第24話 地下
サチェットから全てを明かされたアール。
グレイも完治し、遂にギルドとして初仕事へと向かう。
しかし、アールは軽い気持ちで先日のゴーレムとの一件をエミールに話すと、事態は妙な方向へと展開していく。
ゴーレムの肩に何かが乗っていた、岩の後ろに忽然と消えてしまった、と。
ギルド『タルパズ』として初の活動は、アールの予想外の方向へと向かっていく。
地下 中層 アールがゴーレムと一騎打ちをした空間
エミールはとある岩を入念に調べている、何の変哲もないただの岩だ。
しかしどれだけ調べても何も出てこない。
アールはそれを、欠伸をしつつ見守っている。
「アールよ、本当にこの岩なんだな? ここに茶色い奴は消えていったと?」
「その筈だけど、いや何もないよな? ……もう良いんじゃないか? 戻って組合の仕事をさあ……」
エミールはアールに構わず、ひたすらに岩に執心している。
サチェットは何も言わずに、周囲の警戒を続けている。
アールは今朝組合前で、口を滑らせた事を後悔していた。
ギルド「タルパズ」の登録も済み、グレイも完治し、サチェットとの絆を深めたアール達。
早速組合の仕事を受け地下に行こうとしたが、それは後回しとなり再び中層を探索する事になっていた。
話は組合へ仕事を受けに行く直前、朝方に遡る。
上層街 組合前
「ゴーレムに……人らしき者? それは本当か? グレイも見たのか?」
「え? うん本当だけど……グレイも一緒に見たよな?」
「茶色いヒラヒラしたのを被ってたよ、岩の後ろに隠れた途端に消えちゃった」
アールが1人で倒したゴーレム、いきなり襲ってこなかったり人の様な物が乗っていたりと、妙な事が多かった。
何か知っているかもとエミールに尋ねるが、エミールは途端に黙りこくり、口に手を当てて考え込んでしまう。
「師匠。……まさかそれは……もしかしますか?」
「まだ解らん、が本当だとすれば……。仕事なんぞ受けとる暇はない、直ぐにそこへ行くぞ」
「へ? いや組合……目の前……」
エミールに引っ張られて、アールはハンガーへ連れて行かれる。
勿論、まだ組合の仕事を受けてはいない。
2人は鎧付きのフル装備で、アールがゴーレムと一騎打ちをした場所まで道案内させた。
「ふーむ、やはり表面には何もないか。……まあパっと見で解るのだとしたら、苦労もせんわな」
「俺の見間違い……だったとは思わないけど。もう良いんじゃないか? 何もないだろう?」
「私も一緒に見たけど……。ぁー映像記録とか、そんな機能ないのかしら?」
エミールはようやく諦めたのか岩から距離を取る。
組合の仕事をこなしたいアールは胸を撫で下ろした。
エミールは鎧に乗り込みツルハシを装備する、なぜ組合に戻るだけなのにツルハシを掴むのかとアールは首を傾げた。
「見て解らないならば。……こうするしかないな!」
ツルハシを振り下ろし、エミールは件の岩を豪快に破壊した。
アールとグレイは唖然としている。
破壊された岩に近寄ったエミールは顔を、いや鎧に乗っているので顔は判らないが、何やら鎧の中ではしゃいでいる。
「ぇーっと、エミール? その岩がどうかしたのか? まさか貴重な鉱石とか?」
「……くっふっふ。いやいやお前これは……ふっは、予想以上だ……。アールよ、名を上げたいお前にはまさに僥倖だぞ。見ろこれを……」
「見ろったって……。ただ派手に割られた岩の、ん?」
怪しいテンションのエミールに引きつつ割られた岩を覗き込むと、ゆるやかな階段のようなものが下へと続いている。
明らかに自然にできたものとは思えない質感だ。
「ぇ? ぇ? ……なにこれ? 地下ってなんか施設とかあんの? 組合の?」
「階段、だよねえ? なーにこれ?」
「そんなものは勿論ないぞ……。おーいサチェット! 見たか!? 見ろ! ワシの言った通りであろうが!!」
小躍りしつつエミールはサチェットを呼ぶ。
慌ててサチェットも駆け寄ってきて岩を覗き込むが、アール程は驚いていない。
「まさか本当に、あるとは……。おめでとうございます師匠。ですがまだ油断は」
