少々解りかねますが……」


 サチェットは真剣な顔で重ねてジョージャウに質問する。

 概念等と言われても、何となくは解る言葉だが、あまり身近なものでもない。

 ジョージャウは難しい顔をしている、あまり話したくはない事なのだろうか?

 しかし一つ頷いたように、意を決して説明を始める。


「まあお主等とは友好でありたい、隠し事は無しといくか……。この空間をどう思う? 余りに広くて大きかろう、不思議には思わなかったか?」


 この空間、ソル達の住処があるこの空間は、確かに地下にあって余りに異質である。

 縦にも横にも奥行きにも、余りに広く余りに整理されていた。

 まさに人口の空間、アール達もそれは不思議に思っている。


 ジョージャウは無造作に、()()()()()()()()()()()、余りにも自然に。

 自然すぎてアール達は不思議に思わなかったが、すぐにその異常に気付く。

 ここはジョージャウの家の中である、地面はしっかりと硬められている。

 アールも試してみるが、やはり硬く慣らされた地面は、ほんの少し表面を削れる程度であった。。

 ジョージャウはそれを確認して話を進める、マジックの種明かしをするように。


「わし等ソルは、地面をこう簡単に加工する事ができる。……恐らくは太古から地下に住みつき、自然とこんな能力を得たのじゃろう。……故にわし等は地面を掘るだの削るだのと言った事を、つい最近まで知らなかったのじゃ」


 アール達は目の前のソル達を、ちょっと見た目が違う地底の人達と考えていたが、それは大きな間違いだった。

 太古から地下に住むソル達はしっかりと、地上の人類と異なる進化を辿っていたという訳だ。

 エミールは興味津々にジョージャウの手を調べるが、特に目立って取り上げる点はない。

 腕を組んでから、エミールは難しい顔で話を整理する。


「ふーむ……。つまり、我々が水を掘るとか削るとかが解らない様に、ソル達も地面を掘るという事……。先程の話と併せれば、『掘削』という『概念』が無いという事か……」


 ジョージャウは手をぽんと叩いてエミールの話に乗っかる。

 どうやら、難しい顔をしていたのは説明に困っていたのもあるようだ。


「そういう事じゃ、わしはそれが言いたかったのじゃよ。わし等は鉱獣を作る時に、わし等にとって都合が良い様に作る。その時に活用するのは作り手の持っておる考え……『概念』なのじゃよ。……アビティオ達が戦闘用の鉱獣を作る時にも、『採掘』という『概念』をしっかり理解できてなかったのじゃな」


 言われてアール達は大きく息を吐いて理解しようとする。

 人は見かけによらないとは言うが、ソル達と自分達は見た目以上に差があったという訳だ。

 地下の人類はしっかりと地下で生活する為に、適応や能力の獲得をしていた。

 エミールは益々ソル達に興味を持ち、ミュースに協力を仰いでいる。

 アールは頭を抱えつつ、ここまでの話をまとめて所感を口にした。


「んー……地上で頼れるのがほんの一握りで、ソル達は俺達とは見た目よりも差があると? ……なら紫に普通の武器は、やっぱ効かないのかなあ」


 アールの脳裏には、紫のグレイが浮かんでいた。

 鎧ならば普通の武器が効くかと考え、次の戦いに専用の備えをすべきかと思案していた。

 しかし今の話を聞く限り、地下の産物の紫にはやはり無駄だろうと考える。

 紫のグレイを話題に出され、何か考え込んでいたミュースが口を開く。


「ちょっと良いかしら……? あの紫の鎧なんだけど。様子がおかしかった時……多分、私をじーって見てたのよ。私は目が合った様に感じたわ」


 紫と自身が目が合ったと、ミュースは明言する。

 確かに紫のグレイは、ジョージャウ達の出現と共に様子がおかしくなっていた。

 ミュースはそれが、自分が原因かもしれないと。

 皆がそれに首を傾げる中、とある『予想』を持っていたエミールは質問を飛ばす。


「ミュースは……過激派のソルの中に知り合い等はいるの? 昔親しかった人とか」

「顔見知り程度はいるけど、特別に仲が良かった人は誰も……。少なくとも私としてはね」


 エミールは続いてアールにも目を向ける。

 予想が当たっているのであれば、突破口にもなると考えて。


「アール、グレイの操縦だが……。私達の普通の鎧は、ある程度訓練が必要だが、グレイはどうだ?」

「グレイの操縦? 初めての時からずっと別に……自然に体を動かすのと同じで……。というか、普通の鎧って乗った事無いんだよなあ。サチェット、今度中に入れてくれよ」


 エミールはここまでの見知った情報を整理した。

 既に紫の鎧が、ジョージャウ達も初めて見たという事は聞いている。

 それどころか、ソル達は鎧を見るのもアール達の物が初めてだったと。

 ミュースから、レクターと平和に暮らしていた時にも、大きな鎧のグレイは知らなかったと聞いていた。

 エミールの自身の『予想』を決定づける為、最後の質問をミュースに投げ掛ける。


「ミュース、あくまで私の勝手な考えに基づいての質問だが……。生き別れた子供の、ブルックは今何歳になる?」

「あの子とは3つの時に別れて、今年で15になるわ……。それがどうし……。まさか、そういう事なの?」


 ミュースはそれきり押し黙る、何とも複雑な顔をしていた。

 喜び、悲しみ、疑問、複数の感情がミュースに湧き上がる。

 周りの皆も、今のやり取りでエミールの考えを察し、押し黙っていた。

 エミールは頭を掻き、少し考えた後に再び話し出す。


「まだ仮説の域を出んがな……。グレイの操縦が誰にでもできる簡易なもので、ブルックが15歳で、更にミュースと目が合って、様子がおかしくなったというだけだ。しかしあの紫がブルックならば、次の接し方によっては我々の味方につける事も可能だろう。それには……ミュースの協力が不可欠になるだろうが」


 エミールはチラっとミュースを見やる。

 ミュースはまだ動揺しながらも、力強く頷いてそれに応えた。

 自身の息子が、敵方で実際に戦っているかもしれないという仮説。

 それを突然突きつけ、更に説得を頼むなど、エミールとしても心苦しかった。

 エミールは深く頭を下げるが、ミュースは慌ててそれを押しとどめる。


「気にする事じゃないわ。(むし)ろ、私にとってはあの子と再会できるかもしれないんだから……。ありがとうエミール、機会があったら必ず私を使ってね」


 エミールもそれに力強く頷く。

 次の戦いでミュースに紫のグレイ、ブルックを説得させる。

 上手く行けばアビティオ達の戦力を大きく削ぎ、何よりも、ミュースとブルックを再会させられるのだから。

 ジョージャウはそれを見て胸を撫で下ろし、難しい顔をしているアールの肩を叩き笑いかけた。


「なーにを難しい顔をしておる、話はしっかりまとまったじゃろうが。お主等は次の戦いにしっかり備えるといいわい」

「いやあ……実際に俺達は、特に俺はタイマンもしたからさあ。ちょっと、申し訳ないなって……」


 ジョージャウはアールの返答に軽く溜息を吐く。

 しかしすぐに、背中を叩きながら再度笑いかける。


「ほっほっほ……つまりはただの兄弟喧嘩であろうが。わしは何とも大きな、孫同士の喧嘩を見せてもらえたわけじゃな。子供は喧嘩をしてなんぼじゃ、気にするでないわ」

「むぅ……なら、そういう事にしておくか。いやでも俺ってもう21なんだけど……。15の弟と喧嘩って……。いや、深く考えるのは止めとこう」


 食事を終え、話もあらかた済み、アール達は一旦地上へと戻る。

 過激派のソル、アビティオ達に対して、今後の対策を練る為に。

獣の特異性、ソル達との違い、アール達は多くの得がたき情報を得た。

更に不確定であるが、紫のグレイがアールの弟、ブルックであると考えたアール達。

それを踏まえた打ち合わせは、彼らにどんな未来をもたらすのか。

是非次回もご覧下さいますよう、お願い申し上げます。

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