「解っている、だからこそフル装備で来たのだ、このまま行くぞ。……戦闘を想定し前はサチェット、アールはグレイを着ておけ、後方はワシが……。いやワシが先に…………いや後方だ」
エミールは何やら唸りつつ降りていく順番を指示する、アールとグレイは置いてきぼりである。
ギルドマスターとしてこれはいけない、適切な説明を求めなければ。
「降りていくのは良いけど、ちゃんと説明してくれよ? ……これがエミールにとって、何なんだ?」
「うむうむ、しっかり説明してやるとも。……もはやこうなれば突拍子もないとは笑えぬだろう。降りながらにするとしよう、時間も惜しい」
サチェットを先頭に謎の階段を降りていく、直前までエミールは先頭を譲るのを悔やんでいた。
中は薄暗いが所々に明かりがあった、獣の発光物質がここにも塗られている。
「ほぉ……やはりここにも。ならばこれは……。つまり、奴らが? ワシの仮説とは……」
「そろそろ教えてくれよ、一体これは何なんだ? エミールは何か知ってるんだろ?」
ぶつぶつとしているエミールに説明を求める、一体この隠されていた階段は何なのかと。
「うむ、では順序立てて説明するとしようか。……ワシが地下の研究をしているというのは、何度も聞かせたな? それはまさにここに辿り着くためのものよ」
「ここ? ……この階段ってことか。これは一体なんなんだ?」
「まあまあ待て待て、順番に行くとしよう……。さてどこから話したものか……」
エミールはニヤけつつも話す内容を整理している。
サチェットは警戒しつつ下へ続く階段を先導している。
「まずは動機といこうか。ワシが地下の研究を始めたきっかけだな。……ワシがトゥーサトル出身だとは言ったな? そこの片田舎で生まれたが、赤ん坊の頃に何やら奇妙な事があったのよ。……正体不明の一団に村が襲われた」
「村が……。それは戦争か何かに巻き込まれて? もしくは盗賊とか?」
「いや、調べてみたが当時はそういう状況でもなかった。山賊等も村を襲える規模のものは、近くにはおらんかった。当時の現場に立ち会った人物からも、色々と話を聞いたよ」
生まれた村が襲われた。
悲しい過去だというのに、エミールの口ぶりからは哀愁等は感じられない。
淡々と、しかし興奮を抑え込んでいる風だった。
「ワシは方々に調べ色々な事が解った……。襲った奴等は急に現れて急に消えて行った。妙な地下への穴が、村の周辺のそこかしこに出来ていた。未知の鉱石の破片が僅かに落ちていた……。この鉱石が似ていたのだよ、サークルの獣の鉱石とな」
「え? ならエミールの赤ん坊の頃……20年以上前に、獣が?」
「アール。女の人の年齢はあんまり口にしない方が良いよ」
「誤解がない様に言っておくがワシは28だ、そこまで年はいっておらん」
獣はサークルで6年程前に確認されたのが、公式な記録では最初だった。
しかしエミールの話が本当だとすると、更に以前から獣は出現していた事になる。
「ワシは赤ん坊で当時の記憶は殆ど無い。……故に復讐心などは持っておらんが、興味は湧いてしまったのだよ。一体地下から来た奴等は何なのか? サークルに来て見かけるのは獣ばかりだったが、ワシは地下にも人類がおると踏んでおった……。そこへお前の証言だ、食いつかずにはおられんよ」
「人類? 地下に? いやいやそれは流石に……冗談、だよな?」
エミールの話は、流石に飛躍し過ぎであるとアールは思う。
地下から獣なら百歩譲って……無い事もないかもしれない。
しかし人類とは、幾らなんでも話が飛びすぎであった。
「ワシの村が襲われた件な、道具や何やらといった物が、壊されずに持ち去られていたのだよ。大量にな……。獣が人を襲うのは解る、実際に大勢人死にも出ていた。だが家財道具等を壊さずに奪うかね? そんな事をするのは同じ人間しかあるまい」
「ならそれこそ野盗が……あれ? 獣の鉱石があったっけ……なら野盗が獣を使って? いやいやそれは……。なら地下から獣と、何かが……?」
「村の襲撃に対応した兵達も、逃げる野盗等は確認できておらん。……まあ丸っきり人間かは解らぬが、獣と敵対せぬ何かが同時に来て、村を襲ったと考えるのが正しいだろうな。人かどうかは重要ではない」
獣は人を襲いはするが物や道具をどうこうしたりはしない、せいぜいゴーレムが武器を振り回す程度だ。
物や道具が壊されずに持ち去られたとするなら、何らかの知的生命体がいると考えるのが自然であろう。
「つまり、俺が見た茶色い奴がその地底人で、この階段はそいつらの作ったもの……? ダメだ頭がおかしくなる……」
「うーん……まだちょっと……。 私も半信半疑だなあ」
「だからこそ実際に足を運んで調べるのさ。……尤も、こんな階段があった時点で、地下には何か技術や文明を持つ存在がおるのは確実であろう」
確かに現実に、地下へ続く階段をアール達は下っている。
自然に出来たとは到底考えられない造りのものだ。
エミールはまたぶつぶつと独り言に戻る、説明は終わったという事のようだ。
階段は一定の傾斜で、一定のカーブで、一定の明かりで只管に下へと続いている。
どこまで続いているかまるで見当もつかない。
こんな所を一人で下っていては、気が狂うのではないだろうか。
「ん? ちょっと待て……。エミールは復讐心は無いって言ったけど、ならレティーさんは? あの人が組合で働いてるのは……」
「ん? あぁ、姉さんは……。ワシとはまた別の理由だよ。それは姉さん本人から聞くがよい。ちゃんとワシから話を聞いたと明かしてな、しかし」
「二人共、静かに……どうにも下に着いたようです」
サチェットに止められて口を噤む、階段の先が平坦な地面になっている。
より警戒しながら一歩ずつ降りていくと、先には重々しく大きな門扉が屹立していた。
「門ですね……しかし見張り等はいない。妙ですね」
「ふむ……門を開閉した後は有る。明かりも煌々としておる……。放棄された場所ではないようだ」
もはやアールとグレイは呆然としている、説明を受けたとはいえ完全に理解の外であった。
「ぇーっと……どうすんだ? 開けるのか? まさか、な……」
「ここで返っては何も意味が……。無い事は無いが、だが開けずに帰るなどありえぬ」
エミールは門に手を伸ばす、がビクともしない。
押したり引いたり、サチェットと一緒に色々やっているが門はウンともスンとも言わない。
一頻り試した後に唸り出した。
「どうなっておる……。確かに門が開いたそう古くない跡はあるというのに……。なぜだ? どこかに鍵穴か、取っ手か……或いは、何かが……?」
「師匠。こうなれば門を破壊してでも……最終手段ですが」
「壊して入るなんて、それこそ中に誰かいたらどうすんだよ! ここは一旦……」
アールはサチェットを止めようと、門との間に割って入る。
同時に、何か重い音が辺りに響き渡った。
門が独りでに動きだしている。
重々しく鈍い、地響きの様な音と共に、少しずつ開いていく。
3人は突然の事態に、黙って見守る事しかできない。
物語はいよいよ核心に迫っていく。
果たして、門の先には何が待つのか?
ここまで御覧頂き、まことにありがとうございます。
※こちらからは《メタ話、顔文字、ゆるい話等》となっております
※また、後書きは推敲を行っておりません、悪しからず
という訳で、アール達は謎の茶色い奴を追って隠された階段を下り、あからさまに怪しい門を発見するのでした。
物語はここからが本題となります。
同時にエミールの目的、なぜ地下を調べていたのか? その動機は? 等々も明らかになりました。
赤ん坊の頃に自身の村が、煙の様に現れた何かに襲われ、そして煙の様に消えていったと。
サチェットの様に復讐心ではなく「それはなんだったのか?」を純粋に興味で追い求めていたという事であります。
そんな所にアールから、地下で変な奴が煙の様に消えた等と食いつかないわけにはまいりません、アール君は連行されてお仕事はお預けってことです。
次回からは勝手に空いた門の先でのお話となります、自動ドアかな?
是非次回も御覧下さいますよう、御願い申し上げます。